上 下
47 / 87
史那編

初恋はベールの向こう側 ーside理玖ー 2

しおりを挟む

 あれはいつだっただろう。

 蒼良が緊急帝王切開で生まれて来たのは年の瀬も迫った十二月二十日の日中だった。
 それから半年以上経った夏のある日だった。

 その日は朝からとても陽射しが強く、水遊びでもやらなきゃやってられないくらいの暑さだった。
 汗はじっとしていても流れ落ち、子どもの身体はまだ小さいから汗腺も密集した状態だ。
 俺は基本的にいつも動き回っているタイプの子どもで、じっとしている事ことが苦手だった。
 だから汗っかきで夏場はよく汗疹あせもができていた。

 史那も動き回ることが好きなタイプだったみたいで、小さい頃は二人でよく高宮の実家の中を駆け回っていた。
 祖父母も俺一人を相手にするよりも、年の近い史那が一緒にいると自分たちの疲労度が格段に違うことを自覚したのか、母から俺の子守を頼まれる時は史那もワンセットとして預かるようになった。

 文香叔母さんも快く史那を高宮の家に連れてきてくれた。
 その逆もあり、高宮の祖父母の都合の悪い時は文香叔母さんが俺たちの世話をしてくれた。

 文香叔母さんは俺にとって第二の母的存在だ。
 きっと文香叔母さんも、俺のことは甥以上の存在として認識していると自負している。
 この日も朝から、史那がうちへ遊びに来て、日陰でビニールプールを出して水遊びを楽しんだ。
 水道水は地熱で熱くなっており、全然冷たくない。
 日陰にいても熱風が吹き、水遊びをしていても汗はかく。

 プールに入って水遊びをしながらリビングに入って涼を取り、また庭に出て水遊びをして再び室内に入ってと、繰り返して無駄に体力を消耗し昼食をとった後、昼からは二人揃って昼寝をするのが恒例だった。
 昼寝が終わると再び水遊びをして、夕方にビニールプールの中に溜めた水を庭先の植物に撒いて、水資源を無駄にすることなく有効活用させていた。

 史那は日焼けをすると、可哀想になるくらい肌がすぐに真っ赤になり炎症を起こすので、極力紫外線に当たらないように日陰で遊ぶことが多かった。
 だから文香叔母さんもうちの母も、史那が小さい頃は極力日焼けをさせないように気をつけていた。
 現在は本人も自覚しているのか季節を問わず、日焼け止めクリームを肌身離さず常備しているみたいだ。
 日焼けさえしなければ、特に肌トラブルはなさそうだ。

 不健康に見えるくらいに史那の肌が白いけれど、それは健康な子供の中にいるととても目立つ。
 そのせいで史那が必要以上に皆から注目を浴びるのは、なんだか嫌な気持ちになる。

 史那は決してアルピノのような遺伝子の突然変異があるわけではない。ただ単に紫外線に弱いだけだ。
 それでも、雅人叔父さんに似てとても整った顔立ちに天真爛漫でかわいい性格、プラス肌の白さも手伝って周りからかわいいともてはやされる。

 小さい頃は、そんなお人形さんみたいな史那がいつも傍にいてくれることが凄く嬉しかったし、戯言でも俺のお嫁さんになると言ってくれたことは忘れられない。
 あれはいつものように水遊びをした後、昼食をとり、一緒にお昼寝をしようと祖母が庭先に面した和室へ布団を敷いてくれ、そこで一緒にごろ寝をしていた時だった。

「理玖くん、だーいすき。あのね、大きくなったら、史那、理玖くんのお嫁さんになるの」

 唐突に史那が口にした。
 大好きだとはそれまでにもよく言ってくれていたけれど、お嫁さん発言は、この時だけだった。
 俺は、とても嬉しくて、この時は自分の気持ちを素直に口にすることが出来た。

「本当? 約束だよ? 僕も、史那ちゃんが大好きだよ」

 この言葉に嘘はない。
 純粋に、史那のことが好きだった。
 子供の頃に交わしたありふれた口約束。

 史那はこの時のことを覚えているだろうか。
 あの頃はお互いが幼すぎて、もう忘れてしまっただろうか。
 それとも、俺が史那に対して酷い態度を取ってしまっていたこの数年で、この記憶を抹消してしまっただろうか。

 この約束を交わしてすぐに、史那は満足したのか遊び疲れてすぐに寝落ちしてしまった。
 けれど俺は嬉しくて、眠る史那の手を繋いだまま、そんな史那の寝顔を見つめていた。

 この頃に、戻れるものなら戻りたい。
 この後、蒼良の存在が俺の中で兄貴風を吹かせて、史那や蒼良にも偉そうで横柄な態度を取ってしまったことを後悔しても遅いけれど、今ならまだ間に合うだろうか。

 あの頃のように、史那を大切に想って、大切に扱うことを。

 もし許されるのなら……
 史那を自分の物にできるのならば……

 
 小学校は、地元の公立小学校に入学した。
 小学校から勉強浸けになって頭でっかちな大人にならないようにと、小さいうちは色んな環境の子どもたちと触れ合い、交流を深めることをうちの両親は考えていた。
 中学校の進学について、両親は特に受験等勧めることもなかったけれど、どうせ三年後の高校受験の事を考えたら、しんどい思いを先にして後はのんびりできればいいと言う安直な考えで中学受験を考えた。

 小学六年に進級してからではきっと間に合わないと思った俺は、五年になった時から色々と資料を集め、進学先を吟味していた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。