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10. ルークと話す方法
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それからわたくしは、ルークの情報を探ってみることにいたしました。
真正面から聞いたとて、話してはくれないでしょう。だからといって、他の使用人たちに話を聞いたとしても、ロザリーと同じように話してくれない可能性が高いです。
それならば、養父母に尋ねるしかありません。
「養母さま。今、よろしいでしょうか」
「あら、エリス。どうしたのですか?」
養母さまは、読書の最中だったようで、本を閉じてわたくしのほうを見ます。
邪魔してしまったようで、少し申し訳ないながらも、養母さまに問いました。
「ルークは、何か悩みがあるのでしょうか」
「……そう、気づいているのね」
ルークのあの目は、敵意がこもった目でした。
敵意がこもっているのは、自分の領域をわたくしに侵されたからに他なりません。で、あるならば、ルークがなぜ侵されたと感じたのか。
ロザリーのあの態度、わたくしとルークの決定的にちがうところ。
わたくしの予想が正しければ、おそらくはーー
「ルークは、宝石眼を持っていないの。れっきとした皇族の血筋なのに、ね」
やはり、宝石眼の有無。
このハルムート帝国では、宝石眼は帝位継承を左右するほど重要な要素。
それならば、分家である貴族の跡継ぎとして関わってきてもおかしくはありません。
わたくしは、養子とはいえ、身分は確かなものであり、成績も優秀。そして、宝石眼の保有者。しかも、プラチナという高貴なもの。
対してルークは、公爵の実子ではあるものの、宝石眼を持っていません。学業等も優秀なのかもしれませんが、わたくしを圧倒するほどではないでしょう。
もしそれほど優秀ならば、わたくしに何か理由をつけて屋敷を追い出そうとするくらいの考えは浮かぶはずです。
「わたくしたちは気にしないと言っているのだけど、やっぱり周りからいろいろ言われるみたいだわ」
「ならば、わたくしが下手に励ましたところで逆効果ですわね」
勉強などとは違って、わたくしの宝石眼は生まれながらにして持っているものです。努力したところで手に入るものではありません。
そんなわたくしに、宝石眼がなくともなどと言われても、俗にいう、お前に言われたくないになるでしょう。
ならば、励まさずにわたくしの宝石眼に対する思いでも伝えてみましょうか。
「養母さま、ルークとお話ししてきますわ」
「あら、でも、あなたが部屋に訪ねてもルークは入れてくれないと思うわよ」
「ええ。そうでしょう。ですので、あまり褒められることではない方法で訪ねてみますわ。養母さま、よろしいでしょうか?」
「……内容次第ですが」
わたくしが養母さまに作戦を話すと、養母さまは難しい顔で頭を抱えていましたが、了承してくださいました。
さぁ、ルーク。ただいま参りますわよ。
◇◇◇
ルークが部屋で読書をしていると、ドアをノックする音が響く。
「誰だ」
「ロザリーでございます。お嬢さまからの手紙をお預かりしたのですが」
「手紙?あの女のか?」
ルークは、意味がわからずに素で尋ねてしまった。
手紙というのは、遠くにいる人物と交流を行うための手段だ。
ルークは気に入らないが、エリスは同じ屋敷で過ごしている同居人だ。同居人に手紙を出すなどあり得ない。
「なかなか話す機会がないので、手紙を認めたとおっしゃっておりました」
「……」
ルークは、少し罪悪感を感じた。
ルーク自身も、エリスを避けている自覚はあった。宝石眼……それも、プラチナの持ち主であり、容姿端麗、教養・マナーも兼ね備え、勉学も優れている。
その話を使用人から聞いたとき、ルークは、負けたと感じた。勝てる部分が見当たらなかった。
ルークの使用人の話では、エリスはライル王国では完璧な令嬢と呼ばれていたという。
それは、ルークの劣等感を刺激するには充分だった。
両親は気にしないと言ってくれてはいるが、周りはそうではない。宝石眼を持っていない。それだけで、公爵家の跡取りとしてふさわしいのかと言われてしまう。
そんな矢先での、宝石眼の持ち主である義姉となる存在がやってきた。
父の妹の子ということで、それほど血が遠いというわけでもなく、両親にも気に入られている。
義姉は皇帝陛下への顔出しを終えた後は、学園でも話題になった。
そして、当然、義姉が跡取りになるのではという噂も出てくる。ルークが唯一持っていた、名門の公爵家の跡継ぎという肩書きですらも、ぽっと出のエリスに奪われそうになった。
だからこそ、まだ顔合わせすらしていないというのに、エリスのことを嫌っていた。
エリスは何も悪くない。それがわかっていたからこそ、ルークは罪悪感に蝕まれている。
ルークは、それをごまかすかのように、受け取らねばエリスの元に帰れないだろうという思いで、扉を開ける。
「入れ。あいつに返事を書くから待ってろ」
手紙をもらう以上、返事くらいは書かなければならない。
もうこんなことはするなとでも書いておけば、このような面倒なことはしないだろう。
「いえ、その必要はございませんわ」
それは、聞き覚えのある声だった。いちばん聞きたくない声。それは、部屋にいれたロザリーから聞こえる気がした。
ロザリーのほうを見ると、ロザリーの姿がみるみる変わり、あの養子の姿となった。
それを見て、ルークもすぐさま状況を理解し、やられたと感じた。
どうやら、ロザリーはあの養子による偽装だったようだ。魔術を使ったのだろう。
「お、お前……なんで……」
「すみません、ルーク。こうでもしなければ、あなたはお話ししてくれないかと思いまして」
侍女の格好をしたエリスは、ルークにそう言って微笑んだ。
真正面から聞いたとて、話してはくれないでしょう。だからといって、他の使用人たちに話を聞いたとしても、ロザリーと同じように話してくれない可能性が高いです。
それならば、養父母に尋ねるしかありません。
「養母さま。今、よろしいでしょうか」
「あら、エリス。どうしたのですか?」
養母さまは、読書の最中だったようで、本を閉じてわたくしのほうを見ます。
邪魔してしまったようで、少し申し訳ないながらも、養母さまに問いました。
「ルークは、何か悩みがあるのでしょうか」
「……そう、気づいているのね」
ルークのあの目は、敵意がこもった目でした。
敵意がこもっているのは、自分の領域をわたくしに侵されたからに他なりません。で、あるならば、ルークがなぜ侵されたと感じたのか。
ロザリーのあの態度、わたくしとルークの決定的にちがうところ。
わたくしの予想が正しければ、おそらくはーー
「ルークは、宝石眼を持っていないの。れっきとした皇族の血筋なのに、ね」
やはり、宝石眼の有無。
このハルムート帝国では、宝石眼は帝位継承を左右するほど重要な要素。
それならば、分家である貴族の跡継ぎとして関わってきてもおかしくはありません。
わたくしは、養子とはいえ、身分は確かなものであり、成績も優秀。そして、宝石眼の保有者。しかも、プラチナという高貴なもの。
対してルークは、公爵の実子ではあるものの、宝石眼を持っていません。学業等も優秀なのかもしれませんが、わたくしを圧倒するほどではないでしょう。
もしそれほど優秀ならば、わたくしに何か理由をつけて屋敷を追い出そうとするくらいの考えは浮かぶはずです。
「わたくしたちは気にしないと言っているのだけど、やっぱり周りからいろいろ言われるみたいだわ」
「ならば、わたくしが下手に励ましたところで逆効果ですわね」
勉強などとは違って、わたくしの宝石眼は生まれながらにして持っているものです。努力したところで手に入るものではありません。
そんなわたくしに、宝石眼がなくともなどと言われても、俗にいう、お前に言われたくないになるでしょう。
ならば、励まさずにわたくしの宝石眼に対する思いでも伝えてみましょうか。
「養母さま、ルークとお話ししてきますわ」
「あら、でも、あなたが部屋に訪ねてもルークは入れてくれないと思うわよ」
「ええ。そうでしょう。ですので、あまり褒められることではない方法で訪ねてみますわ。養母さま、よろしいでしょうか?」
「……内容次第ですが」
わたくしが養母さまに作戦を話すと、養母さまは難しい顔で頭を抱えていましたが、了承してくださいました。
さぁ、ルーク。ただいま参りますわよ。
◇◇◇
ルークが部屋で読書をしていると、ドアをノックする音が響く。
「誰だ」
「ロザリーでございます。お嬢さまからの手紙をお預かりしたのですが」
「手紙?あの女のか?」
ルークは、意味がわからずに素で尋ねてしまった。
手紙というのは、遠くにいる人物と交流を行うための手段だ。
ルークは気に入らないが、エリスは同じ屋敷で過ごしている同居人だ。同居人に手紙を出すなどあり得ない。
「なかなか話す機会がないので、手紙を認めたとおっしゃっておりました」
「……」
ルークは、少し罪悪感を感じた。
ルーク自身も、エリスを避けている自覚はあった。宝石眼……それも、プラチナの持ち主であり、容姿端麗、教養・マナーも兼ね備え、勉学も優れている。
その話を使用人から聞いたとき、ルークは、負けたと感じた。勝てる部分が見当たらなかった。
ルークの使用人の話では、エリスはライル王国では完璧な令嬢と呼ばれていたという。
それは、ルークの劣等感を刺激するには充分だった。
両親は気にしないと言ってくれてはいるが、周りはそうではない。宝石眼を持っていない。それだけで、公爵家の跡取りとしてふさわしいのかと言われてしまう。
そんな矢先での、宝石眼の持ち主である義姉となる存在がやってきた。
父の妹の子ということで、それほど血が遠いというわけでもなく、両親にも気に入られている。
義姉は皇帝陛下への顔出しを終えた後は、学園でも話題になった。
そして、当然、義姉が跡取りになるのではという噂も出てくる。ルークが唯一持っていた、名門の公爵家の跡継ぎという肩書きですらも、ぽっと出のエリスに奪われそうになった。
だからこそ、まだ顔合わせすらしていないというのに、エリスのことを嫌っていた。
エリスは何も悪くない。それがわかっていたからこそ、ルークは罪悪感に蝕まれている。
ルークは、それをごまかすかのように、受け取らねばエリスの元に帰れないだろうという思いで、扉を開ける。
「入れ。あいつに返事を書くから待ってろ」
手紙をもらう以上、返事くらいは書かなければならない。
もうこんなことはするなとでも書いておけば、このような面倒なことはしないだろう。
「いえ、その必要はございませんわ」
それは、聞き覚えのある声だった。いちばん聞きたくない声。それは、部屋にいれたロザリーから聞こえる気がした。
ロザリーのほうを見ると、ロザリーの姿がみるみる変わり、あの養子の姿となった。
それを見て、ルークもすぐさま状況を理解し、やられたと感じた。
どうやら、ロザリーはあの養子による偽装だったようだ。魔術を使ったのだろう。
「お、お前……なんで……」
「すみません、ルーク。こうでもしなければ、あなたはお話ししてくれないかと思いまして」
侍女の格好をしたエリスは、ルークにそう言って微笑んだ。
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