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待ち人達の昔話

森の暮らし

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目が覚めると、眩しいくらいの朝だった。

「おはよう。よく眠れたかい。」
サラの鱗が窓から差す陽の光を受けて、赤くきらきらと光っている。綺麗だなぁ、見惚れながらシンはゆっくりとベッドから起き上がる。

「生まれて初めてこんなに熟睡した気がする。夢みたいな寝心地でした。」

子供たちは流石にまだ寝ているようだ。
シンはそっと布団を抜け出して、クローゼットの中の服に静かに着替えた後、サラと廊下に出た。

「昨日はね、理に色々聞いてみたんだけど、それは教えてあげられないよって言われちゃった」
「あ、話したんだ」
「うん、サラと話すからってすぐにどこかへ行ったけど」
サラはパタパタと階段を降りるシンに合わせて飛びながら、呟いた。
「ひさしぶりにはなしたよ…」

「へえ、よかったね!ねえねえ、パンの作り方しってる?」
「あ、そこは興味ないんだ。」


森の悪魔の正体がサラだと言うことが分かったことで、すぐに他国へ逃亡する予定だったシン達だが、捜索が落ち着くまで、森に身を潜めるようにした。

朝は、パンを焼いてみんなで食べる。
食べた後は全員で力を使って狩りをする。
セルが見つけて、サンが守って、レナードが助けてくれる、まだよくわからないところもあるけど、少しづつ力も使って、この生活には段々と慣れてきた。

ただ、ジェマとシンは、相変わらず力が把握できていないこともあり、二人で力を試しては、いろんなものをよく爆発させていたので、誰かの近くでは力の練習をしないよう、3人と1匹にきつく言い渡されていて、力にはあまり慣れられていないが。
「ねえ、ジェマもちからつかいたいー」
「シンも練習したいー」
「俺ら、せっかく逃げてきたのにまだ死にたくねえよ」


また、空いた時間では、サラが追っ手に見つかった時の戦いかたの指導をしてくれた。
レナードは持ち前の身体能力、セルは感覚と記憶力で、グングンと成長していた。
サンも一生懸命食らい付いていか一方で、体の弱いシンは、ジェマの組手相手を任命されていた。
「えいっ!えい!」
「わた、僕だってさぁ、本気を出せばさぁ…ぐえっ」
「お、ジェマ、お主なかなか筋がいいな」
「えい!えいっ!」


セルは、二階の本棚の本も暇さえあれば読んでいた。
森での暮らし方や他の都市のことも書いてあるらしく、少し古いが「どこかで何かに役立つかも」と知識を吸収していったが、文字を読むのが苦手なシンはなかなか読み進められなかった。

晩御飯は地下の食材や調味料と、狩ったばかりの食材を使って美味しいご飯をお腹いっぱい食べて、そしてまた、フカフカのベットで寝る。
つい数日前までは考えられない生活だった。

一つ難点があるとすれば、前の住人が用意してくれるシンの服がいつまで経っても女の子用の服だということくらいだ。この点は、家主の譲らない気迫を感じるので、出て行った先で男物の服を買うしかなさそうだ。

「平和だなぁ」
子供たちの今後の人生を考えると、いつまでも森の奥に身を隠しているべきではない、いつか外の世界で、普通に暮らせる場所で色んな人たちと暮らすべきだと思う。
でも、シンは少しでもこの平和な時間が続けばいいと祈りながら、今日も小さな爆発を繰り返していた。
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