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史那編
中学三年、ファーストキス 3
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母が皮を剥いでくれた梨は、新鮮で瑞々しく、味も甘くてしっかりとしていた。
口に頬張った梨を咀嚼し終わり飲み込むと、二つ目をどうしようか真剣に悩んだ。
私にしては珍しく、今日はなぜか本当に食欲がないのだ。
焼肉の香ばしい匂いを嗅げば、少しは食欲も戻るだろうか……
母には悪いと思いながらも梨はそのまま残して、一緒に持ってきて貰った薬と水に手を伸ばした。
薬を飲んだ後にまた食欲が湧けば食べたらいいだろう。
藤岡先生が用意してくれていた薬は錠剤だった。
粉薬は口の中で味が広がり飲みにくいと昔から伝えていたのを覚えていてくれたのが嬉しい。
藤岡先生は父の幼馴染だ。私が生まれてしばらくの間は母の実家の近くにある小児科がかかりつけだったのを、この家に越してきてからずっとなにかあれば藤岡医院でお世話になっている。
藤岡医院はメインが内科だけど、小児科も診てくれるので、親子共々甘えっぱなしだ。
今回のように、往診までお願いできるのも、本当にありがたいことだ。
祖父母の世代の個人病院は往診も主流だったらしいけれど、きっと今時そんなことをしてくれる病院なんて、地方都市の田舎や昔ながらのところくらいしかないだろう。
薬を飲み終えると、点滴で体内にきちんと水分補給ができているのだろう、尿意を覚えたので布団から起き上がった。
布団を剥ぐと、やはりスカート部分がよれて太腿を晒すみたいになっていた。
今日着ていたワンピースは、膝下丈の伸縮性のある生地のもので、シワにはなりにくい物だった。仮に廊下で理玖とバッタリ顔を合わせたとしてもまだ変な格好じゃないだけ幸いだった。
……でも、来週から夏休み期間中、毎週金曜日が家庭教師するって言ってたよな。
格好は、どうしたらいい?
今日は誰が来るか分からなかったから露出を控えたワンピースにしたけれど、いつもの私らしい格好とは言えない。
いつもの私は、家の中にいる時はTシャツに短パンなのだ。
さすがに相手が理玖だからといってそこまで砕けた格好はダメだろう。
かといって、制服のままでというのも、汗だくで補習から帰宅するのだから汗臭いのも嫌だし。
夏物の洋服、まともな奴ってなにかあったかな……
トイレから戻って自分の部屋に戻ると、私はクローゼットを開けた。
私が高校生になったら、父の会社関係のパーティーに私も同席しなければならないとかで、少しずつではあるけれど、それ用のドレスが用意されている。
私はまだ未成年だしパートナー同伴という訳にはいかず家族枠での参加になるけれど、最悪の場合理玖が同伴者として帯同してくれることになるらしい。
理玖も同じく今年からそのような場にデビューしたばかりだと聞いている。
取引先のお嬢さまたちにも色目を使われたりしているのかも知れないけれど、理玖とは学年が違うし私はまだ中学生、そんな話は耳に入ってこない。
でもきっと、理玖はそのような場所でも上手くやって行くに違いない。
パーティードレスを見て溜息を吐いていると、ドアをノックする音が聞こえ、理玖が入って来た。
「もう起きて大丈夫なのか?」
入口で理玖が私の方を見ながら尋ねる。
「あ、うん。今、トイレに立ったところなの。
身体が熱いし、倒れてからずっと眠ってたから全然眠くないし……寝汗も酷いから、着替えようかと思って……」
クローゼットを閉めて、ドレスを隠した。なんとか誤魔化せただろうか。
「……来週までに体調整えろよ。そんなに生っ白い肌してるから、暑さに弱いんだな」
理玖が私のことをまじまじと見つめている。
なんだか恥ずかしくて、今日来ていたカーディガンに手が伸びるのを、理玖が部屋に入って来て阻止した。
「……もう、俺以外にそんな白い肌を晒すな」
理玖はそう言うと、カーディガンを私の肩にかけて露出部分を隠そうとする。
その腕が私の肩に触れた。
「……不健康に見えてごめんね」
ヒョロヒョロと背丈だけ伸びて肌色も白いから、あまり丈夫に見えなかったのかも知れない。
確かにバス路線一区間だけのダッシュでこんなことになってしまったから反論できない。
「昔は一緒に外で水遊びとかしてたのに……いつの間にか変わってしまうんだな」
理玖がしみじみと呟く。理玖の両手はまだ私の肩に触れたままだ。
『理玖だって変わったよ』と、口に出して言いたいところをグッと我慢する。
口を挟んでも、理玖は相手にしてくれないだろうから。
そして……
いつの間にか理玖の顔が近づいて……
私の唇に、理玖の唇が触れた。
お互いなにが起こったのか理解できなくて、私はただ固まって理玖を見つめていた。
理玖は我に返ると私の肩に触れていた手を離し、飛び出すように部屋を後にすると、母に帰宅の意思を伝えて家を後にした。
残された私は、今起こった出来事を理解できずに部屋の中で立ち尽くしていた。
口に頬張った梨を咀嚼し終わり飲み込むと、二つ目をどうしようか真剣に悩んだ。
私にしては珍しく、今日はなぜか本当に食欲がないのだ。
焼肉の香ばしい匂いを嗅げば、少しは食欲も戻るだろうか……
母には悪いと思いながらも梨はそのまま残して、一緒に持ってきて貰った薬と水に手を伸ばした。
薬を飲んだ後にまた食欲が湧けば食べたらいいだろう。
藤岡先生が用意してくれていた薬は錠剤だった。
粉薬は口の中で味が広がり飲みにくいと昔から伝えていたのを覚えていてくれたのが嬉しい。
藤岡先生は父の幼馴染だ。私が生まれてしばらくの間は母の実家の近くにある小児科がかかりつけだったのを、この家に越してきてからずっとなにかあれば藤岡医院でお世話になっている。
藤岡医院はメインが内科だけど、小児科も診てくれるので、親子共々甘えっぱなしだ。
今回のように、往診までお願いできるのも、本当にありがたいことだ。
祖父母の世代の個人病院は往診も主流だったらしいけれど、きっと今時そんなことをしてくれる病院なんて、地方都市の田舎や昔ながらのところくらいしかないだろう。
薬を飲み終えると、点滴で体内にきちんと水分補給ができているのだろう、尿意を覚えたので布団から起き上がった。
布団を剥ぐと、やはりスカート部分がよれて太腿を晒すみたいになっていた。
今日着ていたワンピースは、膝下丈の伸縮性のある生地のもので、シワにはなりにくい物だった。仮に廊下で理玖とバッタリ顔を合わせたとしてもまだ変な格好じゃないだけ幸いだった。
……でも、来週から夏休み期間中、毎週金曜日が家庭教師するって言ってたよな。
格好は、どうしたらいい?
今日は誰が来るか分からなかったから露出を控えたワンピースにしたけれど、いつもの私らしい格好とは言えない。
いつもの私は、家の中にいる時はTシャツに短パンなのだ。
さすがに相手が理玖だからといってそこまで砕けた格好はダメだろう。
かといって、制服のままでというのも、汗だくで補習から帰宅するのだから汗臭いのも嫌だし。
夏物の洋服、まともな奴ってなにかあったかな……
トイレから戻って自分の部屋に戻ると、私はクローゼットを開けた。
私が高校生になったら、父の会社関係のパーティーに私も同席しなければならないとかで、少しずつではあるけれど、それ用のドレスが用意されている。
私はまだ未成年だしパートナー同伴という訳にはいかず家族枠での参加になるけれど、最悪の場合理玖が同伴者として帯同してくれることになるらしい。
理玖も同じく今年からそのような場にデビューしたばかりだと聞いている。
取引先のお嬢さまたちにも色目を使われたりしているのかも知れないけれど、理玖とは学年が違うし私はまだ中学生、そんな話は耳に入ってこない。
でもきっと、理玖はそのような場所でも上手くやって行くに違いない。
パーティードレスを見て溜息を吐いていると、ドアをノックする音が聞こえ、理玖が入って来た。
「もう起きて大丈夫なのか?」
入口で理玖が私の方を見ながら尋ねる。
「あ、うん。今、トイレに立ったところなの。
身体が熱いし、倒れてからずっと眠ってたから全然眠くないし……寝汗も酷いから、着替えようかと思って……」
クローゼットを閉めて、ドレスを隠した。なんとか誤魔化せただろうか。
「……来週までに体調整えろよ。そんなに生っ白い肌してるから、暑さに弱いんだな」
理玖が私のことをまじまじと見つめている。
なんだか恥ずかしくて、今日来ていたカーディガンに手が伸びるのを、理玖が部屋に入って来て阻止した。
「……もう、俺以外にそんな白い肌を晒すな」
理玖はそう言うと、カーディガンを私の肩にかけて露出部分を隠そうとする。
その腕が私の肩に触れた。
「……不健康に見えてごめんね」
ヒョロヒョロと背丈だけ伸びて肌色も白いから、あまり丈夫に見えなかったのかも知れない。
確かにバス路線一区間だけのダッシュでこんなことになってしまったから反論できない。
「昔は一緒に外で水遊びとかしてたのに……いつの間にか変わってしまうんだな」
理玖がしみじみと呟く。理玖の両手はまだ私の肩に触れたままだ。
『理玖だって変わったよ』と、口に出して言いたいところをグッと我慢する。
口を挟んでも、理玖は相手にしてくれないだろうから。
そして……
いつの間にか理玖の顔が近づいて……
私の唇に、理玖の唇が触れた。
お互いなにが起こったのか理解できなくて、私はただ固まって理玖を見つめていた。
理玖は我に返ると私の肩に触れていた手を離し、飛び出すように部屋を後にすると、母に帰宅の意思を伝えて家を後にした。
残された私は、今起こった出来事を理解できずに部屋の中で立ち尽くしていた。
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