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第一章 悪役王女になりまして

16. それは、ちょっとした違和感

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 アルフォンスに聞いてみることにしたものの、それまでは暇なので、書類整理をしておく。
 あの書類を書いたのがエルルーアだとバレてから、アルフォンスにやっておけと言われているからだ。

(人使いが荒いなぁ、あの王子さまは!)

 フラストレーションはもうかなり溜まっている。冷静でいられるのが不思議なくらいだ。いつ爆発してもおかしくない。
 爆発しないのは、爆発したら一気に前までのエルルーアに逆戻りだからだ。今までのことが水の泡になってしまうので、ぎりぎり導火線に火がつかない。今にも着火しそうだが。

「……うん?」

 5枚ほどまとめて、次をやろうとしたところで、手に取った書類に意識が行った。
 内容としては、そんなにおかしくない。設備の改善だ。フレイマーの調子がおかしいので、修理してほしいというもの。
 フレイマーは、彩花の国でいう、ストーブや、ヒーターのようなものだ。それで、少し違和感を覚えた。

(今の時期にフレイマー?もうすぐ梅雨なのに)

 日本で作られた乙女ゲームだからか、この世界には四季が存在する。日本と同じように、梅雨も。
 エアコン──こちらでは、アイシクルという冷却装置──ならおかしくないが、今の時期にフレイマーはおかしくないだろうか。
 なぜなら、梅雨が終われば夏になるからだ。

 壊れているから、直しておいてという文体ならわからなくもなかったが、今すぐに直してほしいと書いてある。

(アルフォンスがこんな間抜けなものに引っかかるのかしら?)

 少し考えれば、おかしなことを書いてあることくらいはわかる。
 以前のエルルーアよりも、アルフォンスは賢かった。彩花に口で勝てるくらいなのだから、彩花よりも賢いであろうことは想像がつく。自分でも気づいたのだから、アルフォンスが気づかないとは思えなかった。

(もし引っかかったとして、何が目的なのかしらね。アルフォンスのサインがほしいんでしょうけど……何かを大々的にやろうとしている?)

 ここの生徒会長で、王子でもあるアルフォンスが許可したら、止めることは難しい。自分も、サインをしたことには間違いないので、アルフォンスが止めるのも難しい。
 とりあえず、書いていた通りにまとめておいて、違和感があるということもメモにして置いておいた。小さい紙がなかったので、白紙をちぎって。

(ちょっとだけ、見に行ってみる?)

 書き終わった書類は、見張りでもあるアランに渡して、彩花は窓の外をみる。少し曇り空で、外には人が見当たらなかった。
 彩花は、音をたてないように注意して、見開きの窓を開ける。そして、窓の枠に足をかけた。
 そして、再び後ろをチラッと見たあと、彩花は、保険のために、魔力を纏って、身体を守ったあと、サッシに手を乗せて、足を降ろし、サッシに腰かけるような形になり、さらに腰を降ろして、手でぶら下がっているような感じになった。
 彩花は、落ちないように手を魔力で強化する。
 そして、指を使って、横に移動し、端まで移動したあと、柱に捕まる。後は、捕まりながら上り棒のように降りていった。

(意外と、思うように体が動いたわね)

 アクション子役としての知識や経験を元に動いただけなので、そんな行動をしたことがないエルルーアは、うまく体が動かないと思った。だからこそ、保険として、魔力を纏って、防御していた。
 それが自分の思う通りに動いてくれたので、怪我一つなく、地上に降り立つことができた。

(この外見だと気づかれるかもなぁ)

 そう思った彩花は、服についているリボンをほどき、一本の紐にしたあと、髪を結んだ。
 そして、黒色の元になる、ユーメラニンを魔法で増やした。回復魔法の応用だ。本来、癒しは、傷口を塞いだりするくらいで、新たに再生させるのは、よほどの腕でないと難しい。
 エルルーアの魔力は強いので、彩花の想像力と合わさり、あっさりと応用の魔法を使ってしまった。
 これで、今の髪色は、栗色から、さらに暗いダークブラウンになった。
 ここまで変わっていれば、よほどでない限りは、エルルーアだと気づかれないだろう。

 彩花は、先ほどの書類について調べるために、魔道具の保管場所に向かった。
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