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史那編

プレゼント 3

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 理玖からのメッセージですっかり舞い上がている沢井姉妹だ。きっと理玖からなにを貰うかとか気になるに違いない。

「理玖の都合も聞いてみるけど、水族館に行く前の日にでも返事しておくよ。その代わり、このことは大きな声で言わないでね」

 私の言葉に、二人はもちろんと約束をしてくれたものの再び盛り上がる。
 この二人に内緒話はできないとつくづく思った。

「うん、報告待ってる」

 加恋ちゃんは我がごとのように興奮している。
 対する愛由美ちゃんは、そんな加恋ちゃんをたしなめている。
 でも二人とも、決して面白半分で揶揄っているわけではなく純粋に心配してくれているからこそだから、二人には嘘を吐きたくなかった。

 私は二人の前で理玖に返信すると、理玖からはスタンプで返事が届いた。
 詳しい時間などは、また会う前日にでも連絡が来るだろう。きっと理玖のことだから、周囲の目を考えてうちへ届けに来てくれるか私が理玖の家へ取りに行くかのどちらかだ。
 私はスマホを片づけて、今度は加恋ちゃんの恋バナを聞いていた。
 そんなこんなで時間はあっという間に流れ、私達は沢井家を後にした。


 翌日、母と一緒に制服を販売している指定店を訪れると、私と同じく高等部に外部から進学してきたと思われる女の子が数名いた。
 内部進学者は、ブラウスとリボンのみの購入と愛由美ちゃんから聞いていたので、私と同じく外部からの子だとすぐに分かった。少なくとも外部からの入学者は私を含めて三人はいることに安堵した。

 制服の採寸が終わると、すぐに制服と体操服の在庫を出してくれたので、その日のうちに自宅へ持ち帰ることができた。
 中等部の子の制服もあるから、下手したら数日時間がかかるかと思っていただけに驚いた。
 もしかしたら私は身長が高いせいもあり、たまたま在庫があっただけなのかも知れないけれど、これで新しい高校へ通う実感が少し湧いてきた。
 通学用の鞄は特に指定もなく、愛由美ちゃんの部屋で見た鞄は私が中等部で使っていた鞄と似ていたので、引き続きそれを使うことにした。

 外部からの進学者向けの入学説明会で、入学に向けて用意しなければならない物リストが配布され、制服と体操服、教科書類以外は特に学校指定の物がなくて安堵した。
 着実に高校進学への準備を進める中で、やはり頭の片隅に理玖の存在があことを否定できないでいる。

 高校が離れても理玖とは今後、父の会社の取引先も絡んでくるパーティーで必ず顔を合わせる。
 しかもそれは私の入学式のある週末土曜日に早速行われる。
 きっと知らない人ばかりの場で理玖と一緒に行動をしなければならないのだ。それを考えると今から胃が痛くなりそうだ。

 父から私のエスコートは理玖が務めてくれると聞かされている。
 理玖はそのことについてどう思っているのだろう。
 聞くのが怖いけどエスコートで迷惑をかけるわけだから、入学祝いを貰う時になにか声を掛けておいた方がいいだろうか。それとも当日でいいだろうか。
 でも私のことだから、いざ理玖に会ったら緊張して思っていることを言えないだろう。
 パーティーにしたって、父の会社の取引先の令息令嬢も同伴のものだから、もしかしたら顔見知りがいるかも知れない。そんな中理玖にエスコートされると考えただけで、本当に今から不安と嫌悪感しか湧いてこない。
 母に以前から用意されていたドレスにも袖を通し、アクセサリーのコーディネートも考えなければならない。

 色々と考えていると、入学祝いをくれると言う理玖に会いたいと思えなくなっていた。
 こんな調子だと、また中等部の頃みたいに理玖に迷惑をかけるだけだ。お荷物になってしまう。そんなことはしたくない。でもこのままではいつまでも堂々巡りだ。
 この際、パーティーは仮病を使って欠席しようか、それとも具合が悪いと言って早々に退散しようか。
 まだパーティーに参加したこともない癖に、すでにネガティブ思考全開だ。
 私は身長が高いから多分目立つし、こんな気持ちのままで人と関わりたくない。
 この自信のなさが、ネガティブ思考を助長させていることも自覚している。
 でも理玖は私と違って自信に満ち溢れて輝いている。
 どうすれば、そんな風になれるの? 憂鬱な気持ちを抱えたまま、理玖と会う日を迎えた。

 前日に理玖から連絡があり、入学祝いはうちに持ってきててくれることになった。
 やはりどこかで待ち合わせたりと外で会うことはない、想定内だ。
 この日は母と果穂は幼稚園のお友達と遊ぶ約束をしていたらしく、児童館へと遊びに出ており家には私一人だった。お祝いを持って来てくれるのに門前払いをするわけにはいかないけれど、家に上げるのもどうだろう。でも理玖は従兄だ。こんなことで悩むなんて自意識過剰だろうか。

 もし仮に上がってもらうことになった場合、夏休みの時みたいにリビングに通せばいいか。やましいことなんてなにもないのだから。
 リビングの片づけを始めたタイミングで、インターホンが鳴り、モニターを確認する。

 そこには理玖が映し出されていた。

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