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史那編
ファーストキス ーside理玖ー 2
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その後、文香叔母さんから母に連絡があり、史那は熱が下がらず土日も寝込んでいたらしい。
きっと知恵熱だろうと俺は思ったが、原因が原因だけに俺の口からはなにも言えなかった。
そうやって俺のことで頭の中がいっぱいになればいい。
他の男のことなんて考える余裕のないくらい、俺のことで悩んでくれたら嬉しい限りだ。
受験シーズンまでに、史那の進路を知ることができれば……
翌週の金曜日にまた会えるのだ。
今は意識をそこに向けて、一週間を乗り切るんだ。
俺は史那に会えない一週間を淡々と過ごしていた。
午前中は補習授業を受けて、午後から生徒会室で文化祭と体育祭の執行部役員としての打ち合わせ、各クラスの実行委員との擦り合わせ、学校側との備品調達や先生方のスケジュール調整などやることは雑用ばかりだ。けれど、金曜日には打ち合わせを休むためにも文句を言っている暇はない。
そして迎えた金曜日。
補習授業が終わると、俺は雑用で捕まらないように教室を一番に飛び出した。
昇降口から校門まで駆け足で飛び出すと、運よくバス停前にバスがやって来た。
そこまでダッシュすると、ギリギリ乗車に間に合った。
平日金曜日の昼のバスは、結構ガラガラかと思いきや、夏休み期間中の小学生や親子連れで占拠されていた。
史那は多分、時間的に一本遅いバスに乗車するだろう。
座席にも余裕がなく、俺は自宅近くのバス停までずっと立っていた。
帰宅して速攻でシャワーを浴びると、母の用意してくれていた巻き寿司を片手に、史那の家に行く準備を進める。
母は今日、珍しく朝から外出していて不在だった。蒼良も昼前に友だちと一緒にプールへ行くと言っていた。
史那に会えると思っただけで、こんなに浮かれている俺がいる。
俺がどれだけこの日を心待ちにしているかなんて、史那は思ってもいないだろう。
今日の史那はどんな格好をしているのだろう。
俺があれだけ言ったから肌の露出は避けているだろうけど、先週の点滴の痕がどうなっているかが気懸かりだ。
もう痛みは引いているだろうけど、肌の色が白い分、鬱血痕は目立つだろう。
俺はラフな格好に着替え、自宅を後にした。
バスに乗り、史那の住むマンション近くのバス停で降車すると、外は相変わらずの灼熱地獄だ。
足早にマンションへと向かった。
玄関に迎え入れてくれたのは、意外にも史那本人だった。
聞けば今日は文香叔母さんと果穂も不在だと言う。
今日の史那は髪型がいつもと違って髪の毛がアップに纏められていた。
服装も、半袖のポロシャツの上にカーディガンを羽織り、デニムのミニスカートにレギンスと言う、肌の露出の少ない格好だった。
ダイニングに通されると、早速先週の遅れを取り戻すという名目で席に着いた。
まずは補習で出されている課題を片づけることからだ。
俺は史那の隣の椅子に腰を下ろした。史那が一瞬ぎょっとしたけれどそれには気づかない振りをする。
隣に座った方が、史那の分からない問題に対してすぐに対応できるからだ。
それに、隣に座っていれば、なにげないボディタッチもあるかも知れないと言う邪な考えもなくはない。
俺は健全な男子高校生なのだ。
史那はなにか物申したそうにしていたけれど、なにも言わないので俺も黙っている。
早速日本史のプリントに取り掛かった。
じっと見ているときっと史那の集中力が切れるだろうと、俺はスマホを取り出した。
イヤフォンを耳に着け、音楽を聞く振りをしながら史那の様子を窺っていた。
どこか分からない問題があったのか、史那が教科書を開いた。
暗記法とか伝授した方がいいだろうか、でもこれも興味がなければなかなか覚えるのにも一苦労だろう。
史那が自分から聞いてくるまで俺は黙って見守ることにした。
すると史那は、付箋を取り出してなにやら書き込みを始めた。
それが終わると、再び課題に戻る。
そしてまたなにか付箋に書き込み、それを張り付けるとまた課題に戻る、それを繰り返している。
一体なにをしているのだろう。
史那の勉強の方法に口を挟むつもりはないが、とても気になる。
そしてある程度区切りがついたと思われるところで、初めて史那が口を開いた。
「ここが分からないんだけど……」
遠慮がちに声を掛ける史那に、なんとも言えない感情が湧いた。
俺は家庭教師としてここにいるのに、どうしてそんなに気を遣うのか……
そんな風に声も掛けられない雰囲気を俺は出しているのか?そう思うとやるせない。
俺はできるだけ丁寧に、史那の質問に答えた。
少しでも史那の学力が向上するように叔父さんにも頼まれているのだ。ここで俺も実力を発揮しなければ家庭教師の意味がない。
お互いが集中して課題に取り組んでいて時間を気にする暇などなく、文香叔母さんと果穂の帰宅の音で、ようやく我に返った。時刻はいつの間にか十七時を回っていた。
「叔母さんたちも帰って来たし、今日はここまでにしよう」
俺の言葉に史那も頷いて、机の上のプリントをリュックの中に片づけ始めた。
教科書と夏休みの宿題を纏めて自分の部屋に運ぼうとするを史那を制した。
きっと知恵熱だろうと俺は思ったが、原因が原因だけに俺の口からはなにも言えなかった。
そうやって俺のことで頭の中がいっぱいになればいい。
他の男のことなんて考える余裕のないくらい、俺のことで悩んでくれたら嬉しい限りだ。
受験シーズンまでに、史那の進路を知ることができれば……
翌週の金曜日にまた会えるのだ。
今は意識をそこに向けて、一週間を乗り切るんだ。
俺は史那に会えない一週間を淡々と過ごしていた。
午前中は補習授業を受けて、午後から生徒会室で文化祭と体育祭の執行部役員としての打ち合わせ、各クラスの実行委員との擦り合わせ、学校側との備品調達や先生方のスケジュール調整などやることは雑用ばかりだ。けれど、金曜日には打ち合わせを休むためにも文句を言っている暇はない。
そして迎えた金曜日。
補習授業が終わると、俺は雑用で捕まらないように教室を一番に飛び出した。
昇降口から校門まで駆け足で飛び出すと、運よくバス停前にバスがやって来た。
そこまでダッシュすると、ギリギリ乗車に間に合った。
平日金曜日の昼のバスは、結構ガラガラかと思いきや、夏休み期間中の小学生や親子連れで占拠されていた。
史那は多分、時間的に一本遅いバスに乗車するだろう。
座席にも余裕がなく、俺は自宅近くのバス停までずっと立っていた。
帰宅して速攻でシャワーを浴びると、母の用意してくれていた巻き寿司を片手に、史那の家に行く準備を進める。
母は今日、珍しく朝から外出していて不在だった。蒼良も昼前に友だちと一緒にプールへ行くと言っていた。
史那に会えると思っただけで、こんなに浮かれている俺がいる。
俺がどれだけこの日を心待ちにしているかなんて、史那は思ってもいないだろう。
今日の史那はどんな格好をしているのだろう。
俺があれだけ言ったから肌の露出は避けているだろうけど、先週の点滴の痕がどうなっているかが気懸かりだ。
もう痛みは引いているだろうけど、肌の色が白い分、鬱血痕は目立つだろう。
俺はラフな格好に着替え、自宅を後にした。
バスに乗り、史那の住むマンション近くのバス停で降車すると、外は相変わらずの灼熱地獄だ。
足早にマンションへと向かった。
玄関に迎え入れてくれたのは、意外にも史那本人だった。
聞けば今日は文香叔母さんと果穂も不在だと言う。
今日の史那は髪型がいつもと違って髪の毛がアップに纏められていた。
服装も、半袖のポロシャツの上にカーディガンを羽織り、デニムのミニスカートにレギンスと言う、肌の露出の少ない格好だった。
ダイニングに通されると、早速先週の遅れを取り戻すという名目で席に着いた。
まずは補習で出されている課題を片づけることからだ。
俺は史那の隣の椅子に腰を下ろした。史那が一瞬ぎょっとしたけれどそれには気づかない振りをする。
隣に座った方が、史那の分からない問題に対してすぐに対応できるからだ。
それに、隣に座っていれば、なにげないボディタッチもあるかも知れないと言う邪な考えもなくはない。
俺は健全な男子高校生なのだ。
史那はなにか物申したそうにしていたけれど、なにも言わないので俺も黙っている。
早速日本史のプリントに取り掛かった。
じっと見ているときっと史那の集中力が切れるだろうと、俺はスマホを取り出した。
イヤフォンを耳に着け、音楽を聞く振りをしながら史那の様子を窺っていた。
どこか分からない問題があったのか、史那が教科書を開いた。
暗記法とか伝授した方がいいだろうか、でもこれも興味がなければなかなか覚えるのにも一苦労だろう。
史那が自分から聞いてくるまで俺は黙って見守ることにした。
すると史那は、付箋を取り出してなにやら書き込みを始めた。
それが終わると、再び課題に戻る。
そしてまたなにか付箋に書き込み、それを張り付けるとまた課題に戻る、それを繰り返している。
一体なにをしているのだろう。
史那の勉強の方法に口を挟むつもりはないが、とても気になる。
そしてある程度区切りがついたと思われるところで、初めて史那が口を開いた。
「ここが分からないんだけど……」
遠慮がちに声を掛ける史那に、なんとも言えない感情が湧いた。
俺は家庭教師としてここにいるのに、どうしてそんなに気を遣うのか……
そんな風に声も掛けられない雰囲気を俺は出しているのか?そう思うとやるせない。
俺はできるだけ丁寧に、史那の質問に答えた。
少しでも史那の学力が向上するように叔父さんにも頼まれているのだ。ここで俺も実力を発揮しなければ家庭教師の意味がない。
お互いが集中して課題に取り組んでいて時間を気にする暇などなく、文香叔母さんと果穂の帰宅の音で、ようやく我に返った。時刻はいつの間にか十七時を回っていた。
「叔母さんたちも帰って来たし、今日はここまでにしよう」
俺の言葉に史那も頷いて、机の上のプリントをリュックの中に片づけ始めた。
教科書と夏休みの宿題を纏めて自分の部屋に運ぼうとするを史那を制した。
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