上 下
10 / 27
ヒースとの日々は驚きに満ち

6

しおりを挟む
「日が眩しいわね、ヒース」
 日傘を左手に、手鏡を右手に持ったアンナは目を細めた。 ヒースは王宮から出ると嬉しげに駆け回った。その二人の後ろにバルザックが控えめに着いてくる。
「ヒース、待って! もう! 困った犬!」
 アンナは言いながらも走る気配はない。マイペースに歩いて行く。緑の鮮やかな庭木が綺麗に刈られて通路を作っていた。昨日歩いた所を過ぎ、ヒースに着いて薔薇園へと進むアンナ。
 赤、ピンク、白、黄色、様々な色の薔薇が秩序ある配列で植えられている。
「毎朝この薔薇を私の部屋に持ってきてるのね」
 部屋で見る薔薇は薔薇で美しいが、陽の光を浴びて咲き誇る薔薇はたしかにそれ以上に美しく見えた。
「なんだかいい香り」
「そうでしょう。花には香りがあります。薔薇も種類によって香りが違うんですよ!」
 ヒースの言葉に「そうなの?」と興味を示したアンナは薔薇の花に近づいて行く。日傘が邪魔に思えてアンナがバルザックに預けると、
「姫、薔薇には棘がありますゆえ、お気をつけください」
 バルザックが言った。アンナは恐る恐る薔薇の花に鼻を埋めた。
「うーん、いい香りね。高貴でいて瑞々しい。こちらの白の薔薇はどうかしら」
 アンナはそれぞれの色の薔薇の香りを香っていく。
「あら、こちらは可愛らしい香りね。本当に香りが違うわ。それによく見ると花びらのつき方や葉の形も違うのね」
 ヒースは嬉しそうに頷く。バルザックは薔薇にそこまで興味はなかったが、アンナが楽しそうなのを見るとつい気になって同じように香りを嗅いでいた。
 アンナは手鏡に薔薇と自分を映してうっとりしている。
「綺麗な薔薇に囲まれたアンナ、やっぱり美しいわ」
 バルザックは、そんなアンナの幸せそうな笑顔に、自分まで幸せな気持ちになり驚いた。今まで見たアンナの笑顔とはどこか違う。この日のアンナが一番綺麗に見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

饕餮的童話集

饕餮
児童書・童話
泣ける童話、ほっこりする童話の置き場です。 更新はかなりゆっくりの、超不定期更新。

にゃんこによる、にゃんこの為の、にゃんこ講座

葉柚
児童書・童話
人間に可愛がってもらいたいにゃんこ達の可愛い奮闘。 どうしたら、可愛がってもらえるのか。 どうしたら、大切にしてもらえるのか。 にゃんこたちが必死に考え奮闘する話。

猫のモモタ

緒方宗谷
児童書・童話
モモタの出会う動物たちのお話。 毎月15日の更新です。 長編『モモタとママと虹の架け橋』が一番下にあります。完結済みです。

獣人ディックと赤ずきんちゃん

佐倉穂波
児童書・童話
「赤ずきん」の物語を読んでトラウマになった狼の獣人ディックと、ほんわかしてるけど行動力のある少女リリアの物語。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

王さまとなぞの手紙

村崎けい子
児童書・童話
 ある国の王さまのもとに、なぞの手紙が とどきました。  そこに書かれていた もんだいを かいけつしようと、王さまは、三人の大臣(だいじん)たちに それぞれ うえ木ばちをわたすことにしました。 「にじ色の花をさかせてほしい」と―― *本作は、ミステリー風の童話です。本文及び上記紹介文中の漢字は、主に小学二年生までに学習するもののみを使用しています(それ以外は初出の際に振り仮名付)。子どもに読みやすく、大人にも読み辛くならないよう、心がけたものです。

意味が分かると○○話

ゆーゆ
児童書・童話
すぐに読めちゃうショートショートストーリーズ! 意味が分かると、怖い話や、奇妙な話、時には感動ものまで?! 気軽に読んでみてね!

🦄西東童話 🌸1話完結、3分で読めるよ🌸

西東友一
児童書・童話
1話完結のちょっとひねくれた童話集。 どこか懐かしくて、どこか新鮮。 自分のことのように共感できて、サイコパスのように全く共感できない。 どこかおかしくて、どこか悲しい。 あなたは、こっち側かい?それとも・・・ お嬢ちゃんも、お坊ちゃんも見て行っとくれ。 年を食っちまった? お兄さんもお姉さんも取り繕ったって、昔から変わらないピュアな童心をお持ちだろ?

処理中です...