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5話 検索: [ https://w*w.**************]
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スマートフォンを布団になげ、ベッドに腰掛ける。
さっきのaoiの話を聞いて少し自分が恥ずかしくなった気がしていた。
いじめは比較的重い「死ぬ理由」だと自分で定義していたが、世の中の闇は本当に上限がない。
好きだった人に騙されたあげく、多額の借金を負い、自分の身を売って他人の業を精算する。
そんな人生だったら、「死にたい」とSNSに投稿せずに迷わず死んでいただろうか。
結論は出ないが、自分の死にたい理由の中に明らかな上下関係ができてしまっている。
理由は人それぞれだと自分で話しておいて、結局他者の理由に左右される相対的なものだと気づかされる。
こんなに揺らいでしまう気持ちなら、今すぐ死ぬのはやめてしまおう。
Ayukoからメッセージが届く前の自分とは明らかに違ってしまっている。
自分の中にあった絶対的ななにかが、音を立てて壊れていく。
スマートフォンを手に取り、Ayukoに断りを入れると決心する。
――SNSにログインしました――
――Yutoさんがトークルームに参加しました――
2020/10/12 12:30 DM Yuto:生前臓器移植の話だけど、やっぱりやめておこうと思う。
――Ayukoさんがトークルームに参加しました――
2020/10/12 12:38 DM Ayuko: なんか嫌なこと聞いちゃった?
2020/10/12 12:45 DM Yuto: そういうわけじゃないんだけど
2020/10/12 12:48 DM Ayuko: 怖くなっちゃった?
2020/10/12 12:58 DM Yuto: 自分の死ぬ理由が子供っぽく感じて
2020/10/12 13:04 DM Ayuko: そっか。わかった。でもその代わりもう一人だけ話を聞いてみない?
2020/10/12 13:06 DM Yuto: うーん
2020/10/12 13:07 DM Ayuko: あなたの参考になればと思ってもう一人アポとっちゃったのよ。こんな機会も無いと思うし最後に一人だけ!
2020/10/12 13:09 DM Yuto: わかった。それじゃあとひとり
2020/10/12 13:12 DM Ayuko: ありがとう!助かるよ!
2020/10/12 13:14 DM Yuto: いつごろになる
2020/10/12 13:16 DM Ayuko: 多分明日かな?もう連絡済だから、相手からフォローされるのを待っててね!soutaってユーザーだよ!
2020/10/12 13:19 DM Yuto: わかった。
―――Ayukoさんが退出しました―――
―――Yutoさんが退出しました―――
―――Yutoさんがログアウトしました―――
死ぬという現実から逃避したことの安堵か、どっと疲れが出た。
そんな自分の小ささに嫌気がさし、スマートフォンをベッドの脇に投げる。
その投げ方もどこかスマートフォンが壊れないように気を使いながら投げている気がして、手を伸ばして布団に落ちたスマートフォンを奥に押し出そうとしたが、空ぶってしまう。
そのままベッドに横たわり天井を見つめて何か深いことを考えようと試みるが、それらしい思考は生まれてこない。
頭の中には生前臓器移植のことと、それから逃げるように断りを入れた自分の小ささだけが溢れている。
もどかしくて、いてもたってもいられないので、生前臓器移植について知見を深めることでそれを上書きしようと試みる。
―――検索[ https://w*w.**************]―――
―――Yutoさんがログインしました―――
2020/10/12 14:21 移植bot :Yutoさんおかえりなさい。前回に引き続き、生前臓器移植について質問を受け付けています。AIが会話を認識してご回答しますので、何なりとご質問ください。
2020/10/12 14:25 Yuto : 誰が運営してる?
2020/10/12 14:26 移植bot :運営は株式会社リライフテクノロジーが行っております。
2020/10/12 14:25 Yuto : リライフテクノロジーってどんな会社
2020/10/12 14:26 移植bot :株式会社リライフテクノロジーは2008年に設立されたwebテクノロジー企業です。主に数理計算用のAI開発やwebマーケティング用のAI開発を行っており、2015年にバイオテクノロジー領域に進出しています。今の時価総額は3000億ドルです。
2020/10/12 14:29 Yuto : 生前臓器移植はビジネス?
2020/10/12 14:31 移植bot : すいません。よくわかりません。表現を変えて質問してください。
2020/10/12 14:37 Yuto : リライフテクノロジーの平均年収
2020/10/12 14:39 移植bot : リライフテクノロジーの平均年収は[2100万円]です。
2020/10/12 14:45 Yuto : リライフテクノロジーと脳移植の記事
2020/10/12 14:46 移植bot : すいません。よくわかりません。表現を変えて質問してください。
2020/10/12 14:49 Yuto : 生前臓器移植 失敗事例
2020/10/12 14:52 移植bot : 生前臓器移植の失敗事例はありません
―――Yutoさんがログアウトしました―――
スマートフォンを持つ手が小刻みに震えている。
知的好奇心は、自分への羞恥心に変わり、また得体の知れない恐怖への変わっていた。
つい先日にやりとりした生前臓器移植の失敗事例である脳移植のことが質問できなくなっている。
Ayakoが話していた設定ミスが修正されたということか。それにしては早すぎる気もする。
自分が何かとんでもない事件に巻き込まれているように思っているだけで被害妄想かも知れない。
ただ、設定ミスでbotが失敗事例を回答するだろうか。
おそらくそれが生前臓器移植と関係あるかは別として、脳移植によって失敗した事例は存在していると確信している。
時価総額3000億ドルの企業が運営しているbotで、それもAI開発を得意とする企業が作ったbotはそんな間違いはしない。
そんなことは、長らく社会から隔離されていた自分にもわかる。
これ以上足を突っ込むと戻れなくなるかもしれない。もうAyukoに連絡をとるのはやめよう。
スマートフォンが目に入らないようにベッドから離れた机に置いて、再度ベッドに戻って布団に潜った。
そうだ、これは夢に違いない。夢でなくても一度眠って全てをリセットしよう。
そして、明日からまともに生きよう。
まともが何かはわからないけど、こんな気持ちがずっと続くよりは良い。自惚れていた自分を殴ってしまいたい。
非日常が目の前にあらわれたとたん普通を追い求める自分を目を瞑りながら、妄想によって観察し、そして普通が一番と誰かが言っていた名言が頭をよぎった。
まだ戻れる。
そう考えているうちに、また深く眠りについていってしまった。
さっきのaoiの話を聞いて少し自分が恥ずかしくなった気がしていた。
いじめは比較的重い「死ぬ理由」だと自分で定義していたが、世の中の闇は本当に上限がない。
好きだった人に騙されたあげく、多額の借金を負い、自分の身を売って他人の業を精算する。
そんな人生だったら、「死にたい」とSNSに投稿せずに迷わず死んでいただろうか。
結論は出ないが、自分の死にたい理由の中に明らかな上下関係ができてしまっている。
理由は人それぞれだと自分で話しておいて、結局他者の理由に左右される相対的なものだと気づかされる。
こんなに揺らいでしまう気持ちなら、今すぐ死ぬのはやめてしまおう。
Ayukoからメッセージが届く前の自分とは明らかに違ってしまっている。
自分の中にあった絶対的ななにかが、音を立てて壊れていく。
スマートフォンを手に取り、Ayukoに断りを入れると決心する。
――SNSにログインしました――
――Yutoさんがトークルームに参加しました――
2020/10/12 12:30 DM Yuto:生前臓器移植の話だけど、やっぱりやめておこうと思う。
――Ayukoさんがトークルームに参加しました――
2020/10/12 12:38 DM Ayuko: なんか嫌なこと聞いちゃった?
2020/10/12 12:45 DM Yuto: そういうわけじゃないんだけど
2020/10/12 12:48 DM Ayuko: 怖くなっちゃった?
2020/10/12 12:58 DM Yuto: 自分の死ぬ理由が子供っぽく感じて
2020/10/12 13:04 DM Ayuko: そっか。わかった。でもその代わりもう一人だけ話を聞いてみない?
2020/10/12 13:06 DM Yuto: うーん
2020/10/12 13:07 DM Ayuko: あなたの参考になればと思ってもう一人アポとっちゃったのよ。こんな機会も無いと思うし最後に一人だけ!
2020/10/12 13:09 DM Yuto: わかった。それじゃあとひとり
2020/10/12 13:12 DM Ayuko: ありがとう!助かるよ!
2020/10/12 13:14 DM Yuto: いつごろになる
2020/10/12 13:16 DM Ayuko: 多分明日かな?もう連絡済だから、相手からフォローされるのを待っててね!soutaってユーザーだよ!
2020/10/12 13:19 DM Yuto: わかった。
―――Ayukoさんが退出しました―――
―――Yutoさんが退出しました―――
―――Yutoさんがログアウトしました―――
死ぬという現実から逃避したことの安堵か、どっと疲れが出た。
そんな自分の小ささに嫌気がさし、スマートフォンをベッドの脇に投げる。
その投げ方もどこかスマートフォンが壊れないように気を使いながら投げている気がして、手を伸ばして布団に落ちたスマートフォンを奥に押し出そうとしたが、空ぶってしまう。
そのままベッドに横たわり天井を見つめて何か深いことを考えようと試みるが、それらしい思考は生まれてこない。
頭の中には生前臓器移植のことと、それから逃げるように断りを入れた自分の小ささだけが溢れている。
もどかしくて、いてもたってもいられないので、生前臓器移植について知見を深めることでそれを上書きしようと試みる。
―――検索[ https://w*w.**************]―――
―――Yutoさんがログインしました―――
2020/10/12 14:21 移植bot :Yutoさんおかえりなさい。前回に引き続き、生前臓器移植について質問を受け付けています。AIが会話を認識してご回答しますので、何なりとご質問ください。
2020/10/12 14:25 Yuto : 誰が運営してる?
2020/10/12 14:26 移植bot :運営は株式会社リライフテクノロジーが行っております。
2020/10/12 14:25 Yuto : リライフテクノロジーってどんな会社
2020/10/12 14:26 移植bot :株式会社リライフテクノロジーは2008年に設立されたwebテクノロジー企業です。主に数理計算用のAI開発やwebマーケティング用のAI開発を行っており、2015年にバイオテクノロジー領域に進出しています。今の時価総額は3000億ドルです。
2020/10/12 14:29 Yuto : 生前臓器移植はビジネス?
2020/10/12 14:31 移植bot : すいません。よくわかりません。表現を変えて質問してください。
2020/10/12 14:37 Yuto : リライフテクノロジーの平均年収
2020/10/12 14:39 移植bot : リライフテクノロジーの平均年収は[2100万円]です。
2020/10/12 14:45 Yuto : リライフテクノロジーと脳移植の記事
2020/10/12 14:46 移植bot : すいません。よくわかりません。表現を変えて質問してください。
2020/10/12 14:49 Yuto : 生前臓器移植 失敗事例
2020/10/12 14:52 移植bot : 生前臓器移植の失敗事例はありません
―――Yutoさんがログアウトしました―――
スマートフォンを持つ手が小刻みに震えている。
知的好奇心は、自分への羞恥心に変わり、また得体の知れない恐怖への変わっていた。
つい先日にやりとりした生前臓器移植の失敗事例である脳移植のことが質問できなくなっている。
Ayakoが話していた設定ミスが修正されたということか。それにしては早すぎる気もする。
自分が何かとんでもない事件に巻き込まれているように思っているだけで被害妄想かも知れない。
ただ、設定ミスでbotが失敗事例を回答するだろうか。
おそらくそれが生前臓器移植と関係あるかは別として、脳移植によって失敗した事例は存在していると確信している。
時価総額3000億ドルの企業が運営しているbotで、それもAI開発を得意とする企業が作ったbotはそんな間違いはしない。
そんなことは、長らく社会から隔離されていた自分にもわかる。
これ以上足を突っ込むと戻れなくなるかもしれない。もうAyukoに連絡をとるのはやめよう。
スマートフォンが目に入らないようにベッドから離れた机に置いて、再度ベッドに戻って布団に潜った。
そうだ、これは夢に違いない。夢でなくても一度眠って全てをリセットしよう。
そして、明日からまともに生きよう。
まともが何かはわからないけど、こんな気持ちがずっと続くよりは良い。自惚れていた自分を殴ってしまいたい。
非日常が目の前にあらわれたとたん普通を追い求める自分を目を瞑りながら、妄想によって観察し、そして普通が一番と誰かが言っていた名言が頭をよぎった。
まだ戻れる。
そう考えているうちに、また深く眠りについていってしまった。
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