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待ち受ける、難易度高めのハードル
しおりを挟む「それでですね~! 先生がご飯に連れてってくれたんですよ~♪」
翌日、リリアンはご機嫌でニコラスに昨日のことを話していた。
謝られた流れで。
リリアンをさっさと帰すつもりだったベネディクトだが、彼女の腹が鳴ったことにより時刻を確認すると、もう七時過ぎ。
いくら構内とはいえ外は既に暗いし、しかも寮の食事は門限でもある六時迄に申請せねばならないことを彼は知っていた。
研究棟内には夜半までやっている食堂があるので、送るついでにご飯をご馳走してくれたのである。
「滅茶苦茶機嫌悪そうだったって聞いてるけど……嬉しそうだね?」
そうでもなかったのかな~と思って聞いたニコラスだったが、リリアンの返事は笑顔での「はい!」だった。
「でもご飯美味しかったですし、なんと一緒に食べてくれたので『ご飯ミッション』もクリアですよ! それに『博士じゃなくて先生にしろ』って仰ってくれたんです。 ちょっと認めて貰えました♪」
「……ポジティブだなぁ。 私は先生に物凄く怒られたよ……」
「あはは(そりゃそうだよ)」
ポジティブというか、リリアンにとってはこれくらいの拒絶は想定よりずっと下だったので、全く問題ではない。
なんならあの時『クビ!』と言われてもおかしくなかったのに、ご飯まで食べさせてくれたのだからそりゃ浮かれもする。
「寮の門限は大丈夫だったの?」
「はい。 初日だし仕事内容がわからなかったので、一応『アルバイトにより八時までの帰宅』として申請していたんで」
「おお~流石」
(ただ、勉強ができなかったんだよな……)
仕事のスタートは上々。
なんか色々あったが、結果的に。
問題は勉強である。
確かにリリアンの成績は悪くはないが、かといって良いわけでもない。
卒業認定を含め、飛び級試験は四半期に一度。
春のは絶対に無理にせよ、できれば夏の試験にはなんとか受かりたい。
──というのに。
過去問をちょっとやってみたところ、二学年迄の履修分から出題されたモノすら大半がどうにもならなかったのだ。
それもその筈、バイトに勤しむリリアンは、授業でしっかり聞く以外に勉強をしていない。
試験前には範囲からヤマを張る系。当然試験が終わればすぐ忘れる。
『履修の調整はする』と言ってくれただけに、次の学年に上がる迄になんとか今迄の履修分を完璧にしておかねばならないが、既に難易度が高かった。
──リリアンが『リアン』として働き出してから、早くも一ヶ月が過ぎた。
いよいよ上の学年の卒業式が間近となり、同時に下の二学年は休暇前である為、授業は緩い。
皆は遊びに行ったりしているようだが、リリアンはその分少し早目にバイトに行っているので少し羨ましいが、仲間には入らない。
(遊びはお金と時間に余裕ができてから!!)
その日も早く行くべく荷物をさっさと纏め、寮へと戻るべく廊下を小走りで進む。
「リリアンさん」
ハイスクール舎の廊下でリリアンはクラス担当教諭クリフ・ニッシュに呼び止められた。
「はい?」
彼は落ち着いた独身の青年教師で、嫡男ではないが伯爵家子息と家柄もなかなか。
美丈夫という程ではないがそれなりに整った顔立ちでスラリと身長が高く、女生徒からの人気も高い。
ただしこの学園のハイスクール舎では、うら若きご令嬢方が通うだけに『クラス担当教諭≒聖職者』の場合が多く、ご多分に漏れず彼もそうだったりする。
クリフがリリアンに声を掛けた理由は──
「過去問、用意しといたよ」
コレである。
「あ、ありがとうございます!」
先日、図書室で過去の試験問題がないか探していたところ、クリフと出会した。
『用意してあげるよ』と言ってくれたので、リリアンは素直に甘えたのだ。
彼の使用している職員用の部屋についていくと、綺麗に束ねてまとめられた過去問を渡してくれた。
「飛び級、あ卒業認定かな。 受けるんだ?」
「ええ……まあ……受けたいな~と」
リリアンは、なんとなく笑って誤魔化しつつ答える。
(『誰かに頼まれた』とか思ってたのなら、そのままそう思っててほしかった……)
正直なところ今の成績で言うのはかなり恥ずかしいので、誰にも──クラス担当教諭である彼にも特に相談はしていない。
無謀にも程がある、と自分でも思うから。
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