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20. 魔物の棲む森 2

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 砦へとたどり着いたわたくしたちは、養父さまだけが砦に駐屯している騎士たちと話し合いに向かい、わたくしとルークは、案の定待機させられていました。
 まぁ、領地の魔物への対処は領主の仕事ですし、ろくに戦闘経験もないのに、現場を振り回すことはできませんものね。

「エリス、ちょっとは詳しくなってたな」
「ええ。代官邸で資料に軽く目を通しましたので、ある程度は」
「……軽く、か。一日であそこまで知識を身につけられるのは普通じゃないからな。エリスが賢いからだろう」
「そうですか?」

 ライル王国では、わたくしよりも賢いお方はたくさんいらっしゃったので、あまり自分が賢いとは思えないのですよね。
 さすがにあのウィリアムよりは賢い自信がありますが、ユリウスさまには負けるでしょうし。

(ユリウスさま……お元気かしら?)

 幼い頃にお父さまの登城についていったときに出会ってから、友人として仲良くさせていただきました。学園でも、よくわたくしのことを気にかけてくれましたし。

 ですが、あのような騒動があって、引き留められる前にと動いたので、ろくに挨拶もできなかったのですよね。ルミナーラ公爵令嬢という立場では、王子殿下に文は出せませんし。
 次にお父さまに文を出すときに、それとなく聞いてみましょうか?……いえ、反意を疑われるやもしれませんね。わたくしの婚約破棄騒動のときとは違い、よい飾り言葉が思いつきません。

 う~むと悩んでいると、何かが私の頬を掴み、引っ張ります。
 わたくしは、その相手ーールークを睨み付けるように訴えます。

「な、なにをひゅるのでしゅか!」
「人と話しているときに呆けるからだろう。何度も呼んだのに返事がない」
「す、すみません……」
「……お前、本当に完璧な令嬢なんて呼ばれていたのか?」
「呼ばれてはいたみたいですね」

 ルークはわたくしを訝しく見ておりますが、わたくしは、完璧を自称したわけではないのです。いつの間にか、そう呼ばれるようになっていただけで、わたくしは完璧だと自惚れてはおりません。

「エリスは、自分のことには無頓着だな」
「そうでしょうか?」
「そうだ。完璧な令嬢なんて揶揄されてもどこか他人事だし、ハルムート帝国に来たのも、逃げてきたというが、その割には辛そうには見えなかったからな」

 素晴らしい観察眼ですわね。
 確かに、わたくしは自分が優秀だと思っておりませんから、完璧だとか、才女だとか言われても、嬉しい気持ちはあっても、過剰すぎるような気もしましたし、ハルムート帝国に来たのは、お父さまにこれ以上迷惑をかけたくないという思いが強かったです。

 婚約破棄された娘がいつまでも居座っていては、他の貴族たちに言いように言われてしまいますもの。

「……お前、婚約破棄されたんだってな」
「……養父さまからお聞きしたので?」
「いや、皇子からだ」

 その言葉に、わたくしの体は強張ります。
 わたくしの身に起きたことを知っていてもおかしくはないでしょう。帝国は、わたくしを迎え入れると決めてから、身辺調査を徹底したはずですから。

 ですが、わざわざルークに話す理由がわかりません。知っていることと思って共通の話題として話したという程度ならいいのですが、帝国の皇子がそんな考えを持つとも思えませんし……

「なぜそのようなことに?」
「前に、騒動に皇室が関わっているかもしれないと話しただろう。その件でーー」
「ルークさま、エリスさま。領主さまがお呼びです」

 ルークが気になることを話そうとしていましたが、その前に形ばかりのノックと共に呼び出されてしまったので、話は中断になりました。
 ルークはともかく、なぜわたくしまでお呼びになるのでしょう?

 気になるところではありますが……養父さまがお呼びなら、行かないわけにはいきません。

「ルーク、参りましょうか」
「ああ、そうだな」

 わたくしとルークは席を立ち、部屋を出て、呼びに来た騎士についていきました。
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