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第三章 休みくらい好きにさせて

第6話 屋敷に着いて

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 今回は襲撃などはなく、普通に領地に来ることができた。お父様には、事前にソフィアとモニカちゃん達が来ることは伝えていたので、何の問題もなかった。
 それぞれの部屋に荷物を置いてから、なぜかソフィアとモニカちゃんが部屋に集合している。正確には、ソフィアにジュラルミン製造方法を教えていたら、モニカちゃんがやってきた形だ。
 ちなみに、リルちゃんとウィルくんの二人は大きなお屋敷に興奮して、いろいろな調度品を見に行ってるのだとか。モニカちゃんも似たようなことをやっていたし、高価な物を見せてくれは、本当に自分が見たかっただけというのもあるのかもしれない。
 商家の人間はみんなこうなるんだろうか。

「やっぱりお金持ちのソファはいいですね~」
「ええ。これに座ったらもう家のソファには座れません」

 モニカちゃんとソフィアが完全にだらけている。気持ちはわかるので、文句を言ったりはしない。
 お金持ちのソファは、いわゆる人をダメにするソファだ。立ち上がるのも至難の技だろう。大怪我をしているよりも、精神的な面の方が、動こうとしても動けないものだから。頭では動かなくてはと思っていても、心は動きたくないと思ってしまう。そんな心理が働くというわけ。

「そういえば、ソフィア。生徒会の仕事ってそんなに大変なものかしら?」

 私はお手伝いのつもりで遅れて到着したけど、ソフィアは時間や約束は(忘れてさえいなければ)きっちりと守るタイプだ。
 授業が終わってすぐに向かっていたのを確認している。

「そうですけど……どうしてですか?」
「私の気のせいかもしれないけど、シェリー殿下の顔色が優れなかったような気がするのよ」

 あのときは、地獄絵図とシェリー殿下の優しさでカモフラージュされていて、あまり気に止めていなかったけど、思い返してみると、シェリー殿下も少し疲れているような気がした。いや、あんな地獄絵図を生み出す生徒会の会長をやっていたら疲れるのは当たり前なんだけど、根本的に疲れがとれていないような気がする。
 もしも、自分も疲れていたのに、私たちがダウンしたから休ませてくれたのならば、もう天使を通り越して女神だろう。
 でも、それはあくまでも、シェリー殿下が本当に疲れていたのならの場合。あの地獄絵図のせいで、そう見えてしまった可能性もゼロではない。

「いえ、私もそんな風に感じていましたよ。まぁ、あんな状況では、仕方ないのではないかと思ってましたけど……」

 ソフィアが少し顔を青くしてそう言った。ソフィアがそんな表情をしてしまうくらいには、あそこはひどかった。まぁ、黒輝石事件のせいで、なんかうやむやみたいになってしまったけれど。
 普通に人手不足なのだろう。あんな美男美女が揃っていれば、応募は殺到するだろうが、そのほとんどが、恋愛関係だろう。カインも、手回ししたのか、最初から仮婚約だったとして、私の評判も、婚約者なのに相手もされていない令嬢から、仮婚約なのに婚約者としての務めを果たそうとした令嬢に、ちょっとは上がった。
 逆に、それに応じようともしなかったと、カインの評判がちょこっとだけ下がったけど。でも、ご令嬢からすれば、そんなのは関係ないらしい。その神経の図太さは素直に褒めるわ。とまぁ、そんなわけで、生徒会は常に人不足というわけだ。

「普通に動いていたあの二人がおかしいんですよ」

 その二人が誰なのかは聞くまでもないだろう。あの現場を見た者なら9割は誰か一瞬で思い当たる。でも、それは現場を見ていたならの話。現場を見ていないモニカちゃんは首をかしげる。

「それって誰ですか?」
「成績優秀な男性と言えば……わかるでしょう?」
「あぁ……」

 ソフィアにそう言われて、モニカちゃんも誰なのかなんとなくわかったようだ。でも、口には出していない。当然だ。ここにはその存在の片割れがいるのだから。

「リリアン」

 噂をすればなんとやら。やつが来た。もう形式でもいいからさ、ノックはしてよ。いきなりドアが開くのは心臓に悪いんだ。
 冷静な感じを装っているけど、内心はかなりびびってるから。

「今回は大事な話だ。今日中に私の部屋に来い」

 それだけ言って、お兄様はどこかに行ってしまった。おそらく、自分の部屋に戻ったのだろう。

「クライス様、何の用だったのでしょうか?」

 確かに、ジュラルミンの話とかなら、ここでしてもかまわないはずだ。それをしないなら、ジュラルミンではない。私だけに話さないといけないこと。正確には、二人に聞かれてはまずいこと。
 ……七影か?モニカちゃんは白梟のことは知っているとはいえ、お兄様はそのことを知らないのかもしれない。それか、白梟ではない七影なのかもしれないな。あの影とは名ばかりの忍ばない連中ばかりだけど、他のはちゃんと忍んでくれるだろうか。

「何か大事な用事ではありそうですし、向かわれたらどうですか?」

 いつもなら無視しとけとか言っているソフィアも、私にお兄様の元に行けと言っている。
 確かに、用事は気になるっちゃ気になるけど、あまり攻略対象とは関わりたくないのよ。

「じゃあ、お邪魔虫の私たちの方が去るとしましょうか、モニカさん」
「そ、そうですね……」

 おいおいおーい!なぜ私を一人にしようとする!?そして、なんでお兄様の方に向かわせたがるんだ!
 私がそうやって心の中で突っ込んでいるうちに、モニカちゃんはソフィアに押されるような形で部屋の外に出た。

「さーて、ジュラルミンを~……ふふふ」

 ソフィアが帰り際に呟いたその一言で、私は全てを察した。そして、まだ見ぬ魔法使いに心の中で土下座した。
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