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旅立ち

湖底の花

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 ぐんぐんと潜るに連れて、気泡の外側の青が濃く暗くなっていた。外の音もほとんど聞こえず、自分たちの声くらいしか聞こえない。
「なんだか昼じゃないみたい。」
 サンの言葉にレナードが同意する。 
「ここまで深くなると、魚も全然いなくなったな」
「もうちょっともぐる?」
 ジェマも周りが見えずに戸惑いながら気泡を捜査している。

「多分もう少しだよ、声が聞こえる気がする。」
 セルの言葉に耳を澄ますが、何も聞こえない。でも、シンの方でも確かに何か違和感があるような気がした。

「あ、あれだ。」
 あたりが夜とほとんど変わらないくらい暗くなった時、セルが下を指さした。
 気泡から二メートルくらい下にある地面の右側、よくよく目をこらすと、何もないそこに一つだけ、生えていたそれは昨日見た草…もとい、花とほとんど同じだった。

 その花を見つけたとほぼ同時に、ぽにょんと気泡が揺れて、地面に到着した感触がした。ゆっくりと立ち上がり、花の方へと歩き出す。気泡も歩くのに合わせてついてくる。

 花は、昨日見たものとは全然違う様子をしていた。
 膨らみかかけた蕾は硬く閉じたままだが、夕日の反射がない茎は全体的に細く、薄い色をしていた。
 ジェマにも近いてもらい、気泡で花ごと包み込み、近くで眺める。セルは少し触って、空気があってもだめみたいと首を振った。
「シン、やっぱり苦しそう」

 シンと、サラが声をかけた。
「サラの時みたいに直せないか?そしたら異常もなくなるんじゃないか。」
「あれか…やってみるよ」
 不調な部分があれば治りますように、シンはサラの時の感覚を思い返しながら、祈りを込めて手をかざす。だが、植物の様子は何も代わらなかったし、サラの時のような手ごたえが一切なかった。手のかざし方を変えて、三回くらいトライした後、シンは首を降って諦めた。

「どこも悪いところはないみたい」
「もしかして、太陽の光じゃないか」
 レナードがぼそっと言った。
「孤児院に畑があって色々植えてたんだけどさ、植物って、健康でも天気が悪い日が続くと、育たないじゃん。」
 そういえば、自分はそれが原因で処刑されかけたんだったなぁとシンは思った。

「だからここには他の植物がいないのかな。きっと相当辛い環境だったんだろうね」
 サンの呟きに、シンはそうだね、と返す。
「元が陸地の植物なら、そこに戻すしかないね」
 原因はよくわからないものの、ここで育たないはずの植物が異常を起こしているのであれば、とりあえず、もとに戻して様子を見よう。

 だが、花を掘り起こそうと手を土にかけた時、シンはぐいっと何かに引っ張られた感覚がした。
「え?」

 そのまま、シンは空気の塊から放り出され、なすすべもないまま、勢いよく上へ上へと運ばれ、ぽいっと湖面に吐き出されてしまった。
「かはっごほっ…あー、耳が痛い…」
 とりあえず、暴れないようにして仰向けで浮いて呼吸を整える。

「え、何がおきたんだ?」
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