悪妃の愛娘

りーさん

文字の大きさ
上 下
12 / 19

12 ついにやってきた

しおりを挟む
 絶対にないと思っていたわけではなかった。
 福利厚生の件はともかく、マリエとラファエルの保護なんて、確実にあの男・・・の耳に入るに決まっている。だけど、まさか、こんなに早いとは。

「お前は、何を考えている」

 偉そうにふんぞり返ってそう言うのは、この国で最も偉大で冷血な男。

「私は、自分の心のままに行動しているまででございます。お父さま」

 私は、その男から視線をそらさずにそう言ってのけた。

◇◇◇

 事の発端を説明するには、今日の朝まで時間を巻き戻さなければならない。
 マリエとラファエルを保護してからおよそ三日。まだまだ二人は私を離してくれないので、一緒の部屋で寝ていた。
 後見人の件は、二人はよくわかっていなかったみたいだけど、お母さまに会うかをたずねたら、私と一緒なら会うと言ったので、お母さまに白星輝宮まで来てもらった。
 本来なら、私のほうが立場が下なので、私が白月光宮まで出向かなければならない。本来なら、失礼な行いだ。
 でも、お母さまはそんなことでは怒らない。私の事情をよくわかっているから。

「あなたたちがマリエ王女とラファエル王子ね。わたくしはアイリーン。リリーの母親よ」

 お母さまは、私の後ろに隠れている二人に視線を合わせる。
 侍女たちが慌てていたけど、私が手で制した。
 お母さま付きの侍女は、お母さまがしゃがむことで、頭を低くしたから慌てていたのだろうけど、白星輝宮の侍女たちが慌てている理由がよくわからなかった。
 ギャン泣きされるとでも思っていたのかな?自分で言うのもなんだけど、私がいるから大丈夫だと思う。
 現に、二人とも、お母さまに多少の警戒心は抱いているようだけど、ギャン泣きしたり、ブルブル震えたりはしない。

「ねえちゃまの……かあしゃま?」

 ラファエルが、私の後ろから顔を出して言う。うん、かわいい。

「ええ、そうよ。この国の王妃というのをやっているから、王妃さまと呼んでくれればいいわ」
「おーひ?」
「おーひしゃま?」

 二人は、こてんと首を傾げている。まだ三歳だ。母親の意味はわかっても、王妃の意味はわかっていないだろう。
 でも、おーひしゃまなんてかわいいが過ぎる!!

「リリー……弛んでいるわよ?」
「あっ……すみません」

 お母さまに呆れたように言われてしまって、私は慌てて通常通りに戻す。
 二人は、今度は私のほうを見て首を傾げている。

「マリエ王女。ラファエル王子」

 名前を呼ばれると、私に向けていた視線を、お母さまに向ける。

「あなたたちのお母さまはユリアさまだけど、わたくしも、あなたたちと一緒にいてもいいかしら?」

 お母さまは、なるべく二人が理解できるような言葉を選んでくれている。女神さまお母さま……!

「ねえちゃまも?」
「ねえちゃまもいっしょ?」
「ええ、もちろんよ。そうでしょう?リリー」
「当然です。私は二人のお姉さまなので!」

 私が胸を張ってそう言うと、二人が強く抱き締めてくる。
 その顔は、とても嬉しそうに笑っていた。

「じゃあ、わたくしが一緒にいてもいいか、あなた方のお父さまに聞いてみますから、もう少し待っていてくださいね」
「「あい」」

 げっ!でも、そうか。今の二人に対しての様々な権限は、国王が持っているから、後見人とはいえ、国王の許可がいるのか。
 あの人のことだから、好きにしろとか言って、あっさり許可するような気がするけど。

 その私の予想は見事に的中し、王子たちのことを優先するのならばかまわないとあっさりと許可が降りたのだとか。
 王子たち……王女が入ってねぇなぁ?たちに含まれるのかもしれないけど、なんか悪意がないか?
 そのやり場のない怒りを抱え、私は双子を可愛がっていた……のだけど。
 午後、私たち三人で昼食を取り、双子がお昼寝した直後に、事件は起きた。
 お母さまも一緒に食べてもらおうかと思ったけど、最低限の身なりも整っていない二人を王妃の宮である白月光宮には入れられないし、かといって、お母さまもそうほいほいと白星輝宮に来られる立場ではない。
 だから、お母さまだけは別だ。
 だけど、そんなことは今は関係ない。双子を寝かしつけた時に、見計らったかのようにそいつはやってきたのだ。
 二人を起こしてしまうことを憂いた私は、とりあえず客室のほうに案内するように指示。また離れてしまうのは心苦しいが、かといって、あの男の前に立たせるわけにもいかない。
 今回は、同じ宮だから、さっきよりもひどいことにはならないはずだ。
 そして、私は、客室のドアを開けた。

「お久しぶりです、お父さま」

 私は、目の前の人物ーー国王に、静かに頭を下げた。

「礼はいい。早くそこに座れ」

 ここは私の宮だってーの!何をこの部屋の主人みたいにやってんだこの野郎!
 内心では罵りながらも、私は「はい」と返事をして、向かい側に座った。

「事の顛末は、王妃からある程度は聞いた」

 最低な男でも、国王は国王だ。言葉の一つ一つに、王さまらしい重みがある。私の緊張も、さらに引き締まるのを感じた。

「お前は、何を考えている」
「私は、自分の心のままに行動しているまででございます。お父さま」

 私は、静かにそう返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクのコイビト

RU
BL
ボク…こと、神巫夏奈太は小学生。 パパは独り者で、家事はカナタが請け負っている父子家庭。 そんなカナタが、マンションの前で運命のヒトと出会った! ◎注意1◎ こちらの作品は'04〜'12まで運営していた、個人サイト「Teddy Boy」にて公開していたものです。 時代背景などが当時の物なので、内容が時代錯誤だったり、常識が昭和だったりします。 (本編の場合、カナタの持っている携帯ゲーム機などがヒジョーに旧式です) 同一内容の作品を複数のサイトにアップしています。 ◎注意2◎ 当方の作品は(登場人物の姓名を考えるのが面倒という雑な理由により)スターシステムを採用しています。 同姓同名の人物が他作品(「MAESTRO-K!」など)にも登場しますが、シリーズ物の記載が無い限り全くの別人として扱っています。 上記、あしからずご了承の上で本文をお楽しみください。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】なぜか悪役令嬢に転生していたので、推しの攻略対象を溺愛します

楠 結衣
恋愛
魔獣に襲われたアリアは、前世の記憶を思い出す。 この世界は、前世でプレイした乙女ゲーム。しかも、私は攻略対象者にトラウマを与える悪役令嬢だと気づいてしまう。 攻略対象者で幼馴染のロベルトは、私の推し。 愛しい推しにひどいことをするなんて無理なので、シナリオを無視してロベルトを愛でまくることに。 その結果、ヒロインの好感度が上がると発生するイベントや、台詞が私に向けられていき── ルートを無視した二人の恋は大暴走! 天才魔術師でチートしまくりの幼馴染ロベルトと、推しに愛情を爆発させるアリアの、一途な恋のハッピーエンドストーリー。

後宮の侍女、休職中に仇の家を焼く ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌~ 第二部

西川 旭
ファンタジー
埼玉生まれ、ガリ勉育ちの北原麗央那。 ひょんなことから見慣れぬ中華風の土地に放り出された彼女は、身を寄せていた邑を騎馬部族の暴徒に焼き尽くされ、復讐を決意する。 お金を貯め、知恵をつけるために後宮での仕事に就くも、その後宮も騎馬部族の襲撃を受けた。 なけなしの勇気を振り絞って賊徒の襲撃を跳ね返した麗央那だが、憎き首謀者の覇聖鳳には逃げられてしまう。 同じく邑の生き残りである軽螢、翔霏と三人で、今度こそは邑の仇を討ち果たすために、覇聖鳳たちが住んでいる草原へと旅立つのだが……? 中華風異世界転移ファンタジー、未だ終わらず。 広大な世界と深遠な精神の、果てしない旅の物語。 第一部↓ バイト先は後宮、胸に抱える目的は復讐 ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌・第一部~ https://www.alphapolis.co.jp/novel/195285185/437803662 の続きになります。 【登場人物】 北原麗央那(きたはら・れおな) 16歳女子。ガリ勉。 紺翔霏(こん・しょうひ)    武術が達者な女の子。 応軽螢(おう・けいけい)    楽天家の少年。 司午玄霧(しご・げんむ)    偉そうな軍人。 司午翠蝶(しご・すいちょう)  お転婆な貴妃。 環玉楊(かん・ぎょくよう)   国一番の美女と誉れ高い貴妃。琵琶と陶芸の名手。豪商の娘。 環椿珠(かん・ちんじゅ)    玉楊の腹違いの兄弟。 星荷(せいか)         天パ頭の小柄な僧侶。 巌力(がんりき)        筋肉な宦官。 銀月(ぎんげつ)        麻耶や巌力たちの上司の宦官。 除葛姜(じょかつ・きょう)   若白髪の軍師。 百憩(ひゃっけい)       都で学ぶ僧侶。 覇聖鳳(はせお)        騎馬部族の頭領。 邸瑠魅(てるみ)        覇聖鳳の妻。 緋瑠魅(ひるみ)        邸瑠魅の姉。 阿突羅(あつら)        戌族白髪部の首領。 突骨無(とごん)        阿突羅の末息子で星荷の甥。 斗羅畏(とらい)        阿突羅の孫。 ☆女性主人公が奮闘する作品ですが、特に男性向け女性向けということではありません。  若い読者のみなさんを元気付けたいと思って作り込んでいます。  感想、ご意見などあればお気軽にお寄せ下さい。

転生した平凡顔な捨て子が公爵家の姫君?平民のままがいいので逃げてもいいですか

青波明来
恋愛
覚えているのは乱立するビルと車の波そして沢山の人 これってなんだろう前世の記憶・・・・・? 気が付くと赤ん坊になっていたあたし いったいどうなったんだろ? っていうか・・・・・あたしを抱いて息も絶え絶えに走っているこの女性は誰? お母さんなのかな?でも今なんて言った? 「お嬢様、申し訳ありません!!もうすぐですよ」 誰かから逃れるかのように走ることを辞めない彼女は一軒の孤児院に赤ん坊を置いた ・・・・・えっ?!どうしたの?待って!! 雨も降ってるし寒いんだけど?! こんなところに置いてかれたら赤ん坊のあたしなんて下手すると死んじゃうし!! 奇跡的に孤児院のシスターに拾われたあたし 高熱が出て一時は大変だったみたいだけどなんとか持ち直した そんなあたしが公爵家の娘? なんかの間違いです!!あたしはみなしごの平凡な女の子なんです 自由気ままな平民がいいのに周りが許してくれません なので・・・・・・逃げます!!

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

処理中です...