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史那編
中学三年、ファーストキス 1
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でもどうして理玖が家庭教師を引き受ける気になったのか……
私の両親が理玖のご両親にお願いしたのは間違いなさそうだけど、まさか理玖がそれを引き受けるとは思ってもみなかった。
その前に、父が夏休みに家庭教師をつけると言ったあの時に、父は理玖に話をするつもりだったのか。
父のことだから、知り合いの娘さんで大学生とかに頼むものだと思っていただけに、私の驚きは一入だ。
多分体調も良くて元気だったら、理玖が引くレベルで大騒ぎしていただろう。
私の今のぼんやり状態で聞かされて、ある意味良かったのかも知れない。
理玖が部屋を出てから入れ替わりで母と果穂がやってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
少し舌足らずな喋り方の果穂は、部屋に入って私の顔を見ると、パタパタと駆け寄ってくる。
その後ろから、母が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「熱中症だったみたいよ、顔、真っ赤だったし。まだ熱が下がってないみたいだって理玖くんが言ってたわ。とりあえず目が覚めたから、熱計ってみて」
母から体温計を渡されて、腋の下に挟むと、反対側の腕で果穂の頭を撫でてやる。
「ありがとう、果穂。お姉ちゃん、お熱計ってみて、お熱あったらもうこのまま寝るから遊んであげられないけどごめんね」
「うん、分かった。早く元気になってね」
健気な果穂がかわいくて、頭を撫でていた手で果穂をギュッと抱き寄せた。
母はそんな私たちのやりとりを見守ってくれている。
体温計の電子アラームが鳴り、計測が終了したことを告げた。私は腋の下から体温計を取り出して、表示を確認する。
「三十七度三分……微熱だね」
体温計をケースに仕舞おうとした時、理玖がスポーツドリンクのペットボトルを片手に部屋の中に入ってきた。
「これなら飲めそうか? って叔母さんごめん、勝手に冷蔵庫漁って」
「いいのよ、そんなこと気にしなくて。
それよりごめんなさいね、理玖くんも忙しい中せっかく時間に都合つけて家庭教師にきてくれてたのに……」
「いや、体調崩してるのに勉強やらせる方が鬼だし」
母に向かってそう言ったかと思うと、私の方に向いて有無を言わせぬ口調でこう言い放った。
「来週から、金曜の午後は予定空けとけよ。みっちりしごいてやるから。これで二学期の成績が上がらなかったら、どうなるか分かってるだろうな……?」
理玖からどす黒いオーラを感じるのは、きっと私だけだろう。
果穂は理玖の足にまとわりついて抱っこをおねだりし、理玖もそれに応えて優しく果穂を抱き上げている。
それを内心とても羨ましく思う私がいる。でもそれを表情には決して出さない。
それに今は、身体が怠くてそれどころではない。
「史那、熱は高くないけどしんどいならお薬飲む? 藤岡先生から痛み止め出して貰ってるから」
母の言葉に素直に頷くと、母は薬と水を持ってくると言って席を外した。
果穂は母の後について行くと言い、理玖に抱っこをおろしてと言い、パタパタと母の後を追って部屋を出て行った。
なんとも賑やかだ。
果穂と母が出て行って二人きりになってしまい、静まり返ってしまった部屋でお互いがなにかを言いたいけれど、言葉にならず様子を窺っている。
「……家庭教師って、理玖のことだったんだね。私、全然知らなかった」
どうにも間が持たなくて、苦し紛れで思いついたことを口にした。
「一学期が終わる前辺りだったか、叔父さんから連絡があったんだ。叔父さんから直接の頼みじゃ、断れないし……」
理玖の言葉に、私は驚きを隠せなかった。
なぜ、父からの頼みは断れないの?
それよりも、父が直人伯父さんや遥佳伯母さんを介さずに、直接理玖に連絡を取ったこと自体に驚いた。
「それより、これ飲めるか? 叔母さんが薬持ってくるから、その後にするか?」
先程冷蔵庫の中から持ってきたスポーツドリンクのペットボトルを手渡された。
表面が少し結露しているけれど、触るとひんやりとして気持ちいい。
「うん、その方がゆっくり飲めそうだし、そうする。ねえ理玖、私のリュックのポケットに、タオル地のハンカチがあるはずなんだけど、取ってくれるかな?」
今日の通学で使ったリュックが、私の机の足元に置かれている。ちょうど、理玖が立っている場所の近くだ。
起き抜けに動いて立ちくらみを起こしそうなのは、理玖も承知している。
なぜか私の体調が悪い時、理玖は目敏くそれを見抜く才能がある。
これは私だけに限ったことではなく、蒼良に対しても同じだ。
きっと家族枠で観察しているから洞察力に長けるのだろう。
だからこそ、理玖は文句も言わずに私の言葉を聞いて、リュックの外側ポケットのファスナーを開けるとハンカチを取り出して手渡してくれる。
私の両親が理玖のご両親にお願いしたのは間違いなさそうだけど、まさか理玖がそれを引き受けるとは思ってもみなかった。
その前に、父が夏休みに家庭教師をつけると言ったあの時に、父は理玖に話をするつもりだったのか。
父のことだから、知り合いの娘さんで大学生とかに頼むものだと思っていただけに、私の驚きは一入だ。
多分体調も良くて元気だったら、理玖が引くレベルで大騒ぎしていただろう。
私の今のぼんやり状態で聞かされて、ある意味良かったのかも知れない。
理玖が部屋を出てから入れ替わりで母と果穂がやってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
少し舌足らずな喋り方の果穂は、部屋に入って私の顔を見ると、パタパタと駆け寄ってくる。
その後ろから、母が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「熱中症だったみたいよ、顔、真っ赤だったし。まだ熱が下がってないみたいだって理玖くんが言ってたわ。とりあえず目が覚めたから、熱計ってみて」
母から体温計を渡されて、腋の下に挟むと、反対側の腕で果穂の頭を撫でてやる。
「ありがとう、果穂。お姉ちゃん、お熱計ってみて、お熱あったらもうこのまま寝るから遊んであげられないけどごめんね」
「うん、分かった。早く元気になってね」
健気な果穂がかわいくて、頭を撫でていた手で果穂をギュッと抱き寄せた。
母はそんな私たちのやりとりを見守ってくれている。
体温計の電子アラームが鳴り、計測が終了したことを告げた。私は腋の下から体温計を取り出して、表示を確認する。
「三十七度三分……微熱だね」
体温計をケースに仕舞おうとした時、理玖がスポーツドリンクのペットボトルを片手に部屋の中に入ってきた。
「これなら飲めそうか? って叔母さんごめん、勝手に冷蔵庫漁って」
「いいのよ、そんなこと気にしなくて。
それよりごめんなさいね、理玖くんも忙しい中せっかく時間に都合つけて家庭教師にきてくれてたのに……」
「いや、体調崩してるのに勉強やらせる方が鬼だし」
母に向かってそう言ったかと思うと、私の方に向いて有無を言わせぬ口調でこう言い放った。
「来週から、金曜の午後は予定空けとけよ。みっちりしごいてやるから。これで二学期の成績が上がらなかったら、どうなるか分かってるだろうな……?」
理玖からどす黒いオーラを感じるのは、きっと私だけだろう。
果穂は理玖の足にまとわりついて抱っこをおねだりし、理玖もそれに応えて優しく果穂を抱き上げている。
それを内心とても羨ましく思う私がいる。でもそれを表情には決して出さない。
それに今は、身体が怠くてそれどころではない。
「史那、熱は高くないけどしんどいならお薬飲む? 藤岡先生から痛み止め出して貰ってるから」
母の言葉に素直に頷くと、母は薬と水を持ってくると言って席を外した。
果穂は母の後について行くと言い、理玖に抱っこをおろしてと言い、パタパタと母の後を追って部屋を出て行った。
なんとも賑やかだ。
果穂と母が出て行って二人きりになってしまい、静まり返ってしまった部屋でお互いがなにかを言いたいけれど、言葉にならず様子を窺っている。
「……家庭教師って、理玖のことだったんだね。私、全然知らなかった」
どうにも間が持たなくて、苦し紛れで思いついたことを口にした。
「一学期が終わる前辺りだったか、叔父さんから連絡があったんだ。叔父さんから直接の頼みじゃ、断れないし……」
理玖の言葉に、私は驚きを隠せなかった。
なぜ、父からの頼みは断れないの?
それよりも、父が直人伯父さんや遥佳伯母さんを介さずに、直接理玖に連絡を取ったこと自体に驚いた。
「それより、これ飲めるか? 叔母さんが薬持ってくるから、その後にするか?」
先程冷蔵庫の中から持ってきたスポーツドリンクのペットボトルを手渡された。
表面が少し結露しているけれど、触るとひんやりとして気持ちいい。
「うん、その方がゆっくり飲めそうだし、そうする。ねえ理玖、私のリュックのポケットに、タオル地のハンカチがあるはずなんだけど、取ってくれるかな?」
今日の通学で使ったリュックが、私の机の足元に置かれている。ちょうど、理玖が立っている場所の近くだ。
起き抜けに動いて立ちくらみを起こしそうなのは、理玖も承知している。
なぜか私の体調が悪い時、理玖は目敏くそれを見抜く才能がある。
これは私だけに限ったことではなく、蒼良に対しても同じだ。
きっと家族枠で観察しているから洞察力に長けるのだろう。
だからこそ、理玖は文句も言わずに私の言葉を聞いて、リュックの外側ポケットのファスナーを開けるとハンカチを取り出して手渡してくれる。
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