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史那編

中学三年、二学期 3

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 文化祭の実行委員は、各クラス二名が催しの案内係をしたり、当日の縁の下の力持ち的な役割をする。
 当日もだけど、それまでの準備にもチェックの目を光らせたりと、とにかく忙しい。
 生徒会執行部がその中心となり、クラス役員がその補助に当たる。

 今回、クラス役員の一人が左腕を骨折してしまい、なぜか彼女の指名で私が彼女の代理をすることになってしまったのだ。
 彼女曰く、ここで内申点を稼いで高等部進級を少しでも有利に進めるといいよと変に気を回されたものの、私の心はすでに愛由美ちゃんのいる学校に傾いている。
 果たしてこんな実行委員くらいで内申点が稼げるかなんて、本気で思っているのだろうか……
 外部模試当日、私は受験のことを母に口止めして試験に挑んだ。

 試験会場は、小学生、中学生、高校生ともちろん教室が別れており、私も目立たない格好をして会場入りをした。
 いつも髪の毛はきちんと括っているので、この日は髪の毛を下ろしていた。
 顔を極力見えないように伊達メガネをかけた。
 マスクまで着けると明らかに怪しかったけれど、理玖と会う時だって髪の毛はいつも括っているから、もし仮に偶然会場で会ったとしても、視線さえ合わせなかったらきっとバレないだろう。

 受付で手続きをして試験会場へと入ると、半数近くの人が席について、持ち込んだテキストで最終的な見直しをしている。
 私も受験番号の書かれた席を探し着席すると、持ち込んでいたテキストを見直した。

 どのくらいのレベルの問題が出るんだろう、私は今の学校では落ちこぼれ組だけど、愛由美ちゃんがいる学校の合格ラインにいるのかな……
 試験開始時間が近づき、試験官が教室に入って来た。私たちは机の上から試験に不必要なものを片づけて、試験に挑んだ。

 無事に試験も終わり、ほっと一息吐く間もなく私は急いで教室を後にした。

 どこで知り合いに会うか分からない。一旦ここは、トイレかどこかである程度人混みがなくなるまで時間潰しをしよう。
 私は中学生の試験会場である教室から離れると、小学生の試験会場がある下の階に階段を使って下り、そのフロアにあるトイレへ駆け込んだ。

 トイレの個室に駆け込むと、中の鍵をかけてしばらく息をひそめていた。
 トイレの外では、小学生らしき子たちの声が聞こえる。
 ドアをノックする音が数回聞こえたものの、内側からノックして、在室をアピールした。
 ずっと籠りっきりだと怪しまれるだろうか。

 ……いや、緊張でお腹の調子がおかしくなって、試験が終わると同時にトイレに駆け込んだと言い訳すればいいか。
 とりあえず、トイレの洗面所から声が聞こえなくなるまでは、ここから出ずに様子を窺ってみよう。

 リュックの中からスマホを取り出した。
 試験会場内では電源を落としていたけれど、電源を入れてなにかメッセージを受信していないかを確認すると……

 バナー通知で理玖からのメッセージが届いていることに気づいた。
 理玖からの通知だけは、切らずにそのままにしていたのだ。
 バナーで表示されていたメッセージは、一言『今、どこにいる?』。時間もつい先程だ。

 今ここで画面を開けば既読をつけてしまう。もし急ぎの用件でメッセージを送ってくれていたのなら、連絡があった時に再び現在地を聞かれた時に私は上手く誤魔化す自信がない。

 なぜ、理玖はメッセージを? 理由が知りたい。でも……
 とりあえず、この試験会場を出てから場所を変えて一度落ち着こう。きっとそれからでも遅くない。
 買い物をしていたからスマホの電源を落としていたとでも言い訳すればいいだろうか。

 今日着ている上着は、リバーシブルのジャンパーだ。ここを出て、どこかのトイレに入って念のためこれも逆にして、伊達メガネも外し、髪の毛もいつものように括ればきっとバレないはずだ。
 まだここから動くには危険すぎる。
 私はとりあえず二十分トイレの中でじっと我慢し、完全に人の声が聞こえなくなったのを確認すると、試験会場を後にした。

 試験会場は駅前にあり、駅ビルの中に入ると、私は奥の目立たない場所にあるトイレへ駆け込んだ。
 上着をリバーシブルに着直して、髪の毛をいつも通り耳の下でツインテールにする。
 伊達メガネも外してリュックの中に仕舞い込み、変装を解きいつもの私に戻すと、トイレから出てビル内にある休憩室へと移動した。

 ようやくベンチに腰をかけ、スマホを取り出して理玖にメッセージを送信する。

『ごめん、買い物に出ていて気づかなかった。なにかあった?』

 私がいつも使っている猫の絵のスタンプもダメ押しで送ると、すぐに既読がついた。
 そして……突然私のスマホが震えた。

 着信音を切っているから、代わりにバイブ機能が作動しているのだ。待ち受けの液晶画面から、着信画面に切り替わる。
 画面に表示されていたのは、理玖の名前だった。

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