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一部
怪談同好会 七不思議検証記録
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我々怪談同好会は、三年前にこの世に生を受けた。物好きの集まりと揶揄されながらもその志は高く、ただ毎日直向きに研鑽を続けた。この研鑽とは、怪談を調べることであったり、創作することであったり、語ることであったり様々である。運動部や吹奏楽部、合唱部などとの違いがどこにあると言うのか、私には分からない。私は怪談同好会が部として認められるために尽くしてきたが、残念ながらそれが身を結ぶことは無かった。
[中略]
私は来年の三月にこの学校を卒業する。ただこのままこの学校から去るのは、どうしても腹に据えかねるのだ。私は会長として、散々怪談同好会を馬鹿にしてくれた教師や生徒連中に怪談同好会を少しでも認めさせなければならない。
[中略]
だから私は、この学校の七不思議を全て検証し、その過程を記録し、公開することにした。我々怪談同好会のメンバー三人と、軽音部に所属している霊感持ちの親友が協力してくれることになっている。彼は快く引き受けてくれた。心優しい親友を持てて、私は本当に嬉しい。
近日中に、手を出しやすいところから検証を始めたいと思う。
この記録が、怪談同好会の益々の発展の一助となることを願って。
二〇〇×年 十二月十一日 怪談同好会会長 井塚深澄
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二〇〇×年 十二月十二日
本格的な検証に入る前に、今回のメンバーと七不思議の概要を纏めておこうと思う。
井塚深澄(怪談同好会会長 三年A組)
三石秋(怪談同好会 二年C組)
加賀千種(怪談同好会 二年B組)
御子柴晴(軽音部 三年B組)
以上の四名で検証を行う。夜の学校に忍び込むこともあるだろうから、生徒会役員である加賀の協力が確約されたのは有り難い。彼女ならば適当な言い訳をつけて、全く警戒されずに職員室から鍵を持ち出すことが出来るだろう。
私と晴はどちらも大学受験を控えている身だが、晴には勉学の妨げにならない程度に協力して貰おうと思う。
検証する七不思議と、それに付随するある噂を以下に記しておく。
一、深夜ひとりでに鳴るピアノ
二、放送室の女
三、ロッカーの赤ちゃん
四、死に顔が映る鏡
五、繰り返す四階
六、間取り図にしか無い部屋
七、残りの一つは、誰も知らない
噂についてだが、これらの校内に伝わる七不思議の現場には、必ず鏡がある。それを全て叩き割ると、鏡に映っていた人間の願いが叶うという内容だ。
未だ中身の分からない七話目に関しても、検証と併せて調査していきたいと思う。加賀が資料室の鍵を押さえておいてくれた。何か分からないことがあれば、あそこを検めるのも一興かもしれない。
今年の春先には一年の廊下にアレが出た。アレが出た年度は怪異の当たり年になるとも言うし、実り多い日々になることを祈っている。
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二〇〇×年 十二月十三日
昨日の今日だが、早速進展があった。
放送室の女が出たのだ。
昼食中、突然教室のスピーカーが歪な音を立てた。放送室か、あるいは職員室からの放送だろうと皆は喋りながら聞き耳を立てていたが、スピーカーの向こうにいる筈の人間は、いつまで経っても何も喋らない。
話の内容を忘れたか、あるいは機器の故障だろう。私はそう考えて、食事を再開しようとした。
その時だ。スピーカーから微かに女の声が聞こえる。最初は切れ端のようだったその声が、やがて歌になった。
子守唄だ。
私は教室を飛び出して、放送室へと向かった。放送室の扉は開いていて、中から何かが割れるような凄い音がした。
私が放送室に入ると、そこには晴と加賀が立っていた。加賀の手には家から持ち込んだらしいバールが握られていて、床には粉々になった鏡の破片が散らばっていた。
程なくして鏡が割れた音を聞きつけたらしい教師が駆けつけると、加賀はバールを棚の影に隠して、変な放送が聞こえたので悪戯かと思い来てみると鏡が割れていたのだと、さも怯えたような顔で言った。迫真の演技だった。教師は彼女を信用し、鏡の破片を片付けるから教室に戻れと言った。
人気の無い場所で二人の話を聞くと、あの放送を聞きつけて最初に駆けつけたのは晴だったと言う。その直後に加賀が来て、二人は鍵の開いた放送室に入った。
晴曰く、中には確かに女がいた。全身が水浸しで、その皮膚は長時間風呂に入った後のようにふやけていた。女はその腕に赤ん坊を抱いているようで、身体をゆらゆらと動かしながら子守唄を歌っていたのだと言う。放送で聞こえたのは、恐らくその女の声だ。
しかし加賀にはその姿は見えない。彼女は放送室の壁に掛けられた鏡を見つけると、そこに向かって迷うことなくバールを振り上げた。そこで私が入室したと言う訳だ。
加賀にその理由を聞くと、七不思議の現場にある鏡を全て叩き割ると願いが叶うと言う噂が本当か確かめたいとのことだった。彼女は晴と同じクラスの栗原と言う吹奏楽部の男を好いているらしく、栗原と恋仲になりたい、と言うのが願いらしい。特に邪魔になることはなさそうなので、放っておくことにする。
私が放送室の女を目にすることは叶わなかったが、一人でも体験者がいるならば問題無い。
一人に一つを振り分けてみるのもいいかも知れない。早速今日の放課後、皆に相談してみよう。
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二〇〇×年 十二月十五日 三石秋
井塚さんから言われて、今日は僕が書くことになりました。少なくとも一人一つ七不思議を検証することになるので、交換日記みたいにして記録していくそうです。僕は井塚さんみたいに文章が上手じゃないので、変なところがあったらごめんなさい。
本当は僕が一人でピアノの噂を検証するはずだったんですけど、どうしても怖かったので、千種ちゃんと御子柴先輩について来てもらうことにしました。千種ちゃんはピアノがどうとかよりも、鏡を割りたいからと言っていました。御子柴先輩は、お願いしたらついてきてくれました。軽音部って怖いイメージがあったんですけど、優しい人で良かったです。井塚さんは塾があって来れませんでした。
完全下校の後、御子柴先輩は僕と千種ちゃんを第二視聴覚室に匿ってくれました。その日は軽音部の活動はお休みだそうで、誰もいませんでした。そのまま、夜中の二時になるまでそこで過ごしました。
深夜二時頃、僕は二人と一緒に第二視聴覚室を出ました。
噂になっているピアノは二階の第一音楽室にあります。夜中、第一音楽室のピアノがひとりでにエリーゼのためにを奏で始める、ただそれだけ。聞いたらどうとか、そういう話もありません。僕に割り当てられたのがこれだったのは、少しラッキーだったかもと思いながら、第一音楽室に向かいます。
遠くの方からピアノの音が聞こえました。それは第一音楽室に近付くにつれてどんどんはっきりしてきます。エリーゼのために、あの冒頭の部分を、延々と繰り返していました。
中を覗いても真っ暗で、何も見えません。千種ちゃんがドアを開けて電気を点けます。
やっぱり、中には誰もいませんでした。霊感があると言う御子柴先輩も、何も言いません。千種ちゃんは第一音楽室の中にあった鏡をバールで割ると、さっさとその破片を片付けていました。これがバレて、先生に怒られたりしないかが心配です。
結局ピアノの音は聞こえたけど、第一音楽室には何もありませんでした。今僕は早朝の教室でこれを書いています。もう少し何かが起こったほうが面白いんだろうけど、本当に何もなかったんです。
さっきからずっと、ピアノの音が聞こえます。合唱部が練習でもしてるのかなあ。
全然怖くなくてごめんなさい、これで終わりです。
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200×年 12月18日 加賀千種
こんにちは!加賀千種ですー
今回はあたしの番でした!本当はひとりいっこって話だったんですけど、夜中に学校来るのがめんどくさいので、一気に2個やっちゃおうって思いました!井塚会長にはちゃんと許可は取ってますので、安心してお読みくださいねー!(?)
あたしが検証したのは、ロッカーの赤ちゃん、死に顔が映る鏡の2つです!別に夜中じゃなくても良かったんですけど、多分夜中の方が雰囲気出るし、人もいないのでこの時間にしました⭐︎
本当は秋くんも誘おうと思ったんですけど、一昨日早退してからずっと休んでるみたい
具合でも悪いのかなあ…
ロッカーの赤ちゃんは、体育館の封鎖された倉庫Bにまつわるお話です
その中にあるロッカーの中から、赤ん坊の泣き声が聞こえる。ある夏、妊娠した女子生徒がそのロッカーの中に産んだ赤ん坊を放置した。夏休みの間中ずっと放置された赤ん坊は、今もなお母親を探して泣いている。
って言う話です!かわいそう…
結論から言うと、何もありませんでしたー
倉庫B、いつもは鍵か掛かってるので、どうせ今日もそうだろうと思って体育館に行ったら!
なんと!開いてたんです!ラッキー⭐︎
中はやっぱり埃っぽくて、電気を点けても薄暗くて、何か人の気配がするし、ちょっと怖いな、なんて思いましたー
倉庫の一番奥にそれらしいロッカーがあったので開けてみたんですけど、別に普通のロッカーでしたー
赤ちゃんもいなかったし、ただ雰囲気が不気味ってだけでした
やっぱり七不思議なんてただの噂なんですかねー
その倉庫の中にも鏡があったんで、それはちゃんと割ってきました⭐︎恋する女の子は強いので、何でもできちゃうのです!(笑)
使われてない倉庫だから破片もそのままにしてきちゃったけど、大丈夫ですよねー
鏡割る時何か映った気がしたけど、きっと気のせいです!
死に顔が映る鏡は職員室の前にずっと置かれてる姿見で、いっつもかわいい布で隠されています
何で使わないのに置いくんだって思うんですけど、これってあたしだけじゃないですよね?
それも見に行きました!
布を取ってみたんですけど、これもフツーのかがみでしたー会長がこれは本物みたいなこと言っててちょっと怖かっですけど何か拍子抜けです
それて、鏡を割ろうと思ったら人の足音がしたで、あわて 教室まで逃げてきちゃいました!そこでこれをかいていますー
後でわりにいかなきゃな あ
あの
さっきからせふくかぬ れてるみたいに冷たくて、手がふるえます
雨もり してるのかな
よみにくかつたら ごめんなさ い
あかちゃんの声きこえるいる
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十二月十九日
加賀がいなくなった。
昨日の夜、私に二つの七不思議の検証を始める旨の電話を掛けてきて以降、彼女と連絡が取れない。両親が警察に通報したらしく、学校にも数人の警官が来た。私も事情を聞かれたが、何も知らないと答えた。勿論この日誌のことは言っていない。この日誌は、二年B組に落ちていた。加賀を心配して朝早くに登校した三石が見つけて回収しておいてくれた。
この日誌のことは、関係者以外の誰にも知られてはならない。三石にも晴にも、口止めをしておく。
また、検証は継続すること。
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十二月十九日 御子柴晴
七不思議の間取り図にしかない部屋について、少し分かったことがあるので、手短に纏めます。
二・三年生の昇降口近くの階段に、不自然に広いスペースと、そこだけ壁の色が薄い場所があります。噂では、時々その壁の奥から叩くような音や引っ掻くような音、猫の鳴き声が聞こえる、と言う話でした。校舎を建てるときに建設現場に猫が迷い込んでそのまま埋められてしまい、その猫はいまだに出口を探して彷徨っている、と言う話です。
俺もこの学校に入学してから今までの間に、何度もその音と声を聞きました。にゃあにゃあと鳴く声を聞くたびに、猫たちが成仏出来るよう願ったものです。
でも、そうじゃなかった。
どうして気が付かなかったのか、自分でも分かりません。先入観というのは、本当に恐ろしいものです。
あれは猫の鳴き声なんかじゃありません。
大勢の子供が泣き叫ぶ声です。
加賀さんが独自に行っていた願い事に関する検証は、俺が引き継ぐことにします。
以上です。
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十二月二十一日
ここにこんなことを書くのもおかしいかもしれないし、晴に見られるかもしれないが、心配しているんだと言うことで許して欲しい。
最近、晴の様子がおかしい。妙に元気が無いというか、常に何かに疲れているようだ。彼とは高校生活の殆どを共に過ごしたが、あんな状態の晴を見るのは初めてだった。大学に進むと言っていたから、受験勉強に疲れてしまったのだろうか?
それとなく彼と同じ部活の高山に聞いてみると、どうやらクラスで無視されたり、仲間外れにされたりしているらしいと聞かせてくれた。ここ最近の話なようだ。
全く気が付かなかった。いつの時代にも、そういう下らないことをする連中はいる。晴は近年稀に見る人格者で、成績も良い。そこをやっかんでいるに違いないのだ。
しかし、晴が加賀の鏡に関する検証を引き継いだのは意外だった。あいつにも何か叶えたい願いがあるのだろうか。
後で聞いてみることにする。
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十二月二十一日 三石
僕分かりました。千種ちゃんがどこにいるのか。
千種ちゃんは四階にいます。メールが届いたんです。寂しいから助けて、って。栗原先輩じゃなくて僕に来たんです。メールが。
写真付きでした。
元気そうでしたよ、千種ちゃん。
これから迎えに行ってきます。
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十二月二十二日
三石もいなくなった。警察に言ってしまおうかと悩んだが、晴に止められた。しかしもう検証の継続は無理なのではないか。七不思議のせいだとは言わないが、二人も行方不明者を出している。生徒に対しては学校側が上手く誤魔化したようで、大きな騒ぎにはなっていない。しかし二回目ともなれば、警察の捜査も益々きつくなるだろう。もしこの検証途中に二人がいなくなったことが分かれば、怪談同好会の存続すら危ぶまれる。
もうすぐ冬休みに入る。その前に二人が見つかれば良いのだが。
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十二月二十三日
混乱している。文章が纏まっていないかもしれないが、許して欲しい
晴が昨晩四階に行ったらしい。前の記述を見て加賀と三石を探しに行ったが、何も見つからなかったと言っていた。あそこから帰るには、鏡に血文字で×を書いて叩き割らなければならないと言う。その話は本当だったのか
晴は二人を探しに行ったのではなく、鏡を割りに行ったのではないか?
最初、放送室の女が出た時、放送室にいたのは晴と加賀だった。鏡を割ったのは加賀だったが、願いが叶うと言われているのは割った人間では無く、鏡に映った人間だとされている。
放送室は狭い。晴も鏡に映っていた
音楽室の時も、三石は加賀と晴と一緒にいたと書いている
しかし倉庫Bの赤ん坊の時は?あれは加賀が一人で検証していたはずだ。
加賀の頁を読み直すことにする
何故倉庫Bの鍵は開いていた?
大袈裟なほど頑丈そうな南京錠でもって倉庫Bは封鎖されていたのに。人の気配がした、何かが映った気がしたと加賀は書いている。もしも
もしも晴がその場にいたとしたら?
願いを叶える条件は、鏡に映っていること
放送室の女、ピアノ、四階
間取り図にしかない部屋、昇降口近くにあったはずの鏡はいつの間にか無くなっていた。先週までは間違いなくあった
後は加賀が検証した倉庫Bだが、彼女が感じた気配が晴のものだったとしたら
残るは死に顔が映る鏡のみになる
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そもそも、願いが叶うと言う噂には懐疑的だった。本来鏡と言うのは、魔除けや、場所によっては封印の意味が込められている。それを壊して回って、最終的に願いが叶います、とは、少々破綻してはいないだろうか。割れた鏡は不吉なものとして扱われがちであるし、風水では鏡が割れると、あなたの身代わりになって壊れましたよ、と解釈されることもあるらしい。
願いが叶うおまじないと言うよりは、まるで呪いじゃないか?
鏡を割ることの方が重要なのか?
七不思議の方が付随物だった?
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先程晴と話 た。
あ が死に顔が映る鏡を割りに来るところを待ち伏せした形になる。やはり前に高山が言ってい
。それで、酷く疲れてしまったらしい。もっと早くに気付けていればよかったと、自分で自分を殴ってやりたい気分だ。
晴は少し顔を洗っ
は今教室でこれを書いている。早朝であるから、少し
三石も加賀も見 い。
七 議の検証は中止だ。晴が戻ってきたら、改めてその話をしよう。
卒業までもう日が無い。あのクラスの連中とも、後三ヶ月もしないうちにおさらばだ。それまでどうにか耐えて、二人で一
晴に万が一のこ があれば、家族も、軽音部の後輩も悲しむに違い あいつは常に後輩や弟のことを可愛い可愛いと言っているから、どうにか思い留まってく
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誰のことも許さない
こっちにくるな
[中略]
私は来年の三月にこの学校を卒業する。ただこのままこの学校から去るのは、どうしても腹に据えかねるのだ。私は会長として、散々怪談同好会を馬鹿にしてくれた教師や生徒連中に怪談同好会を少しでも認めさせなければならない。
[中略]
だから私は、この学校の七不思議を全て検証し、その過程を記録し、公開することにした。我々怪談同好会のメンバー三人と、軽音部に所属している霊感持ちの親友が協力してくれることになっている。彼は快く引き受けてくれた。心優しい親友を持てて、私は本当に嬉しい。
近日中に、手を出しやすいところから検証を始めたいと思う。
この記録が、怪談同好会の益々の発展の一助となることを願って。
二〇〇×年 十二月十一日 怪談同好会会長 井塚深澄
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二〇〇×年 十二月十二日
本格的な検証に入る前に、今回のメンバーと七不思議の概要を纏めておこうと思う。
井塚深澄(怪談同好会会長 三年A組)
三石秋(怪談同好会 二年C組)
加賀千種(怪談同好会 二年B組)
御子柴晴(軽音部 三年B組)
以上の四名で検証を行う。夜の学校に忍び込むこともあるだろうから、生徒会役員である加賀の協力が確約されたのは有り難い。彼女ならば適当な言い訳をつけて、全く警戒されずに職員室から鍵を持ち出すことが出来るだろう。
私と晴はどちらも大学受験を控えている身だが、晴には勉学の妨げにならない程度に協力して貰おうと思う。
検証する七不思議と、それに付随するある噂を以下に記しておく。
一、深夜ひとりでに鳴るピアノ
二、放送室の女
三、ロッカーの赤ちゃん
四、死に顔が映る鏡
五、繰り返す四階
六、間取り図にしか無い部屋
七、残りの一つは、誰も知らない
噂についてだが、これらの校内に伝わる七不思議の現場には、必ず鏡がある。それを全て叩き割ると、鏡に映っていた人間の願いが叶うという内容だ。
未だ中身の分からない七話目に関しても、検証と併せて調査していきたいと思う。加賀が資料室の鍵を押さえておいてくれた。何か分からないことがあれば、あそこを検めるのも一興かもしれない。
今年の春先には一年の廊下にアレが出た。アレが出た年度は怪異の当たり年になるとも言うし、実り多い日々になることを祈っている。
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二〇〇×年 十二月十三日
昨日の今日だが、早速進展があった。
放送室の女が出たのだ。
昼食中、突然教室のスピーカーが歪な音を立てた。放送室か、あるいは職員室からの放送だろうと皆は喋りながら聞き耳を立てていたが、スピーカーの向こうにいる筈の人間は、いつまで経っても何も喋らない。
話の内容を忘れたか、あるいは機器の故障だろう。私はそう考えて、食事を再開しようとした。
その時だ。スピーカーから微かに女の声が聞こえる。最初は切れ端のようだったその声が、やがて歌になった。
子守唄だ。
私は教室を飛び出して、放送室へと向かった。放送室の扉は開いていて、中から何かが割れるような凄い音がした。
私が放送室に入ると、そこには晴と加賀が立っていた。加賀の手には家から持ち込んだらしいバールが握られていて、床には粉々になった鏡の破片が散らばっていた。
程なくして鏡が割れた音を聞きつけたらしい教師が駆けつけると、加賀はバールを棚の影に隠して、変な放送が聞こえたので悪戯かと思い来てみると鏡が割れていたのだと、さも怯えたような顔で言った。迫真の演技だった。教師は彼女を信用し、鏡の破片を片付けるから教室に戻れと言った。
人気の無い場所で二人の話を聞くと、あの放送を聞きつけて最初に駆けつけたのは晴だったと言う。その直後に加賀が来て、二人は鍵の開いた放送室に入った。
晴曰く、中には確かに女がいた。全身が水浸しで、その皮膚は長時間風呂に入った後のようにふやけていた。女はその腕に赤ん坊を抱いているようで、身体をゆらゆらと動かしながら子守唄を歌っていたのだと言う。放送で聞こえたのは、恐らくその女の声だ。
しかし加賀にはその姿は見えない。彼女は放送室の壁に掛けられた鏡を見つけると、そこに向かって迷うことなくバールを振り上げた。そこで私が入室したと言う訳だ。
加賀にその理由を聞くと、七不思議の現場にある鏡を全て叩き割ると願いが叶うと言う噂が本当か確かめたいとのことだった。彼女は晴と同じクラスの栗原と言う吹奏楽部の男を好いているらしく、栗原と恋仲になりたい、と言うのが願いらしい。特に邪魔になることはなさそうなので、放っておくことにする。
私が放送室の女を目にすることは叶わなかったが、一人でも体験者がいるならば問題無い。
一人に一つを振り分けてみるのもいいかも知れない。早速今日の放課後、皆に相談してみよう。
- - - - - - - - - - - - - - - -
二〇〇×年 十二月十五日 三石秋
井塚さんから言われて、今日は僕が書くことになりました。少なくとも一人一つ七不思議を検証することになるので、交換日記みたいにして記録していくそうです。僕は井塚さんみたいに文章が上手じゃないので、変なところがあったらごめんなさい。
本当は僕が一人でピアノの噂を検証するはずだったんですけど、どうしても怖かったので、千種ちゃんと御子柴先輩について来てもらうことにしました。千種ちゃんはピアノがどうとかよりも、鏡を割りたいからと言っていました。御子柴先輩は、お願いしたらついてきてくれました。軽音部って怖いイメージがあったんですけど、優しい人で良かったです。井塚さんは塾があって来れませんでした。
完全下校の後、御子柴先輩は僕と千種ちゃんを第二視聴覚室に匿ってくれました。その日は軽音部の活動はお休みだそうで、誰もいませんでした。そのまま、夜中の二時になるまでそこで過ごしました。
深夜二時頃、僕は二人と一緒に第二視聴覚室を出ました。
噂になっているピアノは二階の第一音楽室にあります。夜中、第一音楽室のピアノがひとりでにエリーゼのためにを奏で始める、ただそれだけ。聞いたらどうとか、そういう話もありません。僕に割り当てられたのがこれだったのは、少しラッキーだったかもと思いながら、第一音楽室に向かいます。
遠くの方からピアノの音が聞こえました。それは第一音楽室に近付くにつれてどんどんはっきりしてきます。エリーゼのために、あの冒頭の部分を、延々と繰り返していました。
中を覗いても真っ暗で、何も見えません。千種ちゃんがドアを開けて電気を点けます。
やっぱり、中には誰もいませんでした。霊感があると言う御子柴先輩も、何も言いません。千種ちゃんは第一音楽室の中にあった鏡をバールで割ると、さっさとその破片を片付けていました。これがバレて、先生に怒られたりしないかが心配です。
結局ピアノの音は聞こえたけど、第一音楽室には何もありませんでした。今僕は早朝の教室でこれを書いています。もう少し何かが起こったほうが面白いんだろうけど、本当に何もなかったんです。
さっきからずっと、ピアノの音が聞こえます。合唱部が練習でもしてるのかなあ。
全然怖くなくてごめんなさい、これで終わりです。
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200×年 12月18日 加賀千種
こんにちは!加賀千種ですー
今回はあたしの番でした!本当はひとりいっこって話だったんですけど、夜中に学校来るのがめんどくさいので、一気に2個やっちゃおうって思いました!井塚会長にはちゃんと許可は取ってますので、安心してお読みくださいねー!(?)
あたしが検証したのは、ロッカーの赤ちゃん、死に顔が映る鏡の2つです!別に夜中じゃなくても良かったんですけど、多分夜中の方が雰囲気出るし、人もいないのでこの時間にしました⭐︎
本当は秋くんも誘おうと思ったんですけど、一昨日早退してからずっと休んでるみたい
具合でも悪いのかなあ…
ロッカーの赤ちゃんは、体育館の封鎖された倉庫Bにまつわるお話です
その中にあるロッカーの中から、赤ん坊の泣き声が聞こえる。ある夏、妊娠した女子生徒がそのロッカーの中に産んだ赤ん坊を放置した。夏休みの間中ずっと放置された赤ん坊は、今もなお母親を探して泣いている。
って言う話です!かわいそう…
結論から言うと、何もありませんでしたー
倉庫B、いつもは鍵か掛かってるので、どうせ今日もそうだろうと思って体育館に行ったら!
なんと!開いてたんです!ラッキー⭐︎
中はやっぱり埃っぽくて、電気を点けても薄暗くて、何か人の気配がするし、ちょっと怖いな、なんて思いましたー
倉庫の一番奥にそれらしいロッカーがあったので開けてみたんですけど、別に普通のロッカーでしたー
赤ちゃんもいなかったし、ただ雰囲気が不気味ってだけでした
やっぱり七不思議なんてただの噂なんですかねー
その倉庫の中にも鏡があったんで、それはちゃんと割ってきました⭐︎恋する女の子は強いので、何でもできちゃうのです!(笑)
使われてない倉庫だから破片もそのままにしてきちゃったけど、大丈夫ですよねー
鏡割る時何か映った気がしたけど、きっと気のせいです!
死に顔が映る鏡は職員室の前にずっと置かれてる姿見で、いっつもかわいい布で隠されています
何で使わないのに置いくんだって思うんですけど、これってあたしだけじゃないですよね?
それも見に行きました!
布を取ってみたんですけど、これもフツーのかがみでしたー会長がこれは本物みたいなこと言っててちょっと怖かっですけど何か拍子抜けです
それて、鏡を割ろうと思ったら人の足音がしたで、あわて 教室まで逃げてきちゃいました!そこでこれをかいていますー
後でわりにいかなきゃな あ
あの
さっきからせふくかぬ れてるみたいに冷たくて、手がふるえます
雨もり してるのかな
よみにくかつたら ごめんなさ い
あかちゃんの声きこえるいる
- - - - - - - - - - - - - - - -
十二月十九日
加賀がいなくなった。
昨日の夜、私に二つの七不思議の検証を始める旨の電話を掛けてきて以降、彼女と連絡が取れない。両親が警察に通報したらしく、学校にも数人の警官が来た。私も事情を聞かれたが、何も知らないと答えた。勿論この日誌のことは言っていない。この日誌は、二年B組に落ちていた。加賀を心配して朝早くに登校した三石が見つけて回収しておいてくれた。
この日誌のことは、関係者以外の誰にも知られてはならない。三石にも晴にも、口止めをしておく。
また、検証は継続すること。
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十二月十九日 御子柴晴
七不思議の間取り図にしかない部屋について、少し分かったことがあるので、手短に纏めます。
二・三年生の昇降口近くの階段に、不自然に広いスペースと、そこだけ壁の色が薄い場所があります。噂では、時々その壁の奥から叩くような音や引っ掻くような音、猫の鳴き声が聞こえる、と言う話でした。校舎を建てるときに建設現場に猫が迷い込んでそのまま埋められてしまい、その猫はいまだに出口を探して彷徨っている、と言う話です。
俺もこの学校に入学してから今までの間に、何度もその音と声を聞きました。にゃあにゃあと鳴く声を聞くたびに、猫たちが成仏出来るよう願ったものです。
でも、そうじゃなかった。
どうして気が付かなかったのか、自分でも分かりません。先入観というのは、本当に恐ろしいものです。
あれは猫の鳴き声なんかじゃありません。
大勢の子供が泣き叫ぶ声です。
加賀さんが独自に行っていた願い事に関する検証は、俺が引き継ぐことにします。
以上です。
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十二月二十一日
ここにこんなことを書くのもおかしいかもしれないし、晴に見られるかもしれないが、心配しているんだと言うことで許して欲しい。
最近、晴の様子がおかしい。妙に元気が無いというか、常に何かに疲れているようだ。彼とは高校生活の殆どを共に過ごしたが、あんな状態の晴を見るのは初めてだった。大学に進むと言っていたから、受験勉強に疲れてしまったのだろうか?
それとなく彼と同じ部活の高山に聞いてみると、どうやらクラスで無視されたり、仲間外れにされたりしているらしいと聞かせてくれた。ここ最近の話なようだ。
全く気が付かなかった。いつの時代にも、そういう下らないことをする連中はいる。晴は近年稀に見る人格者で、成績も良い。そこをやっかんでいるに違いないのだ。
しかし、晴が加賀の鏡に関する検証を引き継いだのは意外だった。あいつにも何か叶えたい願いがあるのだろうか。
後で聞いてみることにする。
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十二月二十一日 三石
僕分かりました。千種ちゃんがどこにいるのか。
千種ちゃんは四階にいます。メールが届いたんです。寂しいから助けて、って。栗原先輩じゃなくて僕に来たんです。メールが。
写真付きでした。
元気そうでしたよ、千種ちゃん。
これから迎えに行ってきます。
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十二月二十二日
三石もいなくなった。警察に言ってしまおうかと悩んだが、晴に止められた。しかしもう検証の継続は無理なのではないか。七不思議のせいだとは言わないが、二人も行方不明者を出している。生徒に対しては学校側が上手く誤魔化したようで、大きな騒ぎにはなっていない。しかし二回目ともなれば、警察の捜査も益々きつくなるだろう。もしこの検証途中に二人がいなくなったことが分かれば、怪談同好会の存続すら危ぶまれる。
もうすぐ冬休みに入る。その前に二人が見つかれば良いのだが。
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十二月二十三日
混乱している。文章が纏まっていないかもしれないが、許して欲しい
晴が昨晩四階に行ったらしい。前の記述を見て加賀と三石を探しに行ったが、何も見つからなかったと言っていた。あそこから帰るには、鏡に血文字で×を書いて叩き割らなければならないと言う。その話は本当だったのか
晴は二人を探しに行ったのではなく、鏡を割りに行ったのではないか?
最初、放送室の女が出た時、放送室にいたのは晴と加賀だった。鏡を割ったのは加賀だったが、願いが叶うと言われているのは割った人間では無く、鏡に映った人間だとされている。
放送室は狭い。晴も鏡に映っていた
音楽室の時も、三石は加賀と晴と一緒にいたと書いている
しかし倉庫Bの赤ん坊の時は?あれは加賀が一人で検証していたはずだ。
加賀の頁を読み直すことにする
何故倉庫Bの鍵は開いていた?
大袈裟なほど頑丈そうな南京錠でもって倉庫Bは封鎖されていたのに。人の気配がした、何かが映った気がしたと加賀は書いている。もしも
もしも晴がその場にいたとしたら?
願いを叶える条件は、鏡に映っていること
放送室の女、ピアノ、四階
間取り図にしかない部屋、昇降口近くにあったはずの鏡はいつの間にか無くなっていた。先週までは間違いなくあった
後は加賀が検証した倉庫Bだが、彼女が感じた気配が晴のものだったとしたら
残るは死に顔が映る鏡のみになる
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そもそも、願いが叶うと言う噂には懐疑的だった。本来鏡と言うのは、魔除けや、場所によっては封印の意味が込められている。それを壊して回って、最終的に願いが叶います、とは、少々破綻してはいないだろうか。割れた鏡は不吉なものとして扱われがちであるし、風水では鏡が割れると、あなたの身代わりになって壊れましたよ、と解釈されることもあるらしい。
願いが叶うおまじないと言うよりは、まるで呪いじゃないか?
鏡を割ることの方が重要なのか?
七不思議の方が付随物だった?
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先程晴と話 た。
あ が死に顔が映る鏡を割りに来るところを待ち伏せした形になる。やはり前に高山が言ってい
。それで、酷く疲れてしまったらしい。もっと早くに気付けていればよかったと、自分で自分を殴ってやりたい気分だ。
晴は少し顔を洗っ
は今教室でこれを書いている。早朝であるから、少し
三石も加賀も見 い。
七 議の検証は中止だ。晴が戻ってきたら、改めてその話をしよう。
卒業までもう日が無い。あのクラスの連中とも、後三ヶ月もしないうちにおさらばだ。それまでどうにか耐えて、二人で一
晴に万が一のこ があれば、家族も、軽音部の後輩も悲しむに違い あいつは常に後輩や弟のことを可愛い可愛いと言っているから、どうにか思い留まってく
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誰のことも許さない
こっちにくるな
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