悪妃の愛娘

りーさん

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14 納得がいかない

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 私は、お母さまに愚痴を言っていた。

「私……私……納得できません!」
「そう言われてもねぇ……」

 お母さまは、困ったように言う。でも、本当に納得ができない。あの、あの国王が、あんな風に言われてるなんて……!

 国王が来た翌日、本当に私の元に何かが送られてきていた。
 中身を見ると、リストのようだ。それは、大きく二つに分かれている。
 一つは、朱星輝宮に勤めていた使用人たちの名前や、行われた処分などをまとめたもの。
 もう一つは、フリーの使用人だ。
 使用人は、専属とフリーの二つに分けられる。主の目に止まり、主の世話などを専門に行うのが専属。
 各地にある宮の掃除や、洗濯など、その他諸々の雑用などを行っているのがフリーの使用人だ。
 そして、その資料と共に、手紙……いや、手紙とも呼べない指示が置いてある。

『朱星輝宮の新たな使用人を決めておけ』

 言葉を飾るでもなく、長ったらしく書くでもなく、ただそれだけが書いてあった。
 どうやら、私に任せると言ったことはこれらしい。
 何を任せられるのかと思っていたら、思ったよりもまともなことだった。相変わらず、あの国王が何を考えているのかわからない。
 今まではどうでもよかった存在だったけど、こんな風に関わってきたなら、放っておくのもなぁと思い、国王についていろいろと調べてみることにした。
 周りは、国王が訪ねてきたことは知っていても、私が国王をどう思っているのかとかは知らないから、お父さまのことをもっと知りたいと言えば、みんなペラペラと話してくれる。
 それを繰り返すこと、およそ三日。聞き取り調査の結果、出てきた言葉は、ほとんど同じだった。

「なんで賢王とか、名君なんて呼ばれてるんですかぁ……!」

 私は、えぐえぐとお母さまに泣きついている。
 ちなみに、私が離れるとマリエたちが泣いてしまうので、お母さまにこちらに来てもらった。
 ちなみに、マリエたちは今はお休み中だ。

「あなたが陛下と何があったのかは知らないけど、陛下は国王としての器は悪くないもの」
「あり得ません!!あんな、あんな男が国民から慕われるなんてことあるはずがありません!」
「ほんと、何があったの……?」

 お母さまは、私の言葉に困惑しているけど、論点はそこではない。
 マリーや、有給休暇から戻ってきたニアなど、私やお母さまの周りの使用人たちにも聞いてみた。
 でも、賢王とか、名君と呼ばれているという回答がほとんどだった。
 私は、五人目くらいまでは、幻聴でも聞いているのかと、本気で疑ったくらいだ。
 あんなモラハラ男のどこが名君なんだよ!!私との会話の内容、九割が罵り言葉だったぞ!?見る目がない……見る目がなさすぎるよぉ……!

「絶対に……あり得ないんだぁ~……」
「う~ん……。でも、国民たちの生活の質が向上したのは、陛下のいろいろな政策のお陰だし……」
「あり得ません」
「奴隷制度を無くしたり、税制改革もやって、必要以上に取り立てていた貴族や税務官を罰したりしていたのよ?」
「嘘です」

 私は、いくらお母さまの言葉でも信じられなかった。
 だって、それは善人の話だ。あんな極悪人を超越した何かの話ではない。あの男と会話をした男なら、絶対に、全員が信じないよ!
 でも、これらはまだいいんだ。私が、最も信じられない国王の政策はーー

「それに、陛下が登用制度も変えたのよ?侍女だけでなく、料理人や騎士団や文官も、男性や貴族ばかりでなく、女性や平民が登用できるようにすべきだって。お陰で、実力があれば誰でも高い権力を得やすくなったから、優秀な人材がどんどんお城に来てくれてーー」
「それが一番信用できません!!」

 そんなことができる男が、妻を泣かせるか?自分の娘を罵るか?答えは否だ!私は信じない!納得がいかない!

「それなら……なんで私を、あんなにも、バカにして……!」

 今思い出しても腹が立って仕方ない。
 お母さまは、私がこんな態度なのにやっと納得がいったという表情をして言う。

「多分、陛下なりの忠告だと思うわよ?」
「いや、あれは人をバカにして楽しんでいます」

 あれが忠告だと!?もっとあり得んわ!あんな好き勝手言われて、誰が忠告だと思うんだよ!

「なんて言われたの?」

 そう聞いてきたお母さまに、私は一言一句同じことを言った。

「やっぱり、忠告よ。それと、気遣いね」
「そ、そんなわけないですよ!忠告だとしたら、一体何の忠告だというんですか!それに、気遣いなんて!あの人はそんな言葉は知りませんよ!」
「あなたがいろいろと行動していることに関してのね。福利厚生のことは、わたくしが言い出したことだから問題ないけど、あなたがマリエ王女やラファエル王子を白星輝宮に招いたのは、すでに城中に広まってるもの」
「そ、そうだったんですか!?」

 驚いたけど、考えてみれば当然のことかもしれない。
 福利厚生のことも、すぐに広まっていたし。

「で、でも、それと忠告とは何の関係があるんですか?」
「あまりあなたには、貴族の裏側とかは話したくなかったけど……この国には、派閥というものがあるのよ」
「派閥って、どんな……?」
「あなたとラファエル王子の派閥よ?」
「わ、私とラファエルの!?」

 何もかもが初耳なんですけど!?でも、こういう時代なら、派閥争いとかがあってもおかしくはないのか。
 むしろ、それが過激になっていないのを喜ぶべきなのか……?

「どちらが王位を継ぐべきなのかというくだらない争いね。ラファエル王子が生まれてからそうなったわ」

 ラファエルが生まれてから……となると、私が二歳の頃か。

「陛下は、ラファエル王子に継がせようとしているみたいだわ。いくら陛下が改革をしたとはいえ、女性に従うなんてと考えているのはいくらでもいるもの」

 う~む……それは難しい問題だ。
 それにしても、お母さまも私を五歳として扱わないよね。国王みたいに残酷な言葉は使わないけど、普通の五歳児なら理解できないと思う。福利厚生のプレゼンをしたからかな?

「陛下があなたに会いに来なかったのも多分、それが理由じゃない?陛下に目をかけていたら、あなたの派閥が大きな顔をして城を歩くようになっちゃうもの」
「でも、ラファエルにも会ってませんよね?」
「それも同じよ。表向きは、陛下は中立を保っていたんだと思うわ。国王の後ろ楯って、この国では、一番強い後ろ楯だもの。ラファエル王子の派閥が大きな顔をすることを防ぐのと、ラファエル王子の暗殺を防ぐためだと思うわ」

 う~ん……そう、なのか?いやいや。そうだとしても、子どもを放置した罪は重いぞ……って、うん?お母さま?今、さらっと、とんでもないこと言いませんでした!?

「あ、暗殺って……」
 
 私がガクガクしながら聞くと、お母さまは当然というように言った。

「だって、あなたを女王にして、権力を握りたい存在からすれば、ラファエル王子は邪魔なんだから、消したくなるわよ。今まで見向きもされてなかったのは、力のない王子だからよ。力のない王子をわざわざ、危険な橋を渡ってまで行おうとする者は少ないわ」
「そ、そうなんですか……」

 ら、ラファエルが、そんな危険な立場だったとは……!それも、私のせいで!
 ごめん。ごめんね、ラファエル……!

「陛下は、親としては確かに大問題だと思うけど、国王としての判断は、間違っているとは言いきれないわ。だからこそ、あなたが陛下に利用されそうで、わたくしは怖いのよ」
「わ、私はお父さまに利用なんてされません!」
「陛下の挑発に乗せられて仕事を押しつけられたあなたが言っても、説得力ないわよ」

 お母さまが、笑顔で切り捨てる。
 私は、言い返したかったけど、ぐうの音も出なかった。

「優秀な者だったら、たとえ実の娘でも、利用しなければならないのが国王よ。国王は、一人の父の前に、国のことを考えなければならないもの。家族でも、優先されることではないわ」
「お母さま……」

 お母さまは、王妃の顔をして言った。それは、少し悲しそうに見えた。

「……お父さまのことが好きなんですか?」
「…………ふぇっ!?」

 先ほどから国王を庇うような発言ばかりしていたので、もしかしたらと思ったけど、お母さまは顔を真っ赤にしている。まるで、茹でダコみたいな状態だ。
 これは、的中か?

「あれ?違うんですか~?」

 私はニヤニヤしながらお母さまに聞く。お母さまは、まだ顔を赤らめたままだ。

「ち、違わない……けど。違わないけど!いきなり聞くことじゃないでしょ!?」
「つ、つい口から出ちゃって……。それで、お母さまはお父さまのこと好きなんですね~」

 別に、あんな男好きになるべきじゃないとか、そんな風に言うつもりはない。
 人が好きになるのに理由がないのと同じように、誰を好きになるのかは、その人の自由だし、誰だって好かれる権利はあると思う。変わってるなとは思うけど。

「と、とにかく!陛下はそういうお方なの。陛下にも非はあると思うし、どうしても合わないのなら仕方ないけど、先入観は持たないでちょうだい」
「はーい……」

 多分、あの国王とは分かり合えることはないような気がするけど、お母さまがそう言うなら、先入観は捨てることとしよう。
 でも、あの態度はまだ納得いかんぞ。

「それじゃあ、マリエ王女とラファエル王子の相手をしてあげて。かなり不機嫌になっているわよ」

 私が慌てて振り向くと、ぷくっと頬を膨らませている弟妹がいた。
 いつから起きていたんだろう……?場合によっては、結構まずいことを聞かれていたんじゃ……?
 私の焦りを感じ取ったのか、お母さまが耳打ちしてくれる。

「大丈夫よ。あなたがわたくしに、陛下が好きかどうか尋ねた辺りから起きていたから」
「そ、そうでしたか……」

 つまりは、あの重い会話は聞かれていなかったということか。その点は、少しほっとした。

「では、わたくしは帰るから、お姉さまはお返しするわね」

 お母さまは、マリエとラファエルに微笑む。
 ずっと不機嫌だったその顔は、その言葉で一気に上機嫌になって、抱きついてきた。
 これじゃあ、お母さまをお見送りできないな。でも、お母さまも許してくれるだろう。今は、この子たちと遊んであげないとな。
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