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異端の子供達

りんごの家

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埃っぽい匂いがして、急に体が重く感じた。

「んん…」

「あ、シリン起きた!!」

身じろぎをすると、子供たちの声が次々と聞こえてくる。

「シリン大丈夫?」
「急に倒れたからびっくりしたよー?」
「食べるもの持ってこよう!」

ゆっくり目を開けて、体を起こす。
何処かの家のようだ。6人掛けのテーブルのそばにあるラグの上に寝かされていた。

「ここは?」
「わかんない!」
メルが綺麗な金髪をふわふわと揺らしながら首を振り、チアリが代わりに答える。
「シリンが倒れてね、どこかに運ばなくちゃって探してたらあったの!」

「誰が運んでくれたの?」
「ぼくだよー!」とラークが手をあげる
「え、ここまで?一人で?」
「そうだよー」
ラークの体力に感心しつつ、と言うことは、ここは倒れた場所からそんなに遠くない場所なのだろうかと、推測する。
考え込んでいると、チアリが剥いたりんごを差し出してくれた。
「シリン、りんご食べれる?」
「え…ありがとう」
大好きなりんごだ。
思わぬところで好物を差し出されて、シリンは驚きながらゆっくりと口に運んだ。
優しい甘さが乾いた喉を潤しながら、口の中に広がる。

「すごく久しぶりだなぁ、ふたりの看病してた時も食べられなかったし…」
両親が最後に食べたのはシリンが髪と交換で街の商人からもらったりんごだった。
ずいぶん短くなった髪とりんごを見て、両親は少し泣いたけど、美味しいと言って食べてくれて、いつもより話すことができた。
それがなくなる前日の、最後の会話だった。

ほんの数日前の出来事だったはずなのに、その後に色々と起こりすぎて、シリンは何年も前のことに感じた。
遠くなった思い出を噛み締める様に、一口一口しっかり噛んで飲み込む。
「美味しいなぁ…」
なんだか喉の奥が少し酸っぱくなっていたから、りんごの冷たさと甘さがちょうどいい。

「りんごありがとうね」
渡してくれたりんごを食べ終えたあと、シリンはチアリに礼を言った。

「でも、このりんご、どこで取ったの?」
「この家の近くに勝手になってたの」
「そうなのね」
近くに美味しい食料があったのは幸運だな、なんて考えつつ、やっと再び動き出した頭で今後のことを考えはじめる。

まずは状況の整理だ。

「私はどれくらい眠ってたの?」
シリンの問いかけに、メルとラークが答えてくれた。
「えとね、シリンがたおれてからだよ!」
「夕方に倒れて、さっき日が上ったところだから、だいたい半日ちょっとくらいかな。」

子供たちによると、シリンが倒れた後、家には村の外れから歩きつづけ、日が沈んだ直後の、周りがが完全に暗くなる少し前にたどり着いたらしい。

家はしばらく人が使っていた気配はなく、廃墟のようだが、見回す限り、どこかの柱が朽ちているといった様子はない。
もしかすると、数年前までは、無精な人がたまに使っていたのだろうか。
分厚いほこりの割にしっかりした様子だった。

そして、子供たちは、見つけた家で布類をかき集めてシリンを寝かせたあと、周囲の様子を確認しながら、食べられそうな植物だけ探して、そのあとは家の中でシリンに寄り添って暖をとりながら寝ていたらしい。

その間、シリンはずっと寝ていた。

「なんか…本当にごめんなさい」
シリンは思わず頭を抱えた。

よく見ると、チアリとラークの目の下は少しくすんでいる、年上の2人は寝られなかったんだろう。
それにもかかわらず、疲れを見せない笑顔で、チアリは、でもね、と続けた。
「周りは暗くなるころだったし、昨日はあまり外を見れなかったの。知らない場所だから昼間でも少し怖いなと思ってたから、シリンが起きてくれてよかった。」
「冒険しにいこうぜ!」
二人の気遣いに目頭が熱くなる。
「優しい言葉をかけないで…泣いちゃう…」
「なかないでー」メルが頭をぽんぽんと撫でてくれた。本当に少し泣いた。

気を取り直したシリンと、子供たちは出かけるために簡単に準備を始めた。
シリンは子供達がかき集めてくれた、タオルなどの布類をたたみつつ、改めて部屋をぐるっと見回して観察する。

部屋の隅に、腰の高さの窯のような大きな暖炉はあるが、薪は脇にあるもの終わりそうだから準備が必要か。まだ秋だが、朝晩は冷え込む。

食料も、廃墟なので、りんご以外はないはず。

しかし、意外と、調理器具と斧なんかは一通り揃っているようだ。
生活感があるのは助かるが、誰が住んでいたのか、どうしてそれらを残したまま廃墟になったのか…
そんなことを考えながら眺めていると、心がさざなみ立つ気がした。
「住人が今も住んでるとか…はないよなぁ」
少し怖い気持ちもあるが、まあ、そこは私が気をつけていれば良い。
シリンは気持ちを切り替えて子供達に声をかける。
「よし!とりあえず今日は食料と薪を探そうか!」
「斧は俺が持つー!」
「ラーク危ない振り回さないの!」

子供達の賑やかなやり取りに、一人じゃなくてよかったとシリンは感じた。
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