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史那編
新学期 3
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母が用意してくれている朝食も、なんだか味を感じないし空腹感もない。
申し訳ないと思いながら、サラダを口にしただけでトーストには手が伸びなかった。
昨日の夕方から食が細くなっている私を、母も気にしているのは分かる。
だからこそ敢えて固形の食べ物を食卓に並べて私が少しでも食べる事を願っているのだろう。
流動食のようなお粥だと、腹持ちが悪い上に、病人になった気分になるからそれを見越した上で母は動いてくれている。その件は感謝するけれど……
「ごちそうさまでした」
私のテーブルを見た母は、なにも言わない。
きっと今日のパーティーが終われば、私の食欲も戻ると思っているからだろう。私もそうあって欲しいと思う。けれど、今日の事は誰にも分からない。それだけに考えただけで胃が痛くなりそうだ。
「お姉ちゃん、お散歩行きたい!」
果穂が無邪気にじゃれて来る。お散歩か……気分転換になりそうだ。
「うん、わかった。着替えて準備してくるから、果穂もお外に出る準備してね」
「やったー。ママー、果穂の上着出してー」
果穂が母に声を掛けている間に私は自分の部屋に戻り、軽装に着替えた。
散歩だし、めかし込む必要はない。但し、日焼け止めクリームを塗ることだけは欠かさない。
薄手の長袖Tシャツの上にパーカーを羽織り、ジーンズを穿く。小さめのショルダーバッグの中に、小銭入れと鍵、スマホを入れるとそれを肩から下げる。
準備ができたので部屋から出ると、既に果穂は玄関でスタンバイ状態だった。
「お待たせ、じゃあ行こう」
私が声を掛けると、嬉しそうに頷いた。
年の離れた果穂との散歩は、気持ちが切り替わる。一緒に馴染みの場所を歩くだけでも全然違うし、行く場所は果穂任せだから、どこに連れて行かれるかと思うとワクワクする。
果穂の歩調に合わせてゆっくりと歩くと、今まで気にしていなかった街の風景が目に入る。
街路樹のソメイヨシノはすでに散り落ちて葉桜になっており、木漏れ日と新緑のコントラストの美しさに思わず目を奪われそうになる。
果穂は今年幼稚園の年長さん、来年は小学生。成長が楽しみだ。
公園に到着すると、午前中だからか人は殆どいない。
果穂はブランコに向かって走り出した。つられて私も一緒に走ると空いているブランコに並んで座った。
「お姉ちゃんも一緒にブランコやろう」
果穂の誘いに一瞬躊躇いもあったけど、私は右足で地面を蹴った。
思えばブランコに乗ったのも、小学校の低学年の頃以来だ。久し振りに感じる浮遊感と身体全体に受ける風が気持ちいい。思いの外私が楽しんでいることに気づいた果穂が、負けじと必死にブランコを漕いでいる。
「お姉ちゃん凄い! 競争しよう」
しばらくの間私たちはブランコを漕いでいた。
少し日差しも強くなり、ブランコを降りた私は影に置かれているベンチを見つけ、そこに移動した。
果穂はまだブランコで遊ぶと言うので、私はベンチに座って果穂から目を離さない様に気をつけた。
果穂は外遊びが嬉しいのか、なかなかブランコから降りる気配がない。
私にもあんな時期があったなあ。昔の自分を振り返りながら、ショルダーバッグの中からスマホを取り出した。
時間を確認するつもりで取り出したスマホに、一件のメッセージ受信のお知らせがついていた。
画面を開く事を躊躇ったのは、送信者が理玖だったからだ。
現在十時半。どうせ今日の夜に顔を合わせるのだから、お昼前に帰宅してから読んでも間に合うだろう。
果穂はまだブランコで遊んでいる。
「ねえ果穂、喉かわかない? お姉ちゃんジュース飲みたいんだけど、果穂もいる?」
ベンチからは果穂に声を掛けると、果穂は喜んでブランコから降りて駆け寄って来る。
「コンビニに行くから、果穂、手を洗おう」
私達は公園にある水道の蛇口で手を洗い、ポケットの中からハンカチを取り出すと、果穂に手渡した。
果穂が手を拭いた後に私もそのハンカチで手を拭き、手を繋いで公園を後にした。
コンビニでジュースを買い、外のベンチに座って一緒に飲む。
きっと果穂一人では飲み切れる量ではないだろうけど、私と同じジュースを飲みたがるので果穂が飲み残した分を貰うことにした。
ジュースを飲み終え帰宅を促すと、果穂もすんなりと受け入れてくれたので自宅へと戻った。
帰宅すると、母が昼食の準備をしているところだった。私も食器を出したりテーブルを拭いたりと簡単な手伝いをした。散歩をして少しは空腹感を刺激できたかと思ったけれど、やはり気持ちの問題で食慾は湧かない。
母もそう思っていたのか、消化の良いヨーグルトやのど越しのいいゼリーを用意してくれていた。
母の気遣いに感謝しながら、それらを少し口にした。
昼食が終わり私は部屋に戻ると、私はスマホで動画配信サイトに流れているお気に入りの動画を見て時間を潰すことにした。夕方近くになり、私もパーティーへ行く支度をする。ドレスは心なしかウエスト周りが試着した頃よりも緩くなっていた。
申し訳ないと思いながら、サラダを口にしただけでトーストには手が伸びなかった。
昨日の夕方から食が細くなっている私を、母も気にしているのは分かる。
だからこそ敢えて固形の食べ物を食卓に並べて私が少しでも食べる事を願っているのだろう。
流動食のようなお粥だと、腹持ちが悪い上に、病人になった気分になるからそれを見越した上で母は動いてくれている。その件は感謝するけれど……
「ごちそうさまでした」
私のテーブルを見た母は、なにも言わない。
きっと今日のパーティーが終われば、私の食欲も戻ると思っているからだろう。私もそうあって欲しいと思う。けれど、今日の事は誰にも分からない。それだけに考えただけで胃が痛くなりそうだ。
「お姉ちゃん、お散歩行きたい!」
果穂が無邪気にじゃれて来る。お散歩か……気分転換になりそうだ。
「うん、わかった。着替えて準備してくるから、果穂もお外に出る準備してね」
「やったー。ママー、果穂の上着出してー」
果穂が母に声を掛けている間に私は自分の部屋に戻り、軽装に着替えた。
散歩だし、めかし込む必要はない。但し、日焼け止めクリームを塗ることだけは欠かさない。
薄手の長袖Tシャツの上にパーカーを羽織り、ジーンズを穿く。小さめのショルダーバッグの中に、小銭入れと鍵、スマホを入れるとそれを肩から下げる。
準備ができたので部屋から出ると、既に果穂は玄関でスタンバイ状態だった。
「お待たせ、じゃあ行こう」
私が声を掛けると、嬉しそうに頷いた。
年の離れた果穂との散歩は、気持ちが切り替わる。一緒に馴染みの場所を歩くだけでも全然違うし、行く場所は果穂任せだから、どこに連れて行かれるかと思うとワクワクする。
果穂の歩調に合わせてゆっくりと歩くと、今まで気にしていなかった街の風景が目に入る。
街路樹のソメイヨシノはすでに散り落ちて葉桜になっており、木漏れ日と新緑のコントラストの美しさに思わず目を奪われそうになる。
果穂は今年幼稚園の年長さん、来年は小学生。成長が楽しみだ。
公園に到着すると、午前中だからか人は殆どいない。
果穂はブランコに向かって走り出した。つられて私も一緒に走ると空いているブランコに並んで座った。
「お姉ちゃんも一緒にブランコやろう」
果穂の誘いに一瞬躊躇いもあったけど、私は右足で地面を蹴った。
思えばブランコに乗ったのも、小学校の低学年の頃以来だ。久し振りに感じる浮遊感と身体全体に受ける風が気持ちいい。思いの外私が楽しんでいることに気づいた果穂が、負けじと必死にブランコを漕いでいる。
「お姉ちゃん凄い! 競争しよう」
しばらくの間私たちはブランコを漕いでいた。
少し日差しも強くなり、ブランコを降りた私は影に置かれているベンチを見つけ、そこに移動した。
果穂はまだブランコで遊ぶと言うので、私はベンチに座って果穂から目を離さない様に気をつけた。
果穂は外遊びが嬉しいのか、なかなかブランコから降りる気配がない。
私にもあんな時期があったなあ。昔の自分を振り返りながら、ショルダーバッグの中からスマホを取り出した。
時間を確認するつもりで取り出したスマホに、一件のメッセージ受信のお知らせがついていた。
画面を開く事を躊躇ったのは、送信者が理玖だったからだ。
現在十時半。どうせ今日の夜に顔を合わせるのだから、お昼前に帰宅してから読んでも間に合うだろう。
果穂はまだブランコで遊んでいる。
「ねえ果穂、喉かわかない? お姉ちゃんジュース飲みたいんだけど、果穂もいる?」
ベンチからは果穂に声を掛けると、果穂は喜んでブランコから降りて駆け寄って来る。
「コンビニに行くから、果穂、手を洗おう」
私達は公園にある水道の蛇口で手を洗い、ポケットの中からハンカチを取り出すと、果穂に手渡した。
果穂が手を拭いた後に私もそのハンカチで手を拭き、手を繋いで公園を後にした。
コンビニでジュースを買い、外のベンチに座って一緒に飲む。
きっと果穂一人では飲み切れる量ではないだろうけど、私と同じジュースを飲みたがるので果穂が飲み残した分を貰うことにした。
ジュースを飲み終え帰宅を促すと、果穂もすんなりと受け入れてくれたので自宅へと戻った。
帰宅すると、母が昼食の準備をしているところだった。私も食器を出したりテーブルを拭いたりと簡単な手伝いをした。散歩をして少しは空腹感を刺激できたかと思ったけれど、やはり気持ちの問題で食慾は湧かない。
母もそう思っていたのか、消化の良いヨーグルトやのど越しのいいゼリーを用意してくれていた。
母の気遣いに感謝しながら、それらを少し口にした。
昼食が終わり私は部屋に戻ると、私はスマホで動画配信サイトに流れているお気に入りの動画を見て時間を潰すことにした。夕方近くになり、私もパーティーへ行く支度をする。ドレスは心なしかウエスト周りが試着した頃よりも緩くなっていた。
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