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史那編

史那の進路 ーside理玖ー 3

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 場所については特にメッセージでのやり取りはしていないけれど、ついてくれば俺の向かう場所は史那にも分かるはずだ。

 俺はしばらくく人通りの多い道を歩いていたけれど、裏道に入った。史那はこの抜け道を知っているだろうか。
 少し歩調を緩めて背後の気配を窺うと、きちんと後を追っている。
 この裏道を抜けると、オフィス街に出る。そして少し歩くと……

 そこには、高宮の本社ビルが聳え立っている。
 俺は迷わずその中に入って行く。そして史那も俺に遅れて本社ビルの中へ入った。
 ロビーで史那を待つ間、学生証を取り出す準備をした。
 史那も何度かこのビルに足を運んだことがあったのか、それとも雅人叔父さんから事前に聞いていたのか、すんなりと学生証を取り出して受付に提示した。
 俺たちはエレベーターに案内されると、俺は勝手知ったると言わんばかりにエレベーターの役員室のある階のボタンを押した。

 到着したのは前回雅人叔父さんに案内されたフロアだ。
 エレベーターから出ると、ある人と視線が合った。

「松永さんすみません、しばらく応接室お借りします」

 雅人叔父さんの秘書である松永さんは、父よりも少し年齢が上の落ち着いた雰囲気の人だ。
 以前松永さんの長男、幸司くんには中学受験前に家庭教師をして貰ったこともあり、父の会社の人の中でも信頼のおける人だ。

 父には事前に、今日この時間に応接室を使いたいと伝えていたので、松永さんにも話が伝わっているのだろう。
 俺の言葉に松永さんはご案内しますとだけ言うと、俺たちを応接室へと案内してくれた。

 通された応接室は、それほど広くない。
 お茶もいらないと先に断りを入れたので、松永さんはそのまま退室し俺たち二人だけになった。

 改めて密室に二人きりと意識すると、緊張してしまう。その緊張を悟られないように必死だ。
 史那も案の定、緊張しているみたいだ。今日こそは、史那の進路の話が聞けるのだろうか。
 それとも別の話があるのだろうか。

 応接セットのソファーに腰掛けると、史那にも着席を促した。史那は俺の正面に座った。
 テーブルを挟み、まるで面談みたいだ。

「で、大事な話って何だ?」

 俺は単刀直入に切り出した。
 ここならばオフィス街でお互いの同級生と鉢合わせすることもないし人目も気にならない。仮にこのビルに出入りしているところを見られたとして、なんとでも言い訳ができる。
 ここでなら、誰の目も気にすることなく本音が聞きだせるだろうか。

 俺の言葉に史那が俯いていた顔をあげた。
 深呼吸をして、きっと言葉を選んでいる。いつもなら俺は史那の言葉を遮っていたけれど、ここでそれをしてはいけない。
 史那は再び深呼吸をし、ようやくその重い口を開いた。

「あのね……」

 史那の言葉に頷く。

「えっと……高校のことなんだけど」

 俺は再び頷いて話の続きを促すと、史那も意を決したのか言葉を続けた。

「高校は内部進学せずに、愛由美ちゃんがいる学校の高等部を受験するの」

 史那の決断に、俺は内心ホッとした。これであのプライドだけ異様に高いだけの陰湿な奴らから史那を守ることができる。しかも愛由美ちゃんのいる学校は、入学させたいと志願する保護者がわんさかいる。史那の成績ならきっと大丈夫だろう。

「……で、先週の統一テストの結果はどうだったんだ?」

 俺は自分の思惑が史那にバレないように、わざと統一テストの話を持ち出した。

「気づいてたの? って、もしかして理玖も受験してたの?」

 まさかストーカー紛いの行動を取っていたとはさすがに言えない。

「ああ……どんな格好をしたって史那は史那なんだから、すぐに分かるよ」

 うまく誤魔化せただろうか。
 珍しく史那と長時間視線が合うと、さすがに恥ずかしい。俺は思わず視線を外した。

「で、結果はもう取りに行ったのか?」

 そして再び話題を模試のことに戻すと史那もそれに乗って来た。

「あ……うん。昨日、補習の後で取りに行った」

「で、どうだった?」

「うん、おかげ様でA判定だった。でもあれはあくまで模試だし、本番じゃないから、油断しちゃダメだよね。受験の時に体調崩さないように気をつけなきゃだし」

 中等部にいれば、大抵の高校はA判定だろう。とりあえずは一安心だ。

「もう外部受験それは、史那の中でも決定なのか?」

 史那の意思を最終確認する。
 史那は俺の目を見つめて頷いた。

 俺は深呼吸を一つ吐くと、立ち上がり伸びをした。
 これでようやく俺の心配もなくなった。後は史那の努力次第だ。

「そっか、分かった。受験、頑張れよ」

 俺はそう言って、史那に微笑んだ。
 内心は複雑だった。史那が傍にいないことの淋しさを隠しきれない。
 でも、那のことを考えると、史那の決断が最善の方法だ。

 史那が頷いて応えたタイミングでドアがノックされた。
 そしてドアが開くと、父と雅人叔父さんが一緒に入って来た。

「高宮の応接室を密会場所に使うとは、理玖も考えたな」

 先日ここに呼び出したと言わない辺りがさすがだ。

「もう話は終わったのか?」

 史那が雅人叔父さんの問いに頷いて答える。

「そっか。ちゃんと言えたんだな? 史那、頑張ったな」

 やはり今日のことを雅人叔父さんにも相談していたのか。

「もう少ししたら仕事も終わるから、史那、一緒に帰ろう」

 史那と叔父さんの会話を邪魔しないように俺は席を外した。
 俺は父も仕事が終わったと言うのでそのまま一緒に帰宅した。
 史那の進路を聞いてから受験まで色々体調や学力やら心配ごとはあったけど、史那は自分の実力で無事に合格をもぎ取った。

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