20 / 25
20. 魔物の棲む森 2
しおりを挟む
砦へとたどり着いたわたくしたちは、養父さまだけが砦に駐屯している騎士たちと話し合いに向かい、わたくしとルークは、案の定待機させられていました。
まぁ、領地の魔物への対処は領主の仕事ですし、ろくに戦闘経験もないのに、現場を振り回すことはできませんものね。
「エリス、ちょっとは詳しくなってたな」
「ええ。代官邸で資料に軽く目を通しましたので、ある程度は」
「……軽く、か。一日であそこまで知識を身につけられるのは普通じゃないからな。エリスが賢いからだろう」
「そうですか?」
ライル王国では、わたくしよりも賢いお方はたくさんいらっしゃったので、あまり自分が賢いとは思えないのですよね。
さすがにあのウィリアムよりは賢い自信がありますが、ユリウスさまには負けるでしょうし。
(ユリウスさま……お元気かしら?)
幼い頃にお父さまの登城についていったときに出会ってから、友人として仲良くさせていただきました。学園でも、よくわたくしのことを気にかけてくれましたし。
ですが、あのような騒動があって、引き留められる前にと動いたので、ろくに挨拶もできなかったのですよね。ルミナーラ公爵令嬢という立場では、王子殿下に文は出せませんし。
次にお父さまに文を出すときに、それとなく聞いてみましょうか?……いえ、反意を疑われるやもしれませんね。わたくしの婚約破棄騒動のときとは違い、よい飾り言葉が思いつきません。
う~むと悩んでいると、何かが私の頬を掴み、引っ張ります。
わたくしは、その相手ーールークを睨み付けるように訴えます。
「な、なにをひゅるのでしゅか!」
「人と話しているときに呆けるからだろう。何度も呼んだのに返事がない」
「す、すみません……」
「……お前、本当に完璧な令嬢なんて呼ばれていたのか?」
「呼ばれてはいたみたいですね」
ルークはわたくしを訝しく見ておりますが、わたくしは、完璧を自称したわけではないのです。いつの間にか、そう呼ばれるようになっていただけで、わたくしは完璧だと自惚れてはおりません。
「エリスは、自分のことには無頓着だな」
「そうでしょうか?」
「そうだ。完璧な令嬢なんて揶揄されてもどこか他人事だし、ハルムート帝国に来たのも、逃げてきたというが、その割には辛そうには見えなかったからな」
素晴らしい観察眼ですわね。
確かに、わたくしは自分が優秀だと思っておりませんから、完璧だとか、才女だとか言われても、嬉しい気持ちはあっても、過剰すぎるような気もしましたし、ハルムート帝国に来たのは、お父さまにこれ以上迷惑をかけたくないという思いが強かったです。
婚約破棄された娘がいつまでも居座っていては、他の貴族たちに言いように言われてしまいますもの。
「……お前、婚約破棄されたんだってな」
「……養父さまからお聞きしたので?」
「いや、皇子からだ」
その言葉に、わたくしの体は強張ります。
わたくしの身に起きたことを知っていてもおかしくはないでしょう。帝国は、わたくしを迎え入れると決めてから、身辺調査を徹底したはずですから。
ですが、わざわざルークに話す理由がわかりません。知っていることと思って共通の話題として話したという程度ならいいのですが、帝国の皇子がそんな考えを持つとも思えませんし……
「なぜそのようなことに?」
「前に、騒動に皇室が関わっているかもしれないと話しただろう。その件でーー」
「ルークさま、エリスさま。領主さまがお呼びです」
ルークが気になることを話そうとしていましたが、その前に形ばかりのノックと共に呼び出されてしまったので、話は中断になりました。
ルークはともかく、なぜわたくしまでお呼びになるのでしょう?
気になるところではありますが……養父さまがお呼びなら、行かないわけにはいきません。
「ルーク、参りましょうか」
「ああ、そうだな」
わたくしとルークは席を立ち、部屋を出て、呼びに来た騎士についていきました。
まぁ、領地の魔物への対処は領主の仕事ですし、ろくに戦闘経験もないのに、現場を振り回すことはできませんものね。
「エリス、ちょっとは詳しくなってたな」
「ええ。代官邸で資料に軽く目を通しましたので、ある程度は」
「……軽く、か。一日であそこまで知識を身につけられるのは普通じゃないからな。エリスが賢いからだろう」
「そうですか?」
ライル王国では、わたくしよりも賢いお方はたくさんいらっしゃったので、あまり自分が賢いとは思えないのですよね。
さすがにあのウィリアムよりは賢い自信がありますが、ユリウスさまには負けるでしょうし。
(ユリウスさま……お元気かしら?)
幼い頃にお父さまの登城についていったときに出会ってから、友人として仲良くさせていただきました。学園でも、よくわたくしのことを気にかけてくれましたし。
ですが、あのような騒動があって、引き留められる前にと動いたので、ろくに挨拶もできなかったのですよね。ルミナーラ公爵令嬢という立場では、王子殿下に文は出せませんし。
次にお父さまに文を出すときに、それとなく聞いてみましょうか?……いえ、反意を疑われるやもしれませんね。わたくしの婚約破棄騒動のときとは違い、よい飾り言葉が思いつきません。
う~むと悩んでいると、何かが私の頬を掴み、引っ張ります。
わたくしは、その相手ーールークを睨み付けるように訴えます。
「な、なにをひゅるのでしゅか!」
「人と話しているときに呆けるからだろう。何度も呼んだのに返事がない」
「す、すみません……」
「……お前、本当に完璧な令嬢なんて呼ばれていたのか?」
「呼ばれてはいたみたいですね」
ルークはわたくしを訝しく見ておりますが、わたくしは、完璧を自称したわけではないのです。いつの間にか、そう呼ばれるようになっていただけで、わたくしは完璧だと自惚れてはおりません。
「エリスは、自分のことには無頓着だな」
「そうでしょうか?」
「そうだ。完璧な令嬢なんて揶揄されてもどこか他人事だし、ハルムート帝国に来たのも、逃げてきたというが、その割には辛そうには見えなかったからな」
素晴らしい観察眼ですわね。
確かに、わたくしは自分が優秀だと思っておりませんから、完璧だとか、才女だとか言われても、嬉しい気持ちはあっても、過剰すぎるような気もしましたし、ハルムート帝国に来たのは、お父さまにこれ以上迷惑をかけたくないという思いが強かったです。
婚約破棄された娘がいつまでも居座っていては、他の貴族たちに言いように言われてしまいますもの。
「……お前、婚約破棄されたんだってな」
「……養父さまからお聞きしたので?」
「いや、皇子からだ」
その言葉に、わたくしの体は強張ります。
わたくしの身に起きたことを知っていてもおかしくはないでしょう。帝国は、わたくしを迎え入れると決めてから、身辺調査を徹底したはずですから。
ですが、わざわざルークに話す理由がわかりません。知っていることと思って共通の話題として話したという程度ならいいのですが、帝国の皇子がそんな考えを持つとも思えませんし……
「なぜそのようなことに?」
「前に、騒動に皇室が関わっているかもしれないと話しただろう。その件でーー」
「ルークさま、エリスさま。領主さまがお呼びです」
ルークが気になることを話そうとしていましたが、その前に形ばかりのノックと共に呼び出されてしまったので、話は中断になりました。
ルークはともかく、なぜわたくしまでお呼びになるのでしょう?
気になるところではありますが……養父さまがお呼びなら、行かないわけにはいきません。
「ルーク、参りましょうか」
「ああ、そうだな」
わたくしとルークは席を立ち、部屋を出て、呼びに来た騎士についていきました。
73
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
【完結】どうぞお気遣いなく。婚約破棄はこちらから致しますので。婚約者の従姉妹がポンコツすぎて泣けてきます
との
恋愛
「一体何があったのかしら」
あったかって? ええ、ありましたとも。
婚約者のギルバートは従姉妹のサンドラと大の仲良し。
サンドラは乙女ゲームのヒロインとして、悪役令嬢の私にせっせと罪を着せようと日夜努力を重ねてる。
(えーっ、あれが噂の階段落ち?)
(マジか・・超期待してたのに)
想像以上のポンコツぶりに、なんだか気分が盛り下がってきそうですわ。
最後のお楽しみは、卒業パーティーの断罪&婚約破棄。
思いっきりやらせて頂きます。
ーーーーーー
婚約破棄しようがない
白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「アンリエット、貴様との婚約を破棄する!私はリジョーヌとの愛を貫く!」
卒業式典のパーティーでばかでかい声を上げ、一人の男爵令嬢を抱き寄せるのは、信じたくはないがこの国の第一王子。
「あっそうですか、どうぞご自由に。と言うかわたくしたち、最初から婚約してませんけど」
そもそも婚約自体成立しないんですけどね…
勘違い系婚約破棄ものです。このパターンはまだなかったはず。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
(完結)モブ令嬢の婚約破棄
あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう?
攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。
お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます!
緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。
完結してます。適当に投稿していきます。
婚約は破棄なんですよね?
もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる