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史那編
カウントダウン ーside理玖ー 1
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史那はうちのリビングでお茶を用意している母に向かって声を掛けた。
「伯母さん、実は今度の文化祭のことなんだけど」
史那の言葉に、母が手を止める。
俺と蒼良も、黙って史那の言葉に耳を傾けた。
「実は私のクラスの実行委員の子が怪我して入院して、私がその子の代理で実行委員を引き継ぐことになっちゃって……
だから当日は一緒に回ることができないの」
その言葉に反応したのは蒼良だった。
「えー、史那ちゃんマジで? 僕、一緒に見て回りたかったのに」
蒼良の言葉に継いで母も反応する。
「え? そうなの? それは残念だわ。私も史那ちゃんと一緒に回りたかったのに。
史那ちゃんの中等部最後の文化祭なのに、きっと文香さんや果穂ちゃんも寂しいでしょうね」
史那の中学生活が最悪な思い出しかないのは少なからず俺のせいでもある。
でもそれを表に出すことをしない。だから今回も俺が気を遣わないように軽くお茶を濁している。
「うん。でも今回は滅多にできない貴重な体験をさせて貰うから……もし良かったら、私もこんなだからうちの母と回って貰えると助かる」
史那の言葉に、蒼良はまだ残念そうにしているけれど、渋々頷いた。
「僕、結局史那ちゃんと一緒にならないんだもん。歳は二つしか違わないのに学年三つ違うなんて理不尽だと思うんだ」
史那は早生まれだから、年齢的には二歳の年の差だ。でも学年はちょうど三つ違いなので、史那と蒼良は入れ違いになる。そんな蒼良をなだめるのは、いつも母か史那だ。
「でもそれは仕方ないでしょう? それなら蒼良は、飛び級出来る学校に進学する?」
母の声に、蒼良は頬を膨らませる。
「そこまで僕は賢くないもんっ」
その表情がかわいく見えたのか、史那の頬が緩む。
「じゃあさ、文化祭は一緒に回れないけど、受験が終わって落ち着いたら一緒に映画でも観に行かない?」
史那の提案に、それまでつむじを曲げていた蒼良の表情が一変した。
満面の笑みを浮かべており機嫌が直ったようだ。蒼良は俺と違って素直だからとても分かりやすい。
でも史那のこれは、俺にとって聞き捨てならない発言だ。
「ホント? うん、映画観に行こう。わー、何がいいかなっ。史那ちゃん、なにが観たい?」
「蒼良の好きなのでいいよ。まだ先の話だし。好きな奴、年明けてから探しといてね。
春休みに入ってからの方が時間にも余裕ができるから、その頃一緒に行こう。蒼良の進学祝いも兼ねて」
史那が現時点で進路をどうするのか聞きたいけど聞けない。
「んー……だよね。友達にも中等部の受験のことは言ってるし、本当は早く史那ちゃんと一緒に映画観たいけど、受験本番で体調崩したら笑い者になっちゃうよね」
蒼良も中学受験を希望している。
幼少の頃から俺を見て、少しでも将来役に立つ情報を仕入れている要領の良さは末っ子気質そのものだ。
小学校でもそれなりに優秀な成績で、全国テストでも毎回それなりに実績を残している。
来月の統一テストも受験すると言っていた。もしかしたら、史那も内緒で受験するかも知れない。
試験日は確か、中等部文化祭の一週間前だ。果たして受験勉強する暇はあるのだろうか。
俺はその日、目立たない格好で受験会場の近くで史那が受験会場に来るか見張っていた。
試験会場は、小学生、中学生、高校生と教室が別れており、蒼良に見張りを頼む訳にはいかない。
俺は蒼良にも内緒で会場近くの場所で受験生の出入りを見張っていた。
案の定、史那は現れた。いつも髪の毛はきちんと括っているのに、この日は髪の毛を下ろしていた。
顔を極力見えないように、ご丁寧に伊達メガネまでかけている。
きっと史那は自分の変装が完璧だと思っているだろうけど、それは甘い。
他の人の目は欺けても、俺の目は欺けない。
試験が終わるまでここにいると完全に俺まで怪しい人認定されてしまうので、ここは一旦移動しよう。
試験終了時刻は蒼良から聞いて確認済みだ。
俺は会場から離れると、時間潰しにゲームセンターへと向かった。
再び試験会場近くに戻ったのは、試験終了時刻の十分前だった。
史那のことだ、きっと知り合いに見つからないように早く出るか、それともみんなが試験会場から出た後にゆっくり出るかのどちらかだ。
きっと後者だろうと思うが、もしもの時のことも考えなければならない。
俺は会場から出て来る学生を注意深く観察した。
ある程度の人混みをやり過ごしたが、その中に史那の姿を確認することはできなかった。
もしかして、見落とした……?
俺は、念のために史那のスマホにメッセージを送った。
ただ一言、『今、どこにいる?』と。
なかなか既読がつかない。
もしかして、史那はスマホを自宅に置いているのか?
いや、そんなことはない。叔父さんや叔母さんがそんなことをさせる訳がない。
俺も史那も、高宮の人間だ。もしもの時を想定して、外出する際はスマホを必ず持って行くように言われている。
なぜなら俺たちのスマホにはGPSのアプリがインストールされており、いざと言う時の行動が分かるようになっている。
「伯母さん、実は今度の文化祭のことなんだけど」
史那の言葉に、母が手を止める。
俺と蒼良も、黙って史那の言葉に耳を傾けた。
「実は私のクラスの実行委員の子が怪我して入院して、私がその子の代理で実行委員を引き継ぐことになっちゃって……
だから当日は一緒に回ることができないの」
その言葉に反応したのは蒼良だった。
「えー、史那ちゃんマジで? 僕、一緒に見て回りたかったのに」
蒼良の言葉に継いで母も反応する。
「え? そうなの? それは残念だわ。私も史那ちゃんと一緒に回りたかったのに。
史那ちゃんの中等部最後の文化祭なのに、きっと文香さんや果穂ちゃんも寂しいでしょうね」
史那の中学生活が最悪な思い出しかないのは少なからず俺のせいでもある。
でもそれを表に出すことをしない。だから今回も俺が気を遣わないように軽くお茶を濁している。
「うん。でも今回は滅多にできない貴重な体験をさせて貰うから……もし良かったら、私もこんなだからうちの母と回って貰えると助かる」
史那の言葉に、蒼良はまだ残念そうにしているけれど、渋々頷いた。
「僕、結局史那ちゃんと一緒にならないんだもん。歳は二つしか違わないのに学年三つ違うなんて理不尽だと思うんだ」
史那は早生まれだから、年齢的には二歳の年の差だ。でも学年はちょうど三つ違いなので、史那と蒼良は入れ違いになる。そんな蒼良をなだめるのは、いつも母か史那だ。
「でもそれは仕方ないでしょう? それなら蒼良は、飛び級出来る学校に進学する?」
母の声に、蒼良は頬を膨らませる。
「そこまで僕は賢くないもんっ」
その表情がかわいく見えたのか、史那の頬が緩む。
「じゃあさ、文化祭は一緒に回れないけど、受験が終わって落ち着いたら一緒に映画でも観に行かない?」
史那の提案に、それまでつむじを曲げていた蒼良の表情が一変した。
満面の笑みを浮かべており機嫌が直ったようだ。蒼良は俺と違って素直だからとても分かりやすい。
でも史那のこれは、俺にとって聞き捨てならない発言だ。
「ホント? うん、映画観に行こう。わー、何がいいかなっ。史那ちゃん、なにが観たい?」
「蒼良の好きなのでいいよ。まだ先の話だし。好きな奴、年明けてから探しといてね。
春休みに入ってからの方が時間にも余裕ができるから、その頃一緒に行こう。蒼良の進学祝いも兼ねて」
史那が現時点で進路をどうするのか聞きたいけど聞けない。
「んー……だよね。友達にも中等部の受験のことは言ってるし、本当は早く史那ちゃんと一緒に映画観たいけど、受験本番で体調崩したら笑い者になっちゃうよね」
蒼良も中学受験を希望している。
幼少の頃から俺を見て、少しでも将来役に立つ情報を仕入れている要領の良さは末っ子気質そのものだ。
小学校でもそれなりに優秀な成績で、全国テストでも毎回それなりに実績を残している。
来月の統一テストも受験すると言っていた。もしかしたら、史那も内緒で受験するかも知れない。
試験日は確か、中等部文化祭の一週間前だ。果たして受験勉強する暇はあるのだろうか。
俺はその日、目立たない格好で受験会場の近くで史那が受験会場に来るか見張っていた。
試験会場は、小学生、中学生、高校生と教室が別れており、蒼良に見張りを頼む訳にはいかない。
俺は蒼良にも内緒で会場近くの場所で受験生の出入りを見張っていた。
案の定、史那は現れた。いつも髪の毛はきちんと括っているのに、この日は髪の毛を下ろしていた。
顔を極力見えないように、ご丁寧に伊達メガネまでかけている。
きっと史那は自分の変装が完璧だと思っているだろうけど、それは甘い。
他の人の目は欺けても、俺の目は欺けない。
試験が終わるまでここにいると完全に俺まで怪しい人認定されてしまうので、ここは一旦移動しよう。
試験終了時刻は蒼良から聞いて確認済みだ。
俺は会場から離れると、時間潰しにゲームセンターへと向かった。
再び試験会場近くに戻ったのは、試験終了時刻の十分前だった。
史那のことだ、きっと知り合いに見つからないように早く出るか、それともみんなが試験会場から出た後にゆっくり出るかのどちらかだ。
きっと後者だろうと思うが、もしもの時のことも考えなければならない。
俺は会場から出て来る学生を注意深く観察した。
ある程度の人混みをやり過ごしたが、その中に史那の姿を確認することはできなかった。
もしかして、見落とした……?
俺は、念のために史那のスマホにメッセージを送った。
ただ一言、『今、どこにいる?』と。
なかなか既読がつかない。
もしかして、史那はスマホを自宅に置いているのか?
いや、そんなことはない。叔父さんや叔母さんがそんなことをさせる訳がない。
俺も史那も、高宮の人間だ。もしもの時を想定して、外出する際はスマホを必ず持って行くように言われている。
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