上 下
18 / 54
番外編

書籍化記念SS 紅茶とお菓子とゴシップと

しおりを挟む
 定期的に開かれているお茶会。
 最近は、自分たちでいろいろと持ち込むようになって、私は紅茶。ソフィアはお菓子を持ち込んでいる。モニカちゃんは、どこで仕入れたんだというゴシップを時々持ってきてくれる。
 女子会ということで、アイリス以外の白梟たちはご退場願っている。
 アイリスは、私には精神的にいてほしくないのだけど、内緒にしておいてと言えば、意外と約束は守ってくれるから。
 そんなことを考えていると、心が読めるアイリスに意外とはなんだみたいな目で見られているけど。
 こういうときにおいては、レアとかよりも全然信用できるからね。
 レアは面白おかしく広めかねない。メイアも、無意識のうちに口を滑らしそうだし。

「そういえば、最近、下町で噂になっていることがあるんですよー」
「うわさ?」

 ソフィアに視線を向けるも、ソフィアは小さく首を横に振る。
 どうやら、ソフィアも知らないらしい。

「噂と言っても、大したことはないんですけど、ある商会の花を買ってプロポーズすると成功するだとか、広場にある噴水でデートすれば必ず結ばれるだとか」
「ああ、それなら聞いたことがありますね」

 ソフィアもうんうんとうなずいている。
 それ、ジンクスってやつよね。ジンクスの大半は、たまたま成功した話をしたときに都市伝説のように広がっていったものなんだけど……。
 でも、そんなジンクスがあるってことは、何人か成功者がいるってことだろう。それ自体は素直にお祝いするべきことよね。

「ーー商会って、あなたの?」
「私のところだったら嬉しかったんですけどねー。残念ながら違います」
「じゃあ、あなたのライバルになるじゃない」
「大丈夫ですよ!こっちには何人か貴族の常連さんもいますし、フェンネルのブランドを貰っているのもちょくちょく置いてはいますしね!」

 モニカちゃんが自信ありげにそう語るも、私はうん?と違和感に気づく。

「あなた、フェンネルは見たことないんじゃないの?あれも嘘だったってわけ?」
「見たことはありますよ!フェンネルの専門店に行ったことがなかっただけです!」
「あら、そうだったの」

 それでやけにフェンネルに詳しかったわけね。なるほどなるほど。
 う~ん。でも、私たちがほしいのは、そういうジンクスではなかったのだけど。

「な~んだ。ゴシップらしいゴシップはないのね」
「そうですね。お二人が望むごしっぷというものはありませんね」

 後で知ったことなんだけど、この世界にはゴシップという言葉がないらしい。
 私もソフィアも、ここは日本で作られた乙女ゲームという前提があり、普通にあるものだと思って使っていたので、モニカちゃんに『それってなんですか?』と聞かれたときは大変に焦った。
 今は、人のおもしろい噂の隠語ということにしてある。
 ゴシップなら、私達にしか通じないだろうし、隠語で間違ってないだろう。

「逆に、ソフィアさんはなにかないんですか?」
「えっ!?私ですか!?」

 話を振られるとは思ってなかったのか、ソフィアは心底驚いた表情をしている。

「……思いつくのはありませんね。リリアン様は何かありませんか?」
「私?う~んと……」

 何かあっただろうかと、お茶菓子をつまみながらリリアンの記憶を思い返す。

「……あるにはあるけど、あまり言いたくはないわね」
「そんな言い方されると気になるじゃないですか!」
「そうですよ!私たちの仲なんですから教えてください!」

 二人が真剣な顔で詰め寄ってくる。
 そんなことを言われても、言ったら私の身がどうなるか分からないんだけどなぁ……。

「お父様のことなんだけど」
「あっ、じゃあいいです」
「私も話さなくて大丈夫です」

 わりとガチめのトーンで、ソフィアとモニカちゃんが拒否してきた。
 どうやら、お父様にばれたときを恐れたみたいだ。うん。私もばれたらどうなるか分からないから怖い。
 でも、そうなるとゴシップは特になしということになる。それはちょっとと思ってしまう私もいる。
 別に、人の不幸を笑いたいとかではないけど、なにかおもしろい話でも聞いて、荒んだ心をちょっとでも癒しておきたい。
 なにか、そういうのを持ってそうな人。
 私は、一人心当たりがあり、すっと視線をその人物に向けた。

「いや、話しませんよ?」
「“話さない”ってことは、何かあるのね?」

 私がそう指摘すると、その人物……アイリスは、一瞬だけしまったという表情をした。

「まぁ、侍女はいろんな噂話を耳にしますから、あると言えばありますけど……話したら私の命が危ういので」

 お前もそのパターンか!
 そう言われると、話せとは言いにくい。だって、話せと言ったら私も話さないといけなくなる。それは嫌だ。

「危うくならないものはないの?」
「そうですね……強いて言えば……」

 あっ、なんだかんだ話してくれるみたい。
 仕方ないというよりは、諦めの入った嫌々な表情をしているけど。
 それにしても、どんなお話なのだろう。そう思いながら、私は紅茶を一口。

「リリアン様がまだ十の時ーー」

 ここまで言われて、飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。私は慌てて飲み込む。

「ストップ!何を話そうとしてるのよ!」

 さすがにそれはスルーできなくて、大声で制止した。

「リリアン様がまだ十の時の思い出話でもと思ったのですが」
「本人の前でそれを言う!?絶対に良からぬことを話すつもりでしょ!」
「いえ、街に出かけたときのことですね」

 アイリスがニコニコしながら爆弾を放り込む。

「絶対にダメ」

 それは私(正確にはリリアン)の黒歴史!モニカちゃんはともかく、ソフィアにだけは知られてたまるか!
 そもそも、なぜお前が知っている!?

「情報通な友人がおりまして」

 メイアとかその辺りだな?そんなことを話すのは絶対にその辺だ。
 あのときはこっそりと一人で出かけていたけど、今思えば護衛をつけられてたんだろうなぁ。

「リリアン様!一体何のお話なんですか!?」
「そうですよ。そんなに止められたら気になりますよ~!」

 モニカちゃんは、私の幼い頃の話が聞きたいだけだろうけど、ソフィアは完全に私をからかっている。
 聞かせたらさらにひどくなるから、絶対に聞かせるわけにはいかない。

「リリアン様が旦那様たちの目を盗んでーー」
「話を聞いてなかったの!?話すなって言ってるのよ!」
「リリアン様!教えてください!話すまで帰しませんよ!」

 ソフィアが私の服をぎゅっと掴んでくる。
 帰すも何も、ここは私の部屋だっての!!帰るならあなたたちのほう!
 そして、絶対に言わないからな!?

「私も知りたいです!」

 モニカちゃん?あなたはこっち側に来てくれない?今のところ、三対一になってるのだけど。

「目を盗んで、街へと行ったのですがーー」
「何事もないかのように語り出すな!あなたは少し黙ってて!」
「お嬢様の命令に従う理由がありませんが」
「あなた、私の侍女でしょ!?従者が主の命令に従わないのはおかしいでしょうが!」

 別に、絶対に従えとは言わないけど、今だけは従ってくれよ!

「「リリアン様!!」」
「あなたたちも少し静かに!」

 特にソフィアはね!あなたは面白がっているだけなのはわかってるわよ?だてに付き合いは長くないからね。
 その後もいろいろ騒ぎ立てるみんなに、私は辟易としていた。
 頼むから、自分の部屋でくらいゆっくりさせて。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。