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第8話 (幕間)手料理の特権
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君があんまりにも美味しそうに食べるから、苦手だった料理が、いつの間にか得意になった。
「ああ…しみる…。」
「なんかおじさんみたい。」
「おじさんでもいい…このご飯食べてる時が一番幸せ…。」
目を閉じて、お味噌汁を噛み締めるその顔は、これでもかというくらい気が抜けていて、思わずこちらの頬まで緩んでしまう。
普段外では気を張った姿しか見せていない、そんな格好良い君の、貴重な姿が見れるのは、役得だと思う。
きっかけは、二人で迎えた何度目かの朝に、たまたまその日が休日だったから、家にあるもので朝ごはんを作ったことだっただろうか。
パンを焼いて、卵とウインナー、カット野菜のサラダを盛り付けただけのごく簡単なものだったけれど、君はとても喜んでくれた。その顔が見たくて、泊まるたびに作るようになったご飯がだんだん豪華になり、ついには晩御飯まで作るようになった頃には、泊まるというよりも住んでいるという表現の方が近くなっていた。
「今日はご飯作れそうなんだけど、何が食べたい?」
「んん、お鍋が食べたい。」
「おっけー、じゃあキムチ鍋にしようか。」
「やったー!」
お互いの生活リズムが安定していないから、一緒に食べれるご飯の頻度はそんなに多くはないけれど、少しでも君が早く帰ってきたくなるように、ここでの生活が少しでも長く増えるように、そんな願いを込めて今日もせっせと君のための料理を作る。
「ねえ、椎茸買い忘れたの?」
「あ、ほんとだごめんね。」
鍋といえば、とりあえず豆腐と椎茸!という紗恵子の指摘に、秋は今気づいた!という顔を作って詫びた。
「白々しい…けどまあ、キムチ鍋には、椎茸なくてもいいか。」
「今度は忘れないよ…って、ほら、にんじん避けないでよ。」
「ええ…、今日は疲れたから嫌いなもの食べたくない。なんでキムチ鍋にいれるかなぁ。」
自分のことを棚に上げた指摘だな、と思うが、紗恵子はブウと頬を膨らまして、花形の人参を箸で突いていた。
「俺、好き嫌いの多い紗恵子にも食べてもらえるように、花形につくるの頑張ったんだから、食べてあげてほしいな。」
秋がそう言えば、苦手な野菜もすごく嫌そうな顔ではあるが、紗恵子はちゃんと口に運んでくれる。頑張って克服させるから、他の人にそんな顔見せないでよ。そんなことを歪なにんじんを口に入れながら秋は思った。
そんな穏やかな日々も、過ぎ去ってから数年が経ては、記憶も曖昧になってしまう。
それでも、ふと何かの拍子にこの思い出はどうしても復活してくるのだ。
「あ、この型抜きおんなじ形だ。」
「どうしたんだ?」
誰に聞かせるでもなくつぶやいた声は、ちょうど隣に座っていたshiroに聞かれていたようだ。
「なんでもないよ。」
「せっかく宿の人が晩の予定のご飯を朝にしてくれたんだから、しっかり味わおうぜ。」
ツアーの最中、泊まったホテルは社長との付き合いが長いこともあり、間に合わない晩ご飯の代わりに、朝ご飯として、晩に出す予定の料理を振る舞ってくれていた。花形のにんじんの乗った一人用の鍋も、本来は夜用のものだった。
「なあshiro、椎茸、俺の分も食べる?」
「いいの?俺好きだからラッキーだわ。」
そういえば、あの家を出てから、花形のにんじんは滅多に見かけなくなったし、よく椎茸を避けるようになったな…椎茸を隣の鍋に移しながら、acheはそんなことを思った。
「ああ…しみる…。」
「なんかおじさんみたい。」
「おじさんでもいい…このご飯食べてる時が一番幸せ…。」
目を閉じて、お味噌汁を噛み締めるその顔は、これでもかというくらい気が抜けていて、思わずこちらの頬まで緩んでしまう。
普段外では気を張った姿しか見せていない、そんな格好良い君の、貴重な姿が見れるのは、役得だと思う。
きっかけは、二人で迎えた何度目かの朝に、たまたまその日が休日だったから、家にあるもので朝ごはんを作ったことだっただろうか。
パンを焼いて、卵とウインナー、カット野菜のサラダを盛り付けただけのごく簡単なものだったけれど、君はとても喜んでくれた。その顔が見たくて、泊まるたびに作るようになったご飯がだんだん豪華になり、ついには晩御飯まで作るようになった頃には、泊まるというよりも住んでいるという表現の方が近くなっていた。
「今日はご飯作れそうなんだけど、何が食べたい?」
「んん、お鍋が食べたい。」
「おっけー、じゃあキムチ鍋にしようか。」
「やったー!」
お互いの生活リズムが安定していないから、一緒に食べれるご飯の頻度はそんなに多くはないけれど、少しでも君が早く帰ってきたくなるように、ここでの生活が少しでも長く増えるように、そんな願いを込めて今日もせっせと君のための料理を作る。
「ねえ、椎茸買い忘れたの?」
「あ、ほんとだごめんね。」
鍋といえば、とりあえず豆腐と椎茸!という紗恵子の指摘に、秋は今気づいた!という顔を作って詫びた。
「白々しい…けどまあ、キムチ鍋には、椎茸なくてもいいか。」
「今度は忘れないよ…って、ほら、にんじん避けないでよ。」
「ええ…、今日は疲れたから嫌いなもの食べたくない。なんでキムチ鍋にいれるかなぁ。」
自分のことを棚に上げた指摘だな、と思うが、紗恵子はブウと頬を膨らまして、花形の人参を箸で突いていた。
「俺、好き嫌いの多い紗恵子にも食べてもらえるように、花形につくるの頑張ったんだから、食べてあげてほしいな。」
秋がそう言えば、苦手な野菜もすごく嫌そうな顔ではあるが、紗恵子はちゃんと口に運んでくれる。頑張って克服させるから、他の人にそんな顔見せないでよ。そんなことを歪なにんじんを口に入れながら秋は思った。
そんな穏やかな日々も、過ぎ去ってから数年が経ては、記憶も曖昧になってしまう。
それでも、ふと何かの拍子にこの思い出はどうしても復活してくるのだ。
「あ、この型抜きおんなじ形だ。」
「どうしたんだ?」
誰に聞かせるでもなくつぶやいた声は、ちょうど隣に座っていたshiroに聞かれていたようだ。
「なんでもないよ。」
「せっかく宿の人が晩の予定のご飯を朝にしてくれたんだから、しっかり味わおうぜ。」
ツアーの最中、泊まったホテルは社長との付き合いが長いこともあり、間に合わない晩ご飯の代わりに、朝ご飯として、晩に出す予定の料理を振る舞ってくれていた。花形のにんじんの乗った一人用の鍋も、本来は夜用のものだった。
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「いいの?俺好きだからラッキーだわ。」
そういえば、あの家を出てから、花形のにんじんは滅多に見かけなくなったし、よく椎茸を避けるようになったな…椎茸を隣の鍋に移しながら、acheはそんなことを思った。
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