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史那編
カウントダウン ーside理玖ー 3
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史那の家から見える景色も好きだけど、こんな屋外の開放感がある展望台も実は好きだ。
俺は史那の手を引いたまま展望台へと向かった。交代で双眼鏡を覗きながら遠くの景色を眺めている。
お互い会話はない。無言で、目的の場所を定めずただ、ぼんやりと双眼鏡を覗いていた。
「なにも考えずに、遠くをぼんやり眺めていると現実逃避ができるよな」
俺は唐突に口を開く。
言葉の意図することが理解できない史那は俺を見つめている。
俺は双眼鏡を覗きながら言葉を続けた。
「今置かれている状況とかさ、立場とかどうでもいいって思うのに、自分の気持ちに正直に動きたいのに、大人になるに従って色々と縛られていくんだよな……段々と身動きが取れなくなっていく。手を伸ばしたくても伸ばせなくて、気がついたら取り返しのつかないことになりそうで怖いよ」
史那は俺の言葉を黙って聞いている。
内心こいつなにを言っているんだとでも思っているだろう。
意味は分からなくていい。でも、気づいて欲しい。
お互い黙ったまま、どのくらい時間が流れただろう。
展望台にいたはずの人たちは、いつの間にかいなくっていた。
そして太陽も西に傾き始め、陽射しも日中の明るい白色光からオレンジが掛かった色味へと移り変わろうとしている。
それでも夕刻には少し早い時間だ。
「……史那、あのさ」
俺の言葉は、タイミングが悪いことにスマホの音に遮られる。
俺のスマホの着信音だ。
俺は思わず舌打ちをすると、ポケットに入れていたスマホを取り出した。液晶画面に表示されているのは、母の名前。よりによってどんなタイミングだよ。俺は顔を顰めた。
スルーしたいところだが、後が面倒だ。画面を見て固まっている俺に、史那が遠慮がちに声を掛けた。
「理玖、電話に出て。私、電話が終わるまであそこにいるから」
史那はそう言うと、エレベーター乗り場の前に設置してあるベンチに向かって歩いた。
多分着信時に表示された母の名前は史那から見えなかったはずだ。
別に見られても支障はなかったけれど、母は色々と面倒くさい。
俺は史那の後姿を見送りながら電話の通話ボタンを押した。
「もしもし」
『ああ、理玖? 今史那ちゃんと一緒なの?』
相変わらず母はマイペースだ。誰にもなにも言わずに家を出たのに、母には筒抜けのようだ。
内心イライラしながらもそれを態度に出すわけにはいかない。
「ああ、どうして?」
『GPSよ。それに文香さんから史那ちゃんの予定も聞いていたから』
母の言葉に納得した。俺と史那のスマホにはGPSのアプリがインストールされており、両親のスマホから俺の位置情報は把握できるのだ。もしもの時のためにとスマホにはアプリが標準装備されており、学校以外の場所に外出する時はスマホを持ち歩くように言われている。
「で、なにか用?」
史那が一緒にいると分かって電話をかけてくるるのはきっと確信犯だ。
『きちんと史那ちゃんの口から聞けたの?』
一瞬なんのことかと思ったけれど、もしかしたら母は史那の進路のことをなにか知っているのだろうか。
俺はなにも聞いていないのに、母は文香叔母さんからなにか耳にしているのか?
「どういうこと? 母さん、なにか聞いてるの?」
俺の言葉に母はなんてことないと言う口調で答える。
『さっきも言ったでしょう? 文香さんから史那ちゃんの今日の予定を聞いていたし、あなたの現在地と照らし合わせて一緒にいるのかと思ったのよ』
そういうことか。でも、史那の口から聞けたのかとは……やはり今日の統一テストで志望校判定をするつもりなのか。聞けるものなら聞きたい。きっと史那はまだ自分からそのことについて口を割らないだろうし、仮に俺がカマをかけてみてもはぐらかすに違いない。
「で? 用事はなに?」
長電話をするつもりは毛頭ない。それに史那に誤解を与えるようなことはしたくない。
『相変わらずつれないわね。蒼良がさっき帰って来たから、理玖は何時頃になるかと思ったのよ』
「そんなのメールでも済むだろう?」
『あら、そんなことないわよ。夕食の支度だってあるんだから。あ、じゃあ今日は蒼良も頭を使って疲れてるだろうし外食にしましょう。これから用事もあって文香さんのお宅に行くから、理玖も史那ちゃんを送って一緒にマンションまで来なさい。じゃあそういうことでよろしくね』
母の一方的な話で通話は終わった。
要するに自分が食事の用意をするのが面倒くさいから俺を言い訳に外食するということだろう。
きっとこの調子じゃ後で色々と母に詮索されるだろうな。それならば……
俺は史那の手を引いたまま展望台へと向かった。交代で双眼鏡を覗きながら遠くの景色を眺めている。
お互い会話はない。無言で、目的の場所を定めずただ、ぼんやりと双眼鏡を覗いていた。
「なにも考えずに、遠くをぼんやり眺めていると現実逃避ができるよな」
俺は唐突に口を開く。
言葉の意図することが理解できない史那は俺を見つめている。
俺は双眼鏡を覗きながら言葉を続けた。
「今置かれている状況とかさ、立場とかどうでもいいって思うのに、自分の気持ちに正直に動きたいのに、大人になるに従って色々と縛られていくんだよな……段々と身動きが取れなくなっていく。手を伸ばしたくても伸ばせなくて、気がついたら取り返しのつかないことになりそうで怖いよ」
史那は俺の言葉を黙って聞いている。
内心こいつなにを言っているんだとでも思っているだろう。
意味は分からなくていい。でも、気づいて欲しい。
お互い黙ったまま、どのくらい時間が流れただろう。
展望台にいたはずの人たちは、いつの間にかいなくっていた。
そして太陽も西に傾き始め、陽射しも日中の明るい白色光からオレンジが掛かった色味へと移り変わろうとしている。
それでも夕刻には少し早い時間だ。
「……史那、あのさ」
俺の言葉は、タイミングが悪いことにスマホの音に遮られる。
俺のスマホの着信音だ。
俺は思わず舌打ちをすると、ポケットに入れていたスマホを取り出した。液晶画面に表示されているのは、母の名前。よりによってどんなタイミングだよ。俺は顔を顰めた。
スルーしたいところだが、後が面倒だ。画面を見て固まっている俺に、史那が遠慮がちに声を掛けた。
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別に見られても支障はなかったけれど、母は色々と面倒くさい。
俺は史那の後姿を見送りながら電話の通話ボタンを押した。
「もしもし」
『ああ、理玖? 今史那ちゃんと一緒なの?』
相変わらず母はマイペースだ。誰にもなにも言わずに家を出たのに、母には筒抜けのようだ。
内心イライラしながらもそれを態度に出すわけにはいかない。
「ああ、どうして?」
『GPSよ。それに文香さんから史那ちゃんの予定も聞いていたから』
母の言葉に納得した。俺と史那のスマホにはGPSのアプリがインストールされており、両親のスマホから俺の位置情報は把握できるのだ。もしもの時のためにとスマホにはアプリが標準装備されており、学校以外の場所に外出する時はスマホを持ち歩くように言われている。
「で、なにか用?」
史那が一緒にいると分かって電話をかけてくるるのはきっと確信犯だ。
『きちんと史那ちゃんの口から聞けたの?』
一瞬なんのことかと思ったけれど、もしかしたら母は史那の進路のことをなにか知っているのだろうか。
俺はなにも聞いていないのに、母は文香叔母さんからなにか耳にしているのか?
「どういうこと? 母さん、なにか聞いてるの?」
俺の言葉に母はなんてことないと言う口調で答える。
『さっきも言ったでしょう? 文香さんから史那ちゃんの今日の予定を聞いていたし、あなたの現在地と照らし合わせて一緒にいるのかと思ったのよ』
そういうことか。でも、史那の口から聞けたのかとは……やはり今日の統一テストで志望校判定をするつもりなのか。聞けるものなら聞きたい。きっと史那はまだ自分からそのことについて口を割らないだろうし、仮に俺がカマをかけてみてもはぐらかすに違いない。
「で? 用事はなに?」
長電話をするつもりは毛頭ない。それに史那に誤解を与えるようなことはしたくない。
『相変わらずつれないわね。蒼良がさっき帰って来たから、理玖は何時頃になるかと思ったのよ』
「そんなのメールでも済むだろう?」
『あら、そんなことないわよ。夕食の支度だってあるんだから。あ、じゃあ今日は蒼良も頭を使って疲れてるだろうし外食にしましょう。これから用事もあって文香さんのお宅に行くから、理玖も史那ちゃんを送って一緒にマンションまで来なさい。じゃあそういうことでよろしくね』
母の一方的な話で通話は終わった。
要するに自分が食事の用意をするのが面倒くさいから俺を言い訳に外食するということだろう。
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