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オマケのキャロル視点『事の顛末』

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 夜会の一件より3ヶ月後……婚約が正式に決まった私とエミールは、ローガスタ家のタウンハウスに住むこととなった。
 タウンハウスの隣にはエミールの次兄夫妻、連なって建っている少し大きなタウンハウスには義父母と長兄夫妻が住んでいる。

 エミールは色々あって、まだ王太子付き兼ハロルドの稽古指南役として王宮で働いており、ここから王宮へはほど近く、便利がいい。

 一方の私も、王宮で働くこととなった。


「またこうしてちょくちょく会えるようになって嬉しいわ、キャロル」

「ええまったく……ノアのおかげよ」

 私は今王宮内、ノアの部屋で彼女とお茶をしている。
 実際に、私が今ここにこうしているのはノアのおかげ……というかノアのせい・・である。

 彼女の『ド天然系天女風・鬼』っぷりが清らかな為であることは前にも述べたとおりだが、そんな彼女に不安を覚えた王家の皆様方が『特別王宮秘書官』なる職を私に授けてくださった……要は押し付けられたのだ。

 ハッキリ言ってクソ面倒だが、戦争が起こっても困るので引き受けた。
 というか私に選択の余地はない。

 面倒だ、と思っていたが、いざなってみると特にやることもない。外交の際にノアの考え方を汲んだ上で私が言い換えれば済むだけのことなので……せいぜい自分の語学力だけ高めておけば済むのだ。
 ノアも王子妃としての心得やマナーはしっかりと勉強しているので、国内でも形式的なものであればさして問題はない。

 問題は形式張らない様なくだけた会合とかなので、茶を楽しみながら会話をしつつ、是正をはかっている。ただ、なにぶん天然なので結構難しい。

 最悪やらかしても、既にノアの『ド天然系天女風・鬼』っぷりは有名なので、訂正を入れれば済む。……私のお役目はそんなもんだった。

 おかげでエミールに『私にも収入があるから……(この続きは敢えて濁す)』と何かにつけて言える為、今では大変に感謝している。





『白い同棲』最後の夜…彼のプロポーズをお断りした私をよそに、エミールはその夜のうちに荷物をまとめて出て行った。
 王太子には自分が経緯を伝えておくから、と言い残して。

 彼を見送った私は脱力して、リビングのソファにだらしなく寝そべるように座りながら、拾い上げたコインを弄んだ。

『コイントスに任せてもいいくらいには……私のことを好きだって思ってくれてるんだろ?』

 彼の言葉に私は不愉快極まりなかった。

 ……図星をさされたからだ。

 色々と考え、自分の迂闊さとエミールの言動に腹が立って仕方ない。

「だいたいにして何? あの無駄な潔さ……もうちょっと言い訳ぐらいしてもさぁ……!」

 思わず口に出していた私に、いつの間にか入っていたノワールが口を挟んできた。今日はサバトラにゃんこだ。

「まったく人間って面倒臭いよねぇ」

「……今日こそ『にゃ』を付けなさいよ。 つーかモフモフさせなさいよ、出歯亀毛玉」

 私はソファの背もたれに腕をかけ、斜めに身体を投げ出すように足を組んだ。上半身の下の空いたスペースをボフボフと叩き、彼を誘う。

「今こそその毛玉を活かすときよ。 存分にモフられ、私を癒しなさい」

「毛玉とは失礼な……仕方ない、モフられてやるか」

 私は傍らに来たクソ生意気なグレーの毛玉をモフる。
 ああクソ、可愛いな。
 毛玉可愛い。

「しっかし馬鹿だよなー、あの兄ちゃん。 コインは……」

「……馬鹿でもないわよ」

 そう、コインは表だった。
 しかし彼は馬鹿ではない。

 私はノワールをモフる手を止めて、彼の顔の前あたりに放置したままのコインをピン、と指で弾いた。

『表が出たら結婚だ、いいね?』

 彼はそう言い、裏が出たら……の続きを私の言葉に被せて『すべて白紙』と言った。

 エミールの『コイントスに…』という言葉通り、私はコイントスに任せたことで、好意を彼に示してしまっていたのだった。彼がどの程度に受け取ったのかまではわからないが。
 結果がすぐ出ることにこだわらなかったのも、そういうことだ。

 ……表でも裏でも彼が勝ちのゲーム内容に意図的にされていたのだ。

 くっそ……してやられた!完全に!!

 しかも……あんな……あんな!!

 私はその後の彼とのキスを思い出し、怒りと羞恥と今まで味わったことのない胸の締めつけと、その甘さに、ソファに身体を勢いよく倒し、クッションに顔を埋め、足をバタバタさせる。
 ひらりと私を躱したノワールはとってつけた様に『にゃ』をつけて、呆れたようにこう言った。

「……やっぱり人間って面倒臭いにゃ」

 向かいのソファへ移動したノワールは例の如く美ショタ姿になって、置いてあった焼き菓子をおもむろに食べ始めた。
 毛玉でいなさいよ、という私に彼はだってこの方が食べやすいもん、と答える。

「ちょっと……もう少し私を癒してあげようとか思わないわけ?」

「やだよぉ……モフられてる最中にうっかり叩かれかねないじゃん」

 それに……と続けてノワールは意地悪く笑った。

「癒す必要ない・・・・でしょ」

 そう言ってノワールは菓子を食べ終えると猫の姿に戻り、夜の闇に消えていった。

 可愛くない毛玉め……。

 実のところ毛玉氏の言う通り、私は傷ついてなどいないのだった。
『絶対に君を諦めない』だの『長期戦の覚悟』だのとエミールはのたまっていた。

 ……どうせ彼はまた来る。

 プロポーズを断って手を抓ったくらいじゃ生温い。次はどうしてくれよう。

 そんな事を考えながらも……ふとした瞬間にキスのことを思い出してしまい、私がみっともなくジタバタしたのは秘密だ。


 そして彼は来た。翌々日、私の家に。

 ってオイ、早すぎだろ。

 一昨日の晩さっさと帰ったエミールは諸々準備を整え、実家に乗り込んでいたのだった。
 私の部屋が花まみれにされている、ということはおそらく家の者は既に懐柔されている……恐ろしい奴だ。

 でも悔しいことに嫌ではなかった。
 馬鹿だな、とは思ったけれど。
 馬鹿だけど私の言わんとしていることはよくわかるのだ、このストーカー野郎は。

「貴方の経済観念が心配よ」

 彼との未来を暗喩したその言葉に、嬉しそうな顔をした。
 確かに私もこの間と違って笑ってしまったが、告白ならば結構残念な言葉だと思うぞ。

 私は流れに乗っかって彼を受け入れてしまうことにした。
 報復は今後でもかまわないだろう。

 なんせ彼曰く、チューリップの花言葉は『不滅の愛』らしいし。
 なんて粘着質な男だろう。
 その分私も、一生をかけてチクチク報復してやろうと思う。
 覚悟しろ。




 そこからは用意のいいエミールに任せ、トントン拍子に事は進んで、今に至る。

 ノアに誘われた私は、エミールがハロルドに稽古をつけているところをコッソリ見ることにした。

 エミールは私の見たことのない、騎士の顔をしていた。

『白い同棲』が終わったこの二か月ちょっとで、私以外へのエミールの顔を少しずつ私は知っていった。
 彼があんななのは、私に対してだけだ。

『大馬鹿のストーカー』と評したにも関わらず、それを嫌だと感じるどころか嬉しくすらある私も、大概アレなのかもしれない。

 そう思うと若干悔しい私は、ハロルドに気づかれないようにエミールに満面の笑みを向けて手を振った。

 ……エミールは予想通り、ハロルドに思い切り不意打ちを食らっていた。
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