22 / 35
待ち人達の昔話
夜更かしの昔話
しおりを挟むその夜、サラと子供たちは交代でお風呂に入り、新しいパジャマで全員で一緒にベッドにダイブした。
この部屋には埃がほとんど積もっておらず、布団はどこかお日様の匂いがした。
「お布団きもちいね」
「ふかふかぁ」
「お姫様みたいー」
「俺もうおきれない」
「生きててよかった…」
とろけるような肌触りで、ふかふかのお布団は、お風呂で暖まった体に心地よく、子供達4人はすぐに寝てしまった。部屋はふたつには分かれていたが、ベッドは5人が一緒に寝ても十分に余裕のある広さだったので、シンはそのまま寝させてあげることにした。
だが、シンだけはなんだか寝付けないまま、子供達を見つめながら、膝でまるまっているサラを撫で続ける。
「サラ、色々教えてくれてありがとうね。」
「こちらこそ、助けてくれてありがとう」
「もう崖から落ちたりしないでよ」
「はいはい、気をつけるよ」
サラも寝付けないのか、夜行性なのか、ゆらゆらと尻尾を心地良さそうに揺らしつつ、ゆったりとつぶやいた。
「全然。この感覚…、懐かしいな」
懐かしそうにつぶやくサラとは裏腹に、心当たりのないシンは少し首を傾げた。
すると、相槌の間で感づいたサラが、尻尾の動きを止めて、シンに問いかけた。
「さっき、シンは昔の記憶がないと言っていたけど、いつからなんだ?」
「寝込みがちだったから、いつからとは言えないんだけど…10年前、10歳より前の記憶はほとんどないの」
「…だからサラの記憶がないのか」
動きを止めた尻尾がすっと布団の上に落ちた。
「さっき川で治療している時に見えたものは夢じゃないんだよね…でも、あの時見えたこと以外は思い出せないんだ」
いつの間にか、シンの撫でる手も止まっていた。
「それに、理っていう子に夢であった時に、僕は力と記憶を封じ込めて、体のバランスを保ってるって言われた。無理に思い出すと危ないから私からは教えられないって。」
「理が言うのなら仕方ないな。」
なぜか納得した様子のサラを不思議に思ったシンはさらに質問をする。
「サラは知ってるの?」
「理のことか?ああ。理はいつも2人のそばにいた。あれは不思議な存在で、たまにサラの前にも出てきてくれたけど、色んな姿をしていてよくびっくりした。」
「そうなんだ、僕はまだ他の姿で会ってないから楽しみだな。」
「そのうち会えるよ。」
再び、尻尾を揺らし始めたサラは、しかし…と続ける。
「でも、理が言えないって言うなら、サラからも記憶のことはあまり言わない方がいいな」
「そうなのかな。ごめんね、せっかく会えたのに」
「大丈夫だよ、サラを直した時みたいに時がきた時にゆっくり思い出していけばいい。」
そこまで言って、一拍おいたサラは、少しだけ顔をあげて、綺麗な紅蓮の瞳をシンに向ける。
「それに、もう会えないと思っていたから、そんなこと、たいしたことじゃない。」
「ありがとう。」
サラをそっと抱き寄せて、頬を寄せながらシンは、色んな溢れる気持ちを込めてお礼を言った。
その後、力や重要なこと以外なら答えてあげると言ったサラにシンはいくつか質問をしていた。森のおすすめの場所、この森に人がきたことがあったのかどうか・・など、ぽつぽつと聞いていた。
しばらくして、そういえば…と、気になっていたこともサラに聞いてみた。
「ねえ、サラ、この家を作った男の子は今どうしているの?」
先ほどまで、饒舌だったサラだが、それには答えない。尻尾をパタパタと振っているのはおそらく否定の意味だろう。
この辺りのことは力に関わるから、教えられないのだろうか、それとも思い出すのが辛いことかもしれない。
無理に聞き出すことはせず、シンはかわりに別の質問をしてみることにした。
「夢に出てきた男の子はどんな人だったの?」
これにはすぐ答えてくれた。
「自信過剰で、嫉妬深くて、むかつくけど、たまに…いいやつ」
最後の言葉をものすごく小さく、苦々しげに言う様子に思わず吹いてしまった。
「仲が良かったのね」
「そんなことはない」
サラはシンの言葉をすぐに否定したが、だけど…と小さく続けた。
「喧嘩相手がいないのは、少し寂しかった」
「じゃあ、これからたくさんぼくと喧嘩しようね」
ふふ、とサラが笑う声がした。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる