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友人の変貌
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登場キャラ紹介
鈴木……高校2年生の男子。言葉遣いがチョット乱暴。1人称は「俺」。
田中……高校2年生の男子。言葉遣いは丁寧。1人称は「僕」。
山本美代……高校2年生の女子。神社の巫女さん。1人称は「私」。
♢
ここは、とある高校の、とある教室。放課後の時間。
高校2年生の男子2人が向かい合っている。
「田中! これから、寿司を食いに行こうぜ」
「鈴木くん。その発言はオカしいよ」
「何でだ?」
「高校生が放課後に行くところって、ハンバーガー屋やケーキ屋、せいぜい喫茶店なんかでしょ? ガッツリ食べたいとしても、牛丼屋やラーメン屋が常識範囲内……。どこの世界に、放課後にクラスメートと連れだってお寿司屋さんへ行く高校生が居るっていうの?」
「ココに居る」
「僕は行かないよ」
「じゃ、タコ焼き屋に行こう」
「どうして、タコ焼き屋?」
「今日は、タコを食いたい気分なんだ。タコがネタの寿司を頂こうと思っていたんだが、お前がイヤと言うのなら、タコ焼きで妥協する」
「タコ焼き屋も、お断りだよ。鈴木くん、どうしてもタコが食べたいの?」
「うむ」
「だったら、タコスにしよう」
「タコスはタコ料理じゃ無いぞ」
「名前に〝タコ〟が入ってるから、良いでしょ」
「変だな……」
「な、なに?」
「田中、お前は寿司が大好きだったじゃないか」
「そうよ!」
「わ! 美代ちゃん」
鈴木と田中のクラスメート、山本美代が現れた。
「田中くんは、なんで今日に限ってお寿司屋さんへ行くのをイヤがるの? 鈴木くんと田中くんと私、3人で良くお寿司屋さん巡りをするほど、お寿司好きだったのに」
「そうだぞ、田中。どうして今更、寿司屋訪問を拒否するんだ?」
「僕は悟ったんだ! 寿司屋に行くなんて、高校生には過ぎた贅沢だったと」
「でも、私たちが行ったのは回転寿司のお店だけよ」
「ああ。しかも注文するのは、1回の入店につき3皿限定にしていた」
「無駄遣いはしなかったわよね」
「とにかく、僕はお寿司屋さんには行かない!」
「なんでなんだ、田中!」
「どうしてなの? 田中くん」
「鈴木くん、美代ちゃん……見て、分からない?」
「え?」
「なんのことなの?」
「2人は、僕の姿を見て、何も感じないの?」
「いつもの田中だ」
「いつもの田中くんね」
「そんなわけ無いでしょ!? よく見てよ! 僕の姿、今までと違ってるでしょ! 2人とも、なんで分からないの!」
「………?」
「………?」
「2人揃って、首をかしげないで!」
田中の悲痛な訴え。
しかし、鈴木と美代は……。
「お前、どこか変わったか?」
「ホラ、ちゃんと見てよ。頭がハゲちゃってるでしょ」
「田中くんの頭、これまでだってハゲてたじゃない」
「あれは、単に丸刈りにしてただけだよ! 目だって、この通り。ギョロッとなっちゃってる……」
「田中、もともとギョロ目だったじゃん」
「こんなに、目ん玉は飛び出てなかったよ!」
「クリクリしてて可愛いと思う」
「こんなの褒められても嬉しくないよ、美代ちゃん……。歩き方だって、ガニ股みたいになって……」
「田中、昔からガニ股じゃん」
なおも主張を続ける、田中。
「今の僕が歩くと、ペタペタ足音が……」
「中学生の時からズッと、ペタペタ足音を立ててたぞ。自覚が無かったのか? 田中」
「最悪なのは、生臭いニオイが身体から……」
「それは……」
言いよどむ鈴木を、美代が叱る。
「ダメよ、鈴木くん。『田中は以前から汗っかきで、体臭がハンパなかった』なんて言っちゃダメ! 田中くんが傷つくわ!」
「僕の心は、もうズタズタだよ。美代ちゃん」
「シッカリして! 田中くん。丸ハゲだろうと、ギョロ目だろうと、ガニ股だろうと、汗がニオおうと、それが田中くんなのよ。自信を持って!」
「うわ~ん! 半漁人にされてしまったのに、それを誰も疑問に思ってくれない。そんな僕が、どうやって自分という存在に自信を持てるって言うの? 教えてよ、美代ちゃん!」
「え! 田中、半漁人になっちゃったのか?」
「え! 田中くん、半漁人にされちゃったの?」
鈴木と美代は驚いた。
「そうだよ! 邪神に呪いを掛けられて、姿を変えられたんだよ」
「いつのことだ? 田中」
「10日前だよ。だというのに、この10日間、家族もクラスメートも、誰も気が付いてくれない。いつも通り、接してくる……姿を変えられた以上に、そっちのほうがショックだったよ!」
「だってなぁ……」
「田中くん、本当に姿を変えられたの? 以前との違いが、あんまり分からない……」
「鈴木くんも美代ちゃんも、酷すぎる!」
「ま、まぁ、何はともあれ、田中は半漁人に姿を変えられたので、寿司屋に行きたくないんだな」
「共食いになっちゃうもんね」
「美代ちゃんの発言、容赦なく僕の心に突き刺さるよ」
「山本って、時々俺より残酷だよな……」
話題を転じる、美代。
「ところで、田中くんを田中くんにしちゃった邪神って、何者なのかしら?」
「美代ちゃん……」
「山本。ニュアンスはなんとなく伝わるが、そこは『田中くんを半漁人にしちゃった邪神』と言ってやれ」
「私は神社の巫女なんだから、邪神がこの町に出現したなら、放ってはおけないわ」
「退治する気か? 山本」
「もちろんよ」
「僕を半漁人にした邪神は、タコみたいな姿をしていたよ」
「それで田中は、寿司どころか、タコ焼きも食べられなくなったんだな。なんて、恐ろしい呪いだ」
「タコみたいな姿の邪神……もう少し、情報が欲しいわね」
「その邪神、僕に呪いを掛けるときに『我が輩の眷属、インスマスとなるのだ~』とか言ってたよ」
田中の証言に、美代は衝撃を受けた。神社の巫女である彼女は、超常現象関係について詳しいのだ。
「インスマス! それなら、その邪神の正体はクトゥルフよ!」
「山本。〝クトゥルフ〟って何だ?」
「恐るべき神よ。はるかな昔、外宇宙からやってきた侵略者で、人類にとっては脅威としか言いようがない存在ね。見た者は滅多に居ないけど、不気味な姿は狂気に満ちていて、異形そのものと伝えられているわ。たとえるなら……タコのような、イカのような、クラゲのような、逆さになったイソギンチャクのような、使い古したモップのような、賞味期限の切れたモズクのような、彼氏にプレゼントする予定だったにもかかわらず途中で面倒くさくなって編むのを中断したまま放置してゴミと化したマフラーの残骸のような……」
「異形と言うより、珍妙だな」
「僕、タコとは思ったけど、そこまでフルボッコな連想はしなかったよ」
「山本の発想こそ、狂気に満ちているな」
田中と鈴木のコメントを、美代はスルーする。
「でも現在、クトゥルフは海底の神殿に封印されているはず……。それがどうして、日本のこの町に現れたの?」
「謎だな」
「私は巫女! この町の平和は、私が守ってみせる!」
美代は凜々しく宣言する。
「俺も手伝うよ」
「ありがとう、鈴木くん」
「それで、田中はどこでそのクトゥルフと会ったんだ?」
「うん。10日前の放課後、僕は急にお寿司を食べたくなったんだ。でもあいにく、鈴木くんも美代ちゃんも居なくて……で、町を歩いていたら、新しいお寿司屋さんがオープンしているのを見つけてしまい……」
「それは、入らざるを得ないわね」
「抜け駆けしたんだな」
「ごめん。けど美味しかったら、あとで鈴木くんと美代ちゃんにも教えようと思ってたんだよ。本当だよ!」
「信じるぜ」
「信じるわ」
「ありがとう。入店したら、タコみたいな店主が寿司を握っていたんだ。いや、今になってよく考えれば〝タコみたいな〟じゃ無くて〝タコそのもの〟だったな……でも、その時は特に気にしなくて」
「気にしろよ」
「気にしなさい」
「その店、変だったんだ。回転寿司屋なのに、お客は僕1人だけ。しかも、寿司を握っているのも、店主のみ。凄く不自然だった……」
「店主がタコという時点で、不自然きわまりない」
「田中くんは、着眼点がズレているわ」
「僕は店主が作ってくれたお寿司を食べたんだ。そしたら……」
「半漁人になってしまったんだな」
「〝インスマス・田中くん〟になってしまったのね」
「美代ちゃん! 僕を売れない芸能人みたいな名前で呼ばないで!」
「それで今、その店はどうなっているんだ?」
「あれ以来、怖くて行ってないよ……」
「それじゃ、今から行くわよ!」
「え? 美代ちゃん」
「おう! クトゥルフ征伐だぜ!」
「す、鈴木くん……」
「さ、田中くん。私たちをそのクトゥルフの元へ案内して」
「で、でも」
「何を怖じ気づいているんだ、田中! 邪神の脅威に、今この町は晒されているんだぞ。町の危機だ!」
「そうよ、田中くん。私たちの愛する町が、インスマス・田中くんだらけになっても良いって、田中くんは言うの?」
「〝インスマス・田中くんだらけ〟って…………美代ちゃん。僕、胸が痛い。泣きそう……」
「田中くんをこんなに悲しませるなんて、クトゥルフのヤツ、絶対許さないわ!」
「いま田中を泣かしているのは、山本だけどな」
こうして鈴木・田中・山本美代の3人は、邪神クトゥルフと対決することを決意したのである。
勇気ある高校生たちは、強大な力を持つ邪神との戦いに果たして勝てるのであろうか? 恐怖と戦慄のバトルが今、始まる!
♢
※注 クトゥルフ神話とは、20世紀のアメリカで、小説家ラヴクラフトを中心とした多くの作家たちによって創作された、架空の神話体系です。「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」と称される、壮大な世界観にもとづくSFホラーが特徴。
太古の地球を支配していた邪神たち(「旧支配者」――クトゥルフは、そのうちの代表的な神)、旧支配者と敵対する「旧神」たち――そういった、人間には到底あらがえない、常識が全く通じない、絶対的存在と遭遇することの恐怖を描いています。
鈴木……高校2年生の男子。言葉遣いがチョット乱暴。1人称は「俺」。
田中……高校2年生の男子。言葉遣いは丁寧。1人称は「僕」。
山本美代……高校2年生の女子。神社の巫女さん。1人称は「私」。
♢
ここは、とある高校の、とある教室。放課後の時間。
高校2年生の男子2人が向かい合っている。
「田中! これから、寿司を食いに行こうぜ」
「鈴木くん。その発言はオカしいよ」
「何でだ?」
「高校生が放課後に行くところって、ハンバーガー屋やケーキ屋、せいぜい喫茶店なんかでしょ? ガッツリ食べたいとしても、牛丼屋やラーメン屋が常識範囲内……。どこの世界に、放課後にクラスメートと連れだってお寿司屋さんへ行く高校生が居るっていうの?」
「ココに居る」
「僕は行かないよ」
「じゃ、タコ焼き屋に行こう」
「どうして、タコ焼き屋?」
「今日は、タコを食いたい気分なんだ。タコがネタの寿司を頂こうと思っていたんだが、お前がイヤと言うのなら、タコ焼きで妥協する」
「タコ焼き屋も、お断りだよ。鈴木くん、どうしてもタコが食べたいの?」
「うむ」
「だったら、タコスにしよう」
「タコスはタコ料理じゃ無いぞ」
「名前に〝タコ〟が入ってるから、良いでしょ」
「変だな……」
「な、なに?」
「田中、お前は寿司が大好きだったじゃないか」
「そうよ!」
「わ! 美代ちゃん」
鈴木と田中のクラスメート、山本美代が現れた。
「田中くんは、なんで今日に限ってお寿司屋さんへ行くのをイヤがるの? 鈴木くんと田中くんと私、3人で良くお寿司屋さん巡りをするほど、お寿司好きだったのに」
「そうだぞ、田中。どうして今更、寿司屋訪問を拒否するんだ?」
「僕は悟ったんだ! 寿司屋に行くなんて、高校生には過ぎた贅沢だったと」
「でも、私たちが行ったのは回転寿司のお店だけよ」
「ああ。しかも注文するのは、1回の入店につき3皿限定にしていた」
「無駄遣いはしなかったわよね」
「とにかく、僕はお寿司屋さんには行かない!」
「なんでなんだ、田中!」
「どうしてなの? 田中くん」
「鈴木くん、美代ちゃん……見て、分からない?」
「え?」
「なんのことなの?」
「2人は、僕の姿を見て、何も感じないの?」
「いつもの田中だ」
「いつもの田中くんね」
「そんなわけ無いでしょ!? よく見てよ! 僕の姿、今までと違ってるでしょ! 2人とも、なんで分からないの!」
「………?」
「………?」
「2人揃って、首をかしげないで!」
田中の悲痛な訴え。
しかし、鈴木と美代は……。
「お前、どこか変わったか?」
「ホラ、ちゃんと見てよ。頭がハゲちゃってるでしょ」
「田中くんの頭、これまでだってハゲてたじゃない」
「あれは、単に丸刈りにしてただけだよ! 目だって、この通り。ギョロッとなっちゃってる……」
「田中、もともとギョロ目だったじゃん」
「こんなに、目ん玉は飛び出てなかったよ!」
「クリクリしてて可愛いと思う」
「こんなの褒められても嬉しくないよ、美代ちゃん……。歩き方だって、ガニ股みたいになって……」
「田中、昔からガニ股じゃん」
なおも主張を続ける、田中。
「今の僕が歩くと、ペタペタ足音が……」
「中学生の時からズッと、ペタペタ足音を立ててたぞ。自覚が無かったのか? 田中」
「最悪なのは、生臭いニオイが身体から……」
「それは……」
言いよどむ鈴木を、美代が叱る。
「ダメよ、鈴木くん。『田中は以前から汗っかきで、体臭がハンパなかった』なんて言っちゃダメ! 田中くんが傷つくわ!」
「僕の心は、もうズタズタだよ。美代ちゃん」
「シッカリして! 田中くん。丸ハゲだろうと、ギョロ目だろうと、ガニ股だろうと、汗がニオおうと、それが田中くんなのよ。自信を持って!」
「うわ~ん! 半漁人にされてしまったのに、それを誰も疑問に思ってくれない。そんな僕が、どうやって自分という存在に自信を持てるって言うの? 教えてよ、美代ちゃん!」
「え! 田中、半漁人になっちゃったのか?」
「え! 田中くん、半漁人にされちゃったの?」
鈴木と美代は驚いた。
「そうだよ! 邪神に呪いを掛けられて、姿を変えられたんだよ」
「いつのことだ? 田中」
「10日前だよ。だというのに、この10日間、家族もクラスメートも、誰も気が付いてくれない。いつも通り、接してくる……姿を変えられた以上に、そっちのほうがショックだったよ!」
「だってなぁ……」
「田中くん、本当に姿を変えられたの? 以前との違いが、あんまり分からない……」
「鈴木くんも美代ちゃんも、酷すぎる!」
「ま、まぁ、何はともあれ、田中は半漁人に姿を変えられたので、寿司屋に行きたくないんだな」
「共食いになっちゃうもんね」
「美代ちゃんの発言、容赦なく僕の心に突き刺さるよ」
「山本って、時々俺より残酷だよな……」
話題を転じる、美代。
「ところで、田中くんを田中くんにしちゃった邪神って、何者なのかしら?」
「美代ちゃん……」
「山本。ニュアンスはなんとなく伝わるが、そこは『田中くんを半漁人にしちゃった邪神』と言ってやれ」
「私は神社の巫女なんだから、邪神がこの町に出現したなら、放ってはおけないわ」
「退治する気か? 山本」
「もちろんよ」
「僕を半漁人にした邪神は、タコみたいな姿をしていたよ」
「それで田中は、寿司どころか、タコ焼きも食べられなくなったんだな。なんて、恐ろしい呪いだ」
「タコみたいな姿の邪神……もう少し、情報が欲しいわね」
「その邪神、僕に呪いを掛けるときに『我が輩の眷属、インスマスとなるのだ~』とか言ってたよ」
田中の証言に、美代は衝撃を受けた。神社の巫女である彼女は、超常現象関係について詳しいのだ。
「インスマス! それなら、その邪神の正体はクトゥルフよ!」
「山本。〝クトゥルフ〟って何だ?」
「恐るべき神よ。はるかな昔、外宇宙からやってきた侵略者で、人類にとっては脅威としか言いようがない存在ね。見た者は滅多に居ないけど、不気味な姿は狂気に満ちていて、異形そのものと伝えられているわ。たとえるなら……タコのような、イカのような、クラゲのような、逆さになったイソギンチャクのような、使い古したモップのような、賞味期限の切れたモズクのような、彼氏にプレゼントする予定だったにもかかわらず途中で面倒くさくなって編むのを中断したまま放置してゴミと化したマフラーの残骸のような……」
「異形と言うより、珍妙だな」
「僕、タコとは思ったけど、そこまでフルボッコな連想はしなかったよ」
「山本の発想こそ、狂気に満ちているな」
田中と鈴木のコメントを、美代はスルーする。
「でも現在、クトゥルフは海底の神殿に封印されているはず……。それがどうして、日本のこの町に現れたの?」
「謎だな」
「私は巫女! この町の平和は、私が守ってみせる!」
美代は凜々しく宣言する。
「俺も手伝うよ」
「ありがとう、鈴木くん」
「それで、田中はどこでそのクトゥルフと会ったんだ?」
「うん。10日前の放課後、僕は急にお寿司を食べたくなったんだ。でもあいにく、鈴木くんも美代ちゃんも居なくて……で、町を歩いていたら、新しいお寿司屋さんがオープンしているのを見つけてしまい……」
「それは、入らざるを得ないわね」
「抜け駆けしたんだな」
「ごめん。けど美味しかったら、あとで鈴木くんと美代ちゃんにも教えようと思ってたんだよ。本当だよ!」
「信じるぜ」
「信じるわ」
「ありがとう。入店したら、タコみたいな店主が寿司を握っていたんだ。いや、今になってよく考えれば〝タコみたいな〟じゃ無くて〝タコそのもの〟だったな……でも、その時は特に気にしなくて」
「気にしろよ」
「気にしなさい」
「その店、変だったんだ。回転寿司屋なのに、お客は僕1人だけ。しかも、寿司を握っているのも、店主のみ。凄く不自然だった……」
「店主がタコという時点で、不自然きわまりない」
「田中くんは、着眼点がズレているわ」
「僕は店主が作ってくれたお寿司を食べたんだ。そしたら……」
「半漁人になってしまったんだな」
「〝インスマス・田中くん〟になってしまったのね」
「美代ちゃん! 僕を売れない芸能人みたいな名前で呼ばないで!」
「それで今、その店はどうなっているんだ?」
「あれ以来、怖くて行ってないよ……」
「それじゃ、今から行くわよ!」
「え? 美代ちゃん」
「おう! クトゥルフ征伐だぜ!」
「す、鈴木くん……」
「さ、田中くん。私たちをそのクトゥルフの元へ案内して」
「で、でも」
「何を怖じ気づいているんだ、田中! 邪神の脅威に、今この町は晒されているんだぞ。町の危機だ!」
「そうよ、田中くん。私たちの愛する町が、インスマス・田中くんだらけになっても良いって、田中くんは言うの?」
「〝インスマス・田中くんだらけ〟って…………美代ちゃん。僕、胸が痛い。泣きそう……」
「田中くんをこんなに悲しませるなんて、クトゥルフのヤツ、絶対許さないわ!」
「いま田中を泣かしているのは、山本だけどな」
こうして鈴木・田中・山本美代の3人は、邪神クトゥルフと対決することを決意したのである。
勇気ある高校生たちは、強大な力を持つ邪神との戦いに果たして勝てるのであろうか? 恐怖と戦慄のバトルが今、始まる!
♢
※注 クトゥルフ神話とは、20世紀のアメリカで、小説家ラヴクラフトを中心とした多くの作家たちによって創作された、架空の神話体系です。「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」と称される、壮大な世界観にもとづくSFホラーが特徴。
太古の地球を支配していた邪神たち(「旧支配者」――クトゥルフは、そのうちの代表的な神)、旧支配者と敵対する「旧神」たち――そういった、人間には到底あらがえない、常識が全く通じない、絶対的存在と遭遇することの恐怖を描いています。
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