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 あぁ~。死ぬかと思った……。案外、なんともなくてよかった。あまりにも目覚めなければ、公爵様に言う予定だったみたいだけど、言われなくてよかったよ。
 残すのがもったいなくて、食べすぎて倒れましたなんて、貧乏なところが滲み出てて、さすがに恥ずかしすぎるから。公爵様が出張中というのもあって、出張なのに、夫人が食べすぎで倒れたことを報告するのはどうかみたいな考えだったらしい。毒味はしていたようなので、毒殺などとは思われなかったみたいね。ちょっと危機感が低いような気もするけど、それが功を奏したのだから、前向きに考えよう。
 でも、なんとか弟妹たちとの約束を反故にすることはなさそうで、そこは安心した。
 それに、望みがあれば、できうる限り叶えると言っていたから、ある程度は自由にしていいだろう。社交が大変そうだけど、権利がある分だけ義務も増えるものだ。子作りはしなくてもいいのだから、私はまだ権利のほうが多いと思うけどね。

「奥様」
「あっ、シアン」

 後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはシアンが立っていた。

「ジルスタ様とメイロード様がご到着されました」
「本当っ!?すぐに行くわ!」

 私は、思わず玄関のほうに走り出す。
 はしたないと思われようと、この嬉しい気持ちを隠すことはできない。
 玄関のほうに行くと、ちょうどジルとメイが降りてきたところだった。

「おねーさま!」
「ねーさま!」

 二人も私の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。抱きついてきた二人を、私も抱き締め返す。
 男爵家を出たのは、今日の朝のはずなのに、もう一週間は会っていないように感じるのだから、時間の流れというのは、不思議なものだった。

「なんともなかったかしら?」

 アリジェント王家の血は、こういうところでも、悪い意味で注目されてしまう。私はあまり覚えていないけど、誘拐されたこともあるらしい。お母様と、従兄であるレンディアお兄様がすぐに私を奪還したらしいけど。
 レンディアお兄様は、アリジェント王家の血を引いてはいるものの、ユールフェースよりも分家の筋になるので、男爵家である私たちよりは警戒されていない。この国の騎士でもあるので、よほどでない限り、裏切りはないし、城にいるのであれば、監視もしやすいという考えなのだろう。
 お兄様のことは置いておくとして、そんなんだから、道中に危険がないとは言いきれない。
 そんな私の不安を書き消すように、メイが笑顔を向ける。

「ううん。きしさまがまもってくれたの!」

 きしさま……騎士様か。弟妹たちの危険を考慮して、公爵家の騎士をつけてくれたのかもしれない。自分の部隊の騎士ということは、さすがにないと思うから。
 やっぱり、思ったよりは、優しい方かもしれない。『アリジェントの血筋を取られると困りますから』と冷たく言うのが目に見えているけど。
 でも、口にするのと、行動に移すのは別だからね。綺麗事だけを言うよりも、建前であっても、行動に移してくれる人のほうが、私は好感が持てる。

「それなら良かったわ。それじゃあ、何しようか」
「ほん!ほんよんで!」
「ぼくはぼーるあそび!」

 どうやら、この前うやむやになってしまった遊びをしたいらしい。
 もう準備は万端のようで、メイはあのとき落としてしまっていた本を、ジルも落としていたボールを持ってきている。

「それじゃあ、まずはメイの本から読みましょうか。ジルは、ちょっと待っててね」
「はーい!」
「はーい……」

 メイは本を読んでもらうことに喜んで、ジルは後になったことに、不満を漏らすように返事した。

*ー*ー*ー

「それから、マリアは……あら?」

 まだ完璧に文字が読めない妹のために、読み聞かせていると、すーすーという音が聞こえる。読み聞かせを止めて、近くを見てみると、私の膝枕で寝息をたてている妹がいた。

「う~ん……どうしようかな……」

 この後は、ジルと遊ぶ約束をしているというのに、膝枕させられてしまっては、ここから動くことができない。
 考えた末に、いつもの方法で行くことにした。

「レーラ。ミリス。ここにクッションと掛け布団を運んでくれませんか?よければ、シーツも」
「ここに……でございますか?」
「ええ」
「……かしこまりました」

 レーラとミリスは、少し戸惑いながらも、部屋を出ていって、しばらくすると、クッションをいくつかと、掛け布団。シーツも持ってきてくれた。

「それじゃあ、シーツとクッションを置いてくれますか?」
「……はい」

 まだ戸惑っているようで、少し困惑しながら、シーツを敷いて、クッションを置いた。

「それでは、少し離れていてください」

 レーラとミリスが離れたのを確認すると、私は魔力を練り始める。
 貧乏貴族の男爵家だけど、隣国の王家の血筋ではあるからか、私は魔法が使える。いや、一家全員魔法が使える。といっても、優遇されるような属性魔法ではなく、どこにも属さない、通称無属性といわれるものだ。
 これも、男爵家止まりの理由ではあるだろう。でも、王家の血筋らしく、魔力量だけは多いらしいので、それを狙っていたのかもしれない。

(念動力テレキネシス)

 私が使える無属性魔法の一つ。魔力で動かしたいものを覆うことで、自由に動かすことができる。これだと、直接触れてはいないので、人を動かしても、気づかれることは少ない。
 風魔法に似たようなものがあるらしいけど、見たことがないから、違いはわからない。
 私は、メイに気づかれないように運んで、そっとシーツの上に寝かせた。そして、これまたそっと布団をかけてあげる。
 ジルやメイが昼寝をしてしまったときは、いつもこうしている。これでも、ジルやメイの勘はするどくて、2割くらいしか成功率がないけど。
 起きてしまったら、一緒に遊べばいいから、起きたとしても大丈夫だろう。
 今回は起きなかったみたいで、布団を被せても、すーすー寝息をたてている。

「それじゃあ、私はジルと遊んでくるから……うん?」

 ジルと遊んでくるために、メイを二人に預けようとしたら、二人はあんぐりと口を開けている。そんなに驚くようなことがあったかな?

「あの……ジルと遊んでくるので、メイをよろしくお願いしますね?」
「あっ、はい!承知しました!」

 私が肩をぽんぽんと叩きながらそう言うと、やっと現実に戻ってきたようで、大きな声で返事をする。
 その声で起きてしまったかとメイのほうを見るも、熟睡しているみたいで、特に起きることはなかった。
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