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遍路で食べたスイカの物語
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とても暑い夏に四国八十八ケ所を歩いていた。すでに歩き始め一月以上となる。
一時は、足のマメがひどく、歩行に支障をきたしていたのだが民宿のおじさんにもらったバンドエイドの靴擦れパッドのおかげでなんとか歩き続けることができていた。
これを貼るとマメの水がパッドに移行し、マメの破裂を未然に防ぐことができるのだ。
四国八十八ヶ所千二百kmを歩くには、六十日程度かかるとガイドブックにはある。
体力と気力に加え、靴擦れとどのように向き合うかも大切なポイントなのだ。
昨日は六十五番の三角寺を参拝し,納経をいただく。
その寺を参拝した証しとして、お寺から梵字と朱印を納経帳にいただくと、きちんとした何かを感じるのだ。
混沌の時を過ぎ、結願までを具体的に考えられるようになってきているものの、八月の炎天下からの疲労で身体が痺れている。
西島慎太郎は大学院の修士課程に在籍しているが教授との折り合いが悪く、さらに研究室の同期学生とも打ち解けることのない存在であった。この先の自分に、不確かな何かを感じており、何かに誘われように四国を歩くこととなる。
六十六番の雲辺寺までは、今日中には着けそうにない。炎天下の中、額の汗を拭うのが億劫で、あごから滴る汗を数えながら足を引きずるように一歩ずつ前に進めなければならなかった。
マメが破れると厄介なので、その前に靴擦れパッドを貼らなければならない。宿についたら処置しようと決めていた。
山道からアスファルトの国道に出ると体感温度はさらに増し、熱風を吸うと胸が熱くなり息苦しさは増す。咽の渇きは増すばかりで、すでに今朝コンビニで買ったポカリスェットは飲み尽くしていた。
歩く規律を自分に課するため百歩進んでは数回深呼吸を繰り返すが、ワンストロークは八十歩となり六十歩にまで低下していた。
その時、前からオート三輪車が近づいてくるのが見えた。慎太郎の十メートルほど手前で急停車し、運転席から農夫と思われる八十歳近くの老人が現れた。
荷台からスイカを取り出し道路に叩きつけ、スイカは見事に割れた。老人は割れたスイカを掴み慎太郎のところへ持ってきた。
「食え、食わねえと、この暑さでやられるから。いいから食え」
「そんな、申し訳ない」
「いいから食え、食わねえと、お大師様に申し訳が立たねえんだ」
「つべこべ言わねえで、もう割っちまったんだから食ってくれ」
慎太郎は老人から割れたスイカを受け取り、一口しゃぶりついた。おそらく畑からとったばかりなのだろう、冷たくはないが、甘くどこまでもみずみずしい。口の中でスイカが“シャクシャク”と音を立てている。
「うまい、ありがとうございます。生き返るようだ」
老人は少し照れ臭さの中に安堵の顔色を浮かべ・・・
「気をつけて行け」と言い残しオート三輪で立ち去った。慎太郎は喉の渇きを癒すことができたと同時に老人の暖かな心遣いが自分の中を満たしていくように感じた。スイカを食べ終え、再び歩く活力を取り戻し歩き始め、本日宿泊予定の民宿へと向かった。
「こんにちは予約した西島です」
中から四十歳前後の女将さんが桶とタオルを手に現れた。
「ようこそお疲れだったね。この暑さで、よう歩きなさった。まずは、この桶に足を入れ洗いなされ、疲れが取れますから」
慎太郎はマメのできたところに触れないようそっと靴下を脱ぎ、足を桶に入れた。痺れた足を桶の中でもみほぐすと、足の疲れが心地よさに変わっていくのを感じた。炎天下の日差しも夕方になり弱まり、山風が吹くのを心地よく感じることができた。
部屋で浴衣に着替え、風呂に入る。風呂で足にできたマメを見ると、まだ破けておらず寝る前に靴ずれパッドを貼れば大丈夫そうに思えた。風呂から出ると、冷えた缶ビールを一本飲んだ。今日一日で流した汗の量からするととても足りそうにはないのだが、とりあえず咽の渇きを癒すことはできる。もう一本ビールを飲みたかったが酔いと疲れで心地よい軽い眠りが訪れた。
「西島さん晩ご飯できましたよ」と女将さんの声で目を覚ました。
「はい、すぐに伺います」
食堂に行くと三十歳前後の細身の女性が慎太郎のお膳の正面に座っていた。
髪はショートにまとめられ、目元がキリリとしており、知性的な美人とも言える風貌をしている。
「お疲れ様です、今日は暑くて大変だったでしょう」と慎太郎が声をかけると、女性は少しはにかむように
「ええ本当に暑かったです。でも、この暑さを歩いていると余計なこと考えないで済むから気持ちがスッキリしました」躊躇いがちな言葉で少し微笑んだ。
「僕は通しで歩いていますが、あなたも通しでお歩きですか」
「いいえ私は区切りです。仕事があるのでまとまっては歩くことができません。今回も夏休みで明日東京に帰ります」
そんなことを話していると、おかみさんが、ご飯と味噌汁を運んできた。
御菜は鰆の焼き物、茄子と筍の天ぷら、ポテトサラダに胡瓜の漬物に青紫蘇がたっぷりとかかっている。味噌汁には豆腐とミョウガがたくさん入っており、麹が醸す優しい香りがした。御馳走に心が踊る。
慎太郎はビールを女将さんに注文する。
「アサヒの中瓶だけど良いですか」
「お願いします」細身の女性も
「私にもビールお願いします」
「二人とも、この暑さの中、よう歩きなさったね。夏に遍路を歩く人は少ないけど、今年は特に暑いから少なくてね。たくさんお食べになって頑張って、きっと良いことがあるからね」
女将さんは遍路には色んな人が来ること。
いい人もくれば、結構欲深い人も来るらしい、女将さん曰く、欲深い人のほうが圧倒的に多いらしい。それにまつわるエピソードやら弘法大師の逸話などを聞かせてくれる。こうして遍路に来る人たちの世話をできることがありがたいのだと言う。慎太郎が老人から西瓜をもらった話をすると女将さんは同行二人について説明をしてくれた。遍路を歩く人は弘法大師と一緒に歩いていることになっているらしい。
だから老人はスイカを慎太郎にくれたと言うより、弘法大師に差し上げたことかもしれないと。
すると、細身の女性が
「私、今日歩いていると後ろから車が通り過ぎ、急停車して中から五十歳位の女性が出てきて、私に五千円札を渡され、私のことを拝んで行ったんです。わけがわからなかったんですけれど、同じことかしら。同行二人で弘法大師にお供えした・・・」
女将さんは微笑みながら・・・
「そうかもしれないわね。でも、きっとあなたがたの歩く姿に何か惹かれるものがあったのかもしれないわね。だって遍路しているからといって誰にでもお金をくれたり、スイカをくれたりはしませんよ。何か、いい前触れかもしれないわよ」
「だと、いいのだけれど。最近、少し、前向きになれなくて。僕は学生ですが周りの人たちと何かしっくりと行かなくて・・・」と慎太郎がいうと細身の女性は下を向き、小さく深呼吸をした。
「あなたたち二人、どこか似ているところがおありかもしれませんね、けして悪い意味ではなくて・・・
気を悪くしないでね、明日の準備があるので、台所に戻りますけど、何か用事があったら、お声かけくださいね」そう言って女将さんはいなくなった。
しばらく沈黙があり細身の女性は
「前向きになれないのですか?」
「なんか自分は、周りの人と違うようで疎外感があったりして・・・」
「そうは見えないけど、私からはとても話しやすい方のように見えます」
再びしばらくの沈黙。
「私、結婚して三年目ですけど、彼が浮気しているんです。もしかすると私に原因があるのかもしれない・・・」
少し長い沈黙が訪れた。
「彼に浮気しているのかを問い詰めることもできないし、離婚を申し出ることもできない。どうしたら良いのか、
よくわからなくて・・・
一つだけ自分なりにはっきりしているのは。私、彼のことを愛しているの・・・」かなり長い沈黙が二人を包んた。
慎太郎は何か話さなければならないと考えていたが、ふっと何かが訪れた。
「僕は恋愛経験すらほとんどないので偉そうなことは、とても言えないのですけど、時間をかけたほうが良いのかもしれない。
待つことができるなら今の状態が変化していくこともあるかなと・・・
必ずしも今、あなたが求めている結果になるのかはなんとも言えませんが、その状態の変化は全体では良い方向に変化しているようにも思います。問題は待ち方と言うか、苦しみの中で待つことができるのかということかもしれません。今日一日暑さの中を歩いたけどスイカを食べさせてくれた老人に巡りあいました。スイカだけでなく、何かを与えてくれたように感じました。それって求めて与えられるものではないですよね。自分の意志とは全く別の動きがあるのかもしれないと思いました。偶然と捉えてしまえば、それだけのことです。ただ偶然ではなく何か見えない動きというか流れみたいなものがあって。それを引き寄せるには、きちんと待つことかもしれません」
「きちんと待つ?」
「そう、きちんと待つことができれば、きちんと収まるところに収まるように思います。うまく説明できないのですけど」
「ふーん深い考えね。例えば今こうして、あなたとふたりで話していることもきちんと収まった結果の一つかもしれないということ?」
「そうです、そんなことかもしれない」
今度は少しだけ沈黙があり、
「なんか私、少し元気になったような気がするの、きちんと待ってみようかしら、ありがとう。
あなた、とても深い考え方をしているのね。なんか周りの学生さんたちとは、それでは合わないのかもしれないけど、それはあなたのせいじゃないと思う」
沈黙は風とともに去り、慎太郎は少し微笑んだ。
「なるほど。僕も、なんだか元気をもらいました、ありがとうございます」と言い、残りのビールを飲み干した。
慎太郎は四国の旅に来て良かったのだと思った。
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一時は、足のマメがひどく、歩行に支障をきたしていたのだが民宿のおじさんにもらったバンドエイドの靴擦れパッドのおかげでなんとか歩き続けることができていた。
これを貼るとマメの水がパッドに移行し、マメの破裂を未然に防ぐことができるのだ。
四国八十八ヶ所千二百kmを歩くには、六十日程度かかるとガイドブックにはある。
体力と気力に加え、靴擦れとどのように向き合うかも大切なポイントなのだ。
昨日は六十五番の三角寺を参拝し,納経をいただく。
その寺を参拝した証しとして、お寺から梵字と朱印を納経帳にいただくと、きちんとした何かを感じるのだ。
混沌の時を過ぎ、結願までを具体的に考えられるようになってきているものの、八月の炎天下からの疲労で身体が痺れている。
西島慎太郎は大学院の修士課程に在籍しているが教授との折り合いが悪く、さらに研究室の同期学生とも打ち解けることのない存在であった。この先の自分に、不確かな何かを感じており、何かに誘われように四国を歩くこととなる。
六十六番の雲辺寺までは、今日中には着けそうにない。炎天下の中、額の汗を拭うのが億劫で、あごから滴る汗を数えながら足を引きずるように一歩ずつ前に進めなければならなかった。
マメが破れると厄介なので、その前に靴擦れパッドを貼らなければならない。宿についたら処置しようと決めていた。
山道からアスファルトの国道に出ると体感温度はさらに増し、熱風を吸うと胸が熱くなり息苦しさは増す。咽の渇きは増すばかりで、すでに今朝コンビニで買ったポカリスェットは飲み尽くしていた。
歩く規律を自分に課するため百歩進んでは数回深呼吸を繰り返すが、ワンストロークは八十歩となり六十歩にまで低下していた。
その時、前からオート三輪車が近づいてくるのが見えた。慎太郎の十メートルほど手前で急停車し、運転席から農夫と思われる八十歳近くの老人が現れた。
荷台からスイカを取り出し道路に叩きつけ、スイカは見事に割れた。老人は割れたスイカを掴み慎太郎のところへ持ってきた。
「食え、食わねえと、この暑さでやられるから。いいから食え」
「そんな、申し訳ない」
「いいから食え、食わねえと、お大師様に申し訳が立たねえんだ」
「つべこべ言わねえで、もう割っちまったんだから食ってくれ」
慎太郎は老人から割れたスイカを受け取り、一口しゃぶりついた。おそらく畑からとったばかりなのだろう、冷たくはないが、甘くどこまでもみずみずしい。口の中でスイカが“シャクシャク”と音を立てている。
「うまい、ありがとうございます。生き返るようだ」
老人は少し照れ臭さの中に安堵の顔色を浮かべ・・・
「気をつけて行け」と言い残しオート三輪で立ち去った。慎太郎は喉の渇きを癒すことができたと同時に老人の暖かな心遣いが自分の中を満たしていくように感じた。スイカを食べ終え、再び歩く活力を取り戻し歩き始め、本日宿泊予定の民宿へと向かった。
「こんにちは予約した西島です」
中から四十歳前後の女将さんが桶とタオルを手に現れた。
「ようこそお疲れだったね。この暑さで、よう歩きなさった。まずは、この桶に足を入れ洗いなされ、疲れが取れますから」
慎太郎はマメのできたところに触れないようそっと靴下を脱ぎ、足を桶に入れた。痺れた足を桶の中でもみほぐすと、足の疲れが心地よさに変わっていくのを感じた。炎天下の日差しも夕方になり弱まり、山風が吹くのを心地よく感じることができた。
部屋で浴衣に着替え、風呂に入る。風呂で足にできたマメを見ると、まだ破けておらず寝る前に靴ずれパッドを貼れば大丈夫そうに思えた。風呂から出ると、冷えた缶ビールを一本飲んだ。今日一日で流した汗の量からするととても足りそうにはないのだが、とりあえず咽の渇きを癒すことはできる。もう一本ビールを飲みたかったが酔いと疲れで心地よい軽い眠りが訪れた。
「西島さん晩ご飯できましたよ」と女将さんの声で目を覚ました。
「はい、すぐに伺います」
食堂に行くと三十歳前後の細身の女性が慎太郎のお膳の正面に座っていた。
髪はショートにまとめられ、目元がキリリとしており、知性的な美人とも言える風貌をしている。
「お疲れ様です、今日は暑くて大変だったでしょう」と慎太郎が声をかけると、女性は少しはにかむように
「ええ本当に暑かったです。でも、この暑さを歩いていると余計なこと考えないで済むから気持ちがスッキリしました」躊躇いがちな言葉で少し微笑んだ。
「僕は通しで歩いていますが、あなたも通しでお歩きですか」
「いいえ私は区切りです。仕事があるのでまとまっては歩くことができません。今回も夏休みで明日東京に帰ります」
そんなことを話していると、おかみさんが、ご飯と味噌汁を運んできた。
御菜は鰆の焼き物、茄子と筍の天ぷら、ポテトサラダに胡瓜の漬物に青紫蘇がたっぷりとかかっている。味噌汁には豆腐とミョウガがたくさん入っており、麹が醸す優しい香りがした。御馳走に心が踊る。
慎太郎はビールを女将さんに注文する。
「アサヒの中瓶だけど良いですか」
「お願いします」細身の女性も
「私にもビールお願いします」
「二人とも、この暑さの中、よう歩きなさったね。夏に遍路を歩く人は少ないけど、今年は特に暑いから少なくてね。たくさんお食べになって頑張って、きっと良いことがあるからね」
女将さんは遍路には色んな人が来ること。
いい人もくれば、結構欲深い人も来るらしい、女将さん曰く、欲深い人のほうが圧倒的に多いらしい。それにまつわるエピソードやら弘法大師の逸話などを聞かせてくれる。こうして遍路に来る人たちの世話をできることがありがたいのだと言う。慎太郎が老人から西瓜をもらった話をすると女将さんは同行二人について説明をしてくれた。遍路を歩く人は弘法大師と一緒に歩いていることになっているらしい。
だから老人はスイカを慎太郎にくれたと言うより、弘法大師に差し上げたことかもしれないと。
すると、細身の女性が
「私、今日歩いていると後ろから車が通り過ぎ、急停車して中から五十歳位の女性が出てきて、私に五千円札を渡され、私のことを拝んで行ったんです。わけがわからなかったんですけれど、同じことかしら。同行二人で弘法大師にお供えした・・・」
女将さんは微笑みながら・・・
「そうかもしれないわね。でも、きっとあなたがたの歩く姿に何か惹かれるものがあったのかもしれないわね。だって遍路しているからといって誰にでもお金をくれたり、スイカをくれたりはしませんよ。何か、いい前触れかもしれないわよ」
「だと、いいのだけれど。最近、少し、前向きになれなくて。僕は学生ですが周りの人たちと何かしっくりと行かなくて・・・」と慎太郎がいうと細身の女性は下を向き、小さく深呼吸をした。
「あなたたち二人、どこか似ているところがおありかもしれませんね、けして悪い意味ではなくて・・・
気を悪くしないでね、明日の準備があるので、台所に戻りますけど、何か用事があったら、お声かけくださいね」そう言って女将さんはいなくなった。
しばらく沈黙があり細身の女性は
「前向きになれないのですか?」
「なんか自分は、周りの人と違うようで疎外感があったりして・・・」
「そうは見えないけど、私からはとても話しやすい方のように見えます」
再びしばらくの沈黙。
「私、結婚して三年目ですけど、彼が浮気しているんです。もしかすると私に原因があるのかもしれない・・・」
少し長い沈黙が訪れた。
「彼に浮気しているのかを問い詰めることもできないし、離婚を申し出ることもできない。どうしたら良いのか、
よくわからなくて・・・
一つだけ自分なりにはっきりしているのは。私、彼のことを愛しているの・・・」かなり長い沈黙が二人を包んた。
慎太郎は何か話さなければならないと考えていたが、ふっと何かが訪れた。
「僕は恋愛経験すらほとんどないので偉そうなことは、とても言えないのですけど、時間をかけたほうが良いのかもしれない。
待つことができるなら今の状態が変化していくこともあるかなと・・・
必ずしも今、あなたが求めている結果になるのかはなんとも言えませんが、その状態の変化は全体では良い方向に変化しているようにも思います。問題は待ち方と言うか、苦しみの中で待つことができるのかということかもしれません。今日一日暑さの中を歩いたけどスイカを食べさせてくれた老人に巡りあいました。スイカだけでなく、何かを与えてくれたように感じました。それって求めて与えられるものではないですよね。自分の意志とは全く別の動きがあるのかもしれないと思いました。偶然と捉えてしまえば、それだけのことです。ただ偶然ではなく何か見えない動きというか流れみたいなものがあって。それを引き寄せるには、きちんと待つことかもしれません」
「きちんと待つ?」
「そう、きちんと待つことができれば、きちんと収まるところに収まるように思います。うまく説明できないのですけど」
「ふーん深い考えね。例えば今こうして、あなたとふたりで話していることもきちんと収まった結果の一つかもしれないということ?」
「そうです、そんなことかもしれない」
今度は少しだけ沈黙があり、
「なんか私、少し元気になったような気がするの、きちんと待ってみようかしら、ありがとう。
あなた、とても深い考え方をしているのね。なんか周りの学生さんたちとは、それでは合わないのかもしれないけど、それはあなたのせいじゃないと思う」
沈黙は風とともに去り、慎太郎は少し微笑んだ。
「なるほど。僕も、なんだか元気をもらいました、ありがとうございます」と言い、残りのビールを飲み干した。
慎太郎は四国の旅に来て良かったのだと思った。
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