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旅立ち

夢の啓示

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それから先はバタバタと用意を始めた。

地下室に置いていた食材は幾らかストックはあったが、保存用、携帯用に加工はされていない。
新たに狩った食材と合わせて、書庫の本を見様見真似で大量に加工をする。
力持ちのレナードが持ってくれるので、長旅に備えて少しでも多くの食材を用意したかった。

「僕はここの本を少しでも多く読んでおくよ」
保存食の用意に参加しないセルは、ほとんど書庫にこもって、ひたすら次の目的地とその周辺の国の本を読み漁っていた。
ジェマはみんなのお手伝いをしたり、セルがうとうとすると起こすと言う大役をしてくれていた。
「セルねない!」
「いたいジェマ!」

みんなで来る日に備えている中、その間、シンは夜になると決まって同じ夢を見ていた。

「おはようサラ」
「おはようシン」
「今日も夢に出てきたよ、あの男の子が」
「…そうか、今日はどんな夢だった?」
「今日は大きなコブのある木の後ろを見てみろだってさ」

サラを治すときにみた思い出に出てきた彼との夢を繰り返し見るものの、何も力に関することは思い出せない。毎日、昔寝込んでいた時に見たような、森で採取してた時の夢をみるだけだ。

だが、その夢に出てくる場所に、夢から覚めた後にそこに行くと、薬草や食材、逃げるの時に役立ちそうなものがある。
でも、シンは何よりも、懐かしい感じのするあの夢が見られるのが楽しみになっていた。

今日はどんな夢を見るんだろう、どんなことを教えてくれるんだろう。
そう思って寝たのは、サラが予想していた猶予より、2日早い日のことだった。

その夜の夢はいつもと違い、森の中ではなかった。
真っ赤に燃えた家の中から、男の子に手を引かれて脱出するところだった。

何が何だかわからないまま、その手が離れないよう、シンは必死に走り続けた。

周りの風景は小刻みに切り替わる。
誰かの叫び声がつんざくように耳に響くが、反響が酷くて何を言っているのかわからない。
石を投げつける人、武器を持って追いかけようとするひと、野次馬の人たち…目まぐるしく切り替わる映像のなか、男の子が立ち止まった。
こちらを振り返った瞬間とき、叫び声の反響が小さくなり、「逃げて」という大きな声が響いた。

その声があまりにも大きく、目を覚ますと、一拍置いて、ガチャっと扉が開いた音がした。
ギョッとしながら音の方を見るとレナードとセルとサラがいた。
「シン、セルとサラに起こされたんだ」
「よくない音と匂いがする。」
「いつもと様子が違う。追っ手の様子をサラは見てくる。」

サラが出て行った後、サンとジェマも起こして、着替えるためにクローゼットを開ける。
「あ…」
そこには、いつもより動きやすそうな着替えに加えて、背嚢と簡単な武器が入っていた。
シンの服は胸当て付きの男物だった。

家主の無言のエールに少し固まるシンの隣で、サンがつぶやく。
「追ってなんか来なければ、ずっとここに住んでたかった」
「そうだね…」サンの言葉にシンも同意する。

少し寂しい気持ちを抱えながら、着替えて背嚢に荷物を詰め込んでいると、サラが戻ってきた。
「やはり奴らがきていた。いつもの10倍の兵が、もうすぐ森の入り口につく」
「分かった…行きましょう。」
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