悪妃の愛娘

りーさん

文字の大きさ
上 下
1 / 19

1 幸せな第二の人生……だったのに

しおりを挟む
 恋愛の予定ですが、ファンタジー色が強くなるかもしれません。
 完全不定期です。気が向いたら投稿します。

ーーーーーーーーーーーー

 リリー・マクレスタ。それは、私が転生した者の名前である。
 私は、一国の第一王女様として生を受けた。生まれたばかりの時は、当たり前なんだけど、産声しかあげられなくて、わけがわからなくて泣いていた覚えがある。
 でも、さすがに五年も経つと慣れてくるもので、第二の人生を謳歌中!
 そして、そんな第二の人生は、幸せの一言に尽きる。それは、この人の存在。

「お母さま。入ってもいいですか?」

 私は、ドアをゆっくりと開け、そっと部屋の中を覗く。私は、まだ五歳。小さいのです。なので、ドアを開けるのも、思いっきり伸ばさないと届きません。
 はめ殺しになっている窓から差し込む光が、お母さまの美しい金髪を照らす。
 お母さまは、私に気づくと、にこりと微笑む。

「ええ。わたくしの可愛いリリー。お母さまのお膝においで」
「はーい!」

 私は、ドアを完全に開けて、お母さまのほうに駆け出す。そして、思いきり抱きついた。お母さまは、手慣れた手つきで、私を膝の上に乗せる。
 お母さまは、太陽の光を浴びているお陰か、ぽかぽかしていて暖かい。このまま眠ってしまいそうだ。

「リリーも大きくなったわね~。前はこれくらいだったのに」

 お母さまは、指で大きさを表現する。それは、私の小さい手がつまめるくらいの小ささだった。

「そんなに小さくありません!」

 私が抗議すると、お母さまはうふふと上品に笑う。お母さまは、この国の王妃なだけはあって、所作の一つ一つが美しい。でも、私の前ではこんなお茶目なところも見せる。最高のお母さまだ。
 前世での私は、父子家庭だった。お父さんはとても優しかったけど、どうしても母親というのは、恋しくなってしまうもので。
 生まれ変わるなら、優しいお母さんの元で暮らしたいと何度も願ったくらい。今世は、その願いが叶ったから、嬉しくて仕方ない。
 でも、気になることが、ないとは言わないんだ。それは、父親の存在。
 お母さまは、この国の王妃。それならば、当然、いるはずの男がいる。国王だ。
 でも、私は全然見たことがない。最後に見たのは、私が生まれた日に、私にリリーという名前をつけた時が最後。赤ん坊の頃から記憶があるのに、一緒にご飯を食べるのも、お誕生日を祝ってくれるのも、プレゼントをくれるのも、みんなお母さまだけで……
 国王だから忙しいのかなと思うけど、気になるものは気になる。
 そんな疑問は、思ったよりも早く解けることとなった。

 その日の夜中に、目が覚めてしまい、私は、お水でも飲もうかと、厨房に向かっていた。
 厨房へと向かう道中には、お母さまの部屋がある。私は、もうお母さまは夢の中だろうと思っていたから、普通に通りすぎようとした。
 でも、中から、ほんの僅かに聞こえた気がした。

「うっ……ひっく……」

 しゃくりをあげているような声。そして、それを押し殺すようにしている。
 私は、すぐに察した。お母さまが、泣いていると。
 お母さまだって、人間だ。泣きたくなる時だってあるかもしれない。でも、普段のお母さまからは、全然想像ができなかった。
 私は、すぐに道を引き返して、自分の部屋へと戻った。

 その翌日、私は、夜中の出来事を話して、着替えを手伝いに来た侍女たちにお母さまが泣いていた理由の心当たりを聞いてみることにした。侍女たちは、話したがらなかったけど、私が必死に頼み込んで、どうにか教えてもらえた。

「陛下が、王妃殿下をお叱りになられまして……」
「王妃殿下が、父親としてリリー王女殿下と過ごしてほしいと何度も頼み込まれたので……」
「そんな無駄なことをする時間はない。くだらないことを何度も言ってくれるな、と……」

 サリー、メアリー、ニアの順番で話してくれた。
 私は、はっ?と怒りでいっぱいになった。その場に国王がいたら、顔面をぶん殴っていたかもしれない。
 まだ、まだ何かお母さまに非があるようなことなら、私だってこんな風に思ったりはしない。
 でも、でも!母親が娘のために、父親にその役割を求めるのは、当然の権利で、当然の思いじゃないか!それを、無駄なこと、くだらないと一蹴りするなんて!
 私は、今にも叫びそうになる気持ちを堪えて、侍女たちに笑みを向ける。

「教えてくれてありがとう。お母さまには内緒にしておいてちょうだい。それじゃあ、仕事に戻って」
「「「は、はい」」」

 侍女たちは、私に頭を下げて、部屋を出ていく。
 私は、よろよろとベッドのほうに向かい、そのままベッドに倒れた。そして、王女にふさわしいふかふかのマットレスを殴りまくる。きっと、マットレスには、1ダメージも入っていないだろう。でも、殴らずにはいられない。
 だって、全部わかったから。私が今まで、まったくと言っていいほど父親に会わなかった理由が。
 父……いや、国王は、私のことなんて、どうでもよかったのだろう。生きてさえいれば、それでいいと思っている。所詮王女は、政略結婚の駒にしかならない。
 それなら、そう扱ってくれればいい。私には、お母さまがいれば充分だ。だけど、あのお母さまを泣かせるような奴は、たとえ神でも許しはしない。
 私がお母さまを幸せにしてみせる。私に与えてくれた幸せを、お母さまに何倍にもして返すんだから。
 国王……あんたが入り込む余地なんて……与えない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊に転生した少女は周りに溺愛される

紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。 それを見た神様は新たな人生を与える 親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。 果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️ 初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

ヤンデレ王子とだけは結婚したくない

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢ハリエットは、5歳のある日、未来の婚約者だと紹介された少年を見てすべてを思い出し、気づいてしまった。  前世で好きだった乙女ゲームのキャラクター、しかも悪役令嬢ハリエットに転生してしまったことに。  そのゲームの隠し攻略対象である第一王子の婚約者として選ばれた彼女は、社交界の華と呼ばれる自分よりもぽっと出の庶民である主人公がちやほやされるのが気に食わず、徹底的に虐めるという凄まじい性格をした少女であるが。  彼女は、第一王子の歪んだ性格の形成者でもあった。  幼いころから高飛車で苛烈な性格だったハリエットは、大人しい少年であった第一王子に繰り返し虐めを行う。  そのせいで自分の殻に閉じこもってしまった彼は、自分を唯一愛してくれると信じてやまない主人公に対し、恐ろしいほどのヤンデレ属性を発揮する。  彼ルートに入れば、第一王子は自分を狂わせた女、悪役令嬢ハリエットを自らの手で始末するのだったが――。  それは嫌だ。  死にたくない。  ということで、ストーリーに反して彼に優しくし始めるハリエット。  王子とはうまいこと良い関係を結びつつ、将来のために結婚しない方向性で――。  そんなことを考えていた彼女は、第一王子のヤンデレ属性が自分の方を向き始めていることに、全く気づいていなかった。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

転生後モブ令嬢になりました、もう一度やり直したいです

月兎
恋愛
次こそ上手く逃げ切ろう 思い出したのは転生前の日本人として、呑気に適当に過ごしていた自分 そして今いる世界はゲームの中の、攻略対象レオンの婚約者イリアーナ 悪役令嬢?いいえ ヒロインが攻略対象を決める前に亡くなって、その後シナリオが進んでいく悪役令嬢どころか噛ませ役にもなれてないじゃん… というモブ令嬢になってました それでも何とかこの状況から逃れたいです タイトルかませ役からモブ令嬢に変更いたしました ******************************** 初めて投稿いたします 内容はありきたりで、ご都合主義な所、文が稚拙な所多々あると思います それでも呼んでくださる方がいたら嬉しいなと思います 最後まで書き終えれるよう頑張ります よろしくお願いします。 念のためR18にしておりましたが、R15でも大丈夫かなと思い変更いたしました R18はまだ別で指定して書こうかなと思います

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...