仮面夫婦のはずが、エリート専務に子どもごと溺愛されています

史那編

中学三年、二学期 ２

　修学旅行も無事終わり、翌月には中等部の文化祭だ。
　もし理玖が来るのなら、蒼良について一緒に行動する必要はない。
　それにきっと今回も遥佳伯母さんが一緒に来てくれることだろう。

　私は急遽、今回の文化祭の実行委員代役に選出されており、実際問題なかなか当日は忙しい。
　一緒に文化祭を回る余裕はないのだ。
　それを先に遥佳伯母さんへ伝えておくべきだろう。

　私は高宮の本家のリビングでお茶を用意してくれている遥佳伯母さんに向かって声を掛けた。

「伯母さん、実は今度の文化祭のことなんだけど」

　私の言葉に、遥佳伯母さんが手を止めた。
　理玖と蒼良も、黙って私の言葉に耳を傾けている。

「実は私のクラスの実行委員の子が怪我して入院しちゃって、私がその子の代理で実行委員を引き継ぐことになっちゃって……
　だから当日は一緒に回ることができないの」

　その言葉に反応したのは蒼良だった。

「えー、史那ちゃんマジで？　僕、一緒に見て回りたかったのに」

　蒼良の言葉に継いで遥佳伯母さんも反応する。

「え？　そうなの？　それは残念だわ。私も史那ちゃんと一緒に回りたかったわ。
　史那ちゃんの中等部最後の文化祭なのに、きっと文香さんや果穂ちゃんも寂しいでしょうね」

　遥佳伯母さんの言葉に、私は内心動揺を隠せない。そうだ、これが本当に最後なんだ……
　そんな様子を黙って理玖が見ていた。
　私もそれについてなにも言わないし、言うこともない。
　だから軽くお茶を濁す。

「うん。でも今回は滅多に出来ない貴重な体験をさせて貰うから……もし良かったら、私もこんなだからうちの母と回って貰えると助かる」

　私の言葉に、蒼良はまだ残念そうにしているけれど、渋々頷いた。

「僕、結局史那ちゃんと一緒にならないんだもん。歳は二つしか違わないのに学年三つ違うなんて理不尽だと思うんだ」

　私が早生まれだから、年齢的には二歳の年の差だけど、学年はちょうど三つ違いになるので、私たちは入れ違いになるのだ。
　そんな蒼良をなだめるのはいつも私か遥佳伯母さんだ。

「でもそれは仕方ないでしょう？　それなら蒼良は飛び級できる学校に進学する？」

　遥佳伯母さんの声に、蒼良は頬を膨らませる。

「そこまで僕は賢くないもんっ」

　その表情がかわいくて、私の頬が緩む。

「じゃあさ、文化祭は一緒に回れないけど、受験が終わって落ち着いたら一緒に映画でも観に行かない？」

　私の提案に、それまでつむじを曲げていた蒼良の表情が一変した。
　満面の笑みを浮かべており機嫌が直ったようだ。蒼良は理玖と違ってとても分かりやすい。

「ホント？　うん、映画観に行こう。わー、なにがいいかなっ。史那ちゃん、なにが観たい？」

「蒼良の好きなのでいいよ。まだ先の話だし。好きな奴、年明けてから探しといてね。
　春休みに入ってからの方が時間にも余裕ができるから、その頃一緒に行こう。蒼良の進学祝いも兼ねて」

　外部受験のことはまだ言えない。
　私の受験が終わって、蒼良も中等部の受験が終わってからの方がいいだろう。

「んー……、だよね。友達にも中等部の受験のことは言ってるし、本当は早く史那ちゃんと一緒に映画観たいけど、受験本番で体調崩したら笑い者になっちゃうよね」

　どうやら蒼良は、友達にも中等部の受験を話しているみたいだ。現在蒼良は公立の小学校に通っている。
　理玖もそうだった。
　遥佳伯母さんと尚人伯父さんは、小学校のうちは公立でみんなと自由な生活を楽しんで、中学校から私立に受験するのは、高校受験をしなくてもいいようにとの考えからだ。

　大学に関しては、自分のやりたいこと、学びたいことがあれば外部受験も構わないと言う。
　今理玖と私が在籍する学校は、それなりに偏差値も高く、外部からの受験は超難関だと言われている。だから大学進学の際、外部受験する場合はそれなりに難関だと言われる大学も案外進学率が高い。

　高校受験も、そこまで高望みをしなければ、そこそこの高校も合格圏内にある。
　愛由美ちゃんがいるお嬢様学校だって、大丈夫だろうけど……
　一度、自分の学力がどの位あるのか、外部の模試を受けてみようと思う。
　これは先日の三者面談の時に、有田先生にも提案されたことだ。
　夏休み前、自分の気持ちを両親に伝えた時、自分で受験申し込みは済ませていたけれど、毎年十一月に開催される全国統一テストを受けてみることにした。

　試験日はちょうど文化祭の前の週。
　文化祭の準備に追われて試験勉強は厳しいけれど、現時点での本当の自分の実力が分かるからと割り切ることにした。
　結果は受験後一週間から一か月以内に、受験した校舎の窓口で受験票を提示すれば貰えるらしい。
　きっと理玖はそんな全国模試なんて受験しなくても学力はかなり高いし、もし仮に受験するなら高校二年や三年になってからだろう。

　この外部模試も、できることなら知られたくない。もし知られたら、結果を聞かれてしまう。そうなれば……
　十一月は、なにかと大忙しだ。