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史那編

新学期 1

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 四月に入り入学式を迎え、無事に新入学生代表挨拶も済ませた。
 一年生は私を含めて六十人。定員丁度だった。
 一学年二クラスで、クラスの割り振りも成績順とかではなかっただけに肩の荷が下りた。
 この学校は学力こそ前の学校のときより気にしなくてもいいけれど、大和撫子が教育方針らしく、家庭科目には特に力が入っている。
 料理、裁縫、書道、華道、茶道等、学校での必須科目以外でも部活動に力を入れており、中等部からの持ち上がり組は皆すでにどれかの部に所属している。

 やはりなにかはやらないといけないよな……

 外部入学者には体験入部期間が設けられており、実際に何日か体験して入部を決めるのが慣例だ。
 一通り、全てをやらせて貰って決めることも可能らしく、入学式の翌日、部活動訪問で色々と見学をさせて貰った結果、体験入部でまずは書道部へ入部することにした。
 映画でもある書道パフォーマンスはそれなりに有段者でないとあんな風にできないのは分かっているし、そこまでにはなろうと最初から思っておらず、まずは毛筆に慣れることを目標とした。
 毛筆もだが、これでペン字も綺麗に書けるようになれば一石二鳥である。
 体験入部期間に、ただ黙々と毛筆で半紙に字を書くだけの活動だけど、体験期間でも自分の書いた文字を添削指導して貰えるのはとてもありがたい。
 今週いっぱいと言っても今日が水曜日だから残り二日、書道部で体験させて貰い、来週は違う部を体験予定だ。

 そういえば今週末にパーティーがあることを思い出した。それだけで気が重い。
 もしかしたらここはお嬢様学校だ。もしかしたらこの学校の誰かもそのパーティーに出席する可能性も高い。
 それに、理玖がエスコートしてくれるならまた悪目立ちしそうだ。また中等部の頃のような嫌がらせが起こるかも知れない、そう考えたら本気でパーティーを欠席したいと思う。
 もし本当にパーティーを休むなら、明日の夜あたりから体調不良の振りをするしかない。
 新しい環境に慣れず気を張って疲れが出た、という理由は無理があるだろうか。新入学生代表挨拶もしたことだし、少しは信憑性があるとは思うけど、熱を測ったらきっとバレちゃうかな……

 色々と考えているとせっかく始まった新生活も、なんだか先行き不透明で気持ちが重くなりそうだ。

「書道をしている時は、考えごとをしない。心の乱れが文字に現れますよ」

 先輩に注意を受けて、私は我に返る。今は書道体験中だった。

「文字はその時の心の状態がよく分かります。高宮さん、今あなたは悩みがありますね。そんな状態で書く文字は、どうしても迷いが出ます。逆に嬉しいことがあった時の文字にはその喜びが出ます。そんな時は一度気持ちを落ちつかせてから筆を取るといいですよ」

 先輩の言葉に私は驚きを隠せない。言われてみれば、確かにそうだ。
 授業のノートを取る時も、自宅で宿題をする時も特別意識をしたことはなかったけれど、文字にはその時の感情が現れていると言われて納得がいく。
 私は筆を置いて一呼吸する。

「これだけでもきっと次に書く文字は違ってきますからね、心に乱れがある時は無理せず一度このように筆を置くといいですよ」

 先輩の言葉に私は無言で頷いた。
 文字に気持ちが現れる、肝に銘じよう。
 今日はもう、なにをやってもきっと上手く書ける自信がない。そう判断した私は、今日の体験活動を終了することにした。
 私は先輩にお礼を言うと、借り物の書道道具を片づけた。
 正式に入部したら、自分の書道道具が必要だ。きちんと揃えなければならないのか確認すると、小学生の頃に買って貰った道具で充分だとの答えだった。
 帰宅してから書道道具を探してみよう。きっと部屋のクローゼットの中に仕舞い込んでいたはずだ。

 来週は服飾部に体験入部予定だ。和裁洋裁と、自分で服を縫うという。体験期間は布小物作りをするらしく、不器用な私でもきちんと作れるか期待半分不安半分だ。
 でも、その前に……

 私は書道部の部室から退室し、帰宅の途に就いた。

 翌日も、授業が終わったら真っ直ぐに書道部の部室へと向かった。
 昨日のような失態は起こさなかったものの、それでも筆を使い慣れていない私の文字は、何度書いても添削されて真っ赤になる。恥ずかしくて自信を無くしてしまいそうになるけれど、最初は皆一緒だから気にしないでと励まされ、尚更落ち込んでしまいそうになる。

 そして帰宅した今、明日のこあとを考えたら胃が痛い。
 クローゼットには、明日着用するドレスが用意されている。サーモンピンクのAラインのシルエットが綺麗なドレスだ。
 このドレスに合わせて黒地に赤のリボンがアクセントのパンプスを父に用意された。
 白いミニバッグにアクセサリーは母から借りたネックレスとイヤリング。
 髪型はどうしようか悩んだけれど、母がサイドを編み込みしてくれると言う。
 まだ高校生になったばかりだから化粧もしないし、そこまでめかし込む必要もない。とりあえずは明日が公の場へのデビューとなるけれど、私自身そんなに頻繁にこのような場に出席するつもりはないし、きっと父も私の性格を理解しているから、このような場への参加は今回だけのような気がする。

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