19 / 87
史那編
中学二年、卒業前日 1
しおりを挟む
「理玖くん、だーいすき。
あのね、大きくなったら、史那、理玖くんのお嫁さんになるの」
「本当? 約束だよ? 僕も、史那ちゃんが大好きだよ」
あの頃はただ純粋に、理玖のことが大好きだった。
幼い頃に交わしたそんなかわいい約束を、理玖は今でも覚えているだろうか……
* * *
明け方に、とても懐かしい夢を見た。
昨夜、本棚の隅に立て掛けていた幼少期のアルバムを久しぶりに見つけ、それをベッドで見ていたからだろう。
私のアルバムに収められた写真には、大抵いつも隣に理玖がいる。
私が三歳の夏、両親は結婚式を挙げた。
私の両親はちょっと特殊で、それまで二人は一緒に暮らしていなかった。
私にその頃の記憶が残っていないのは、余りにも幼なすぎたからだろう。
物心ついた頃には、既に普通の何ら変わらない家族として暮らしていたから。
特殊と言ったものの、今はごく普通の家族だ。
私が産まれた時の写真に父は写っていないけれど、一緒に暮らし始めてからは、いつだって一緒だし大切にしてくれている。
それに、私は父と顔がよく似ている。
私がこんなことを言うのも何だけど、結構美形なのだ。
父はいわゆるイケメンって奴で、母は今でも父の顔を見つめては顔を赤らめている。
そんな母のことが大好きで堪らない父は、家にいる時はいつも母の側にいる。
しかも、『片時も離れたくない』と、娘である私の前で堂々と惚気てくれる。
小さい頃はそれが当たり前だと思っていたけれど、どうやらそれを子供の前で見せつけているのはごく稀なことらしい。
でも、そんなラブラブな両親が私は大好きだし、幼馴染の愛由美ちゃんのお家もそうだと知った時は、ホッとした。
愛由美ちゃんは、私の母と愛由美ちゃんのお母さんが仲良しで、お互いが赤ちゃんの頃から一緒に育ってきたと言っても過言ではない。
愛由美ちゃんとは学年こそ違うけど、同い年だ。
私が一月生まれで、愛由美ちゃんは四月生まれ。時期がずれていたら、私達は同級生になる。
愛由美ちゃんのご両親も、私の両親に負けず劣らずラブラブだ。
だからこそ、学年が違ってもこんなに仲良しで居られるのだろう。
私達は、ずっと親友だ。
「史那ー、そろそろ起きなさい。遅刻しても知らないよ」
廊下から母が私を呼ぶ声が聞こえる。
時刻は七時十分を回ったところだ。あと十分遅かったら完全に遅刻してしまう。
「今行くーっ」
私は急いで制服に着替えると、昨夜のうちに準備を済ませていた鞄や他の荷物を持って部屋を出た。
私の部屋の前にパウダールームがある。
速攻で顔を洗い、色々と身支度を整えてリビングへと駆け込むと、ダイニングテーブルには既に朝食が用意されていた。
「早く食べなさい、そろそろ下にお迎え来るんでしょう?」
「うん、理玖はいつも時間ピッタリに来るから急がなきゃ」
同じ中学校に通っている従兄の理玖が、いつも送り迎えをしてくれているのだ。
でも、これも今週……今日が最後だ。
なぜなら明日は、中学校の卒業式。
学年が一つ上の理玖は、私より一足先に中学校を卒業する。
私達は大学までエスカレーター方式の私立の学校に通っているので、同じ学校になるけれど、高等部は中等部から校舎がかなり離れている。
大学は学部によってキャンパスの場所が違うので、きっと大学になると進む学部によって、離れ離れになってしまう。
理玖はめちゃくちゃカッコよくて、勉強も出来て、スポーツも万能だから、同級生だけでなく下級生にもモテるのだ。
これは高宮家の血筋だろう。
理玖のお父さんも、父に負けず劣らずかなりのイケメンさんだ。
対する理玖のお母さんは、おっとりとした良家の温室育ちのお嬢様がそのまま大人になった感じで、理玖の弟である蒼良がその血を色濃く受け継いでいる。
私には隠しているけれど、理玖はよく女の子から告白されている。
現場だって度々目撃するし、理玖に振られた女の子たちからは、いつも睨まれる有りさまだ。
でも、私たちは『従兄妹』の関係から抜け出せていない。
いつまで経っても私の一方的な片想いだ。
小さい頃は理玖だって、『史那ちゃん大好き』と言ってくれていたけれど、それが今では何も言ってくれない。
それどころか、私を他の女の子避けとしか扱っていないように見える。
下手すれば私は邪険に扱われることだってある。
従妹だから、私が一人だと危ないという理由で、お互いの両親から言われて朝は仕方なく一緒に学校へ行ってくれるけど、最近は会話すらない。
私が理玖のことを好きだと告白したら、理玖は一体どう思うだろう。
明日は卒業式だから、理玖は遥佳伯母さんと一緒に学校へ行く。
きちんと告白するチャンスは今日しかない。
もし理玖に振られたらと思うと、怖くて勇気が出ない。けれど、四月からのことを考えると、これが最後だ。
私は母が用意してくれていた朝食を食べ、ダッシュで家を飛び出した。
あのね、大きくなったら、史那、理玖くんのお嫁さんになるの」
「本当? 約束だよ? 僕も、史那ちゃんが大好きだよ」
あの頃はただ純粋に、理玖のことが大好きだった。
幼い頃に交わしたそんなかわいい約束を、理玖は今でも覚えているだろうか……
* * *
明け方に、とても懐かしい夢を見た。
昨夜、本棚の隅に立て掛けていた幼少期のアルバムを久しぶりに見つけ、それをベッドで見ていたからだろう。
私のアルバムに収められた写真には、大抵いつも隣に理玖がいる。
私が三歳の夏、両親は結婚式を挙げた。
私の両親はちょっと特殊で、それまで二人は一緒に暮らしていなかった。
私にその頃の記憶が残っていないのは、余りにも幼なすぎたからだろう。
物心ついた頃には、既に普通の何ら変わらない家族として暮らしていたから。
特殊と言ったものの、今はごく普通の家族だ。
私が産まれた時の写真に父は写っていないけれど、一緒に暮らし始めてからは、いつだって一緒だし大切にしてくれている。
それに、私は父と顔がよく似ている。
私がこんなことを言うのも何だけど、結構美形なのだ。
父はいわゆるイケメンって奴で、母は今でも父の顔を見つめては顔を赤らめている。
そんな母のことが大好きで堪らない父は、家にいる時はいつも母の側にいる。
しかも、『片時も離れたくない』と、娘である私の前で堂々と惚気てくれる。
小さい頃はそれが当たり前だと思っていたけれど、どうやらそれを子供の前で見せつけているのはごく稀なことらしい。
でも、そんなラブラブな両親が私は大好きだし、幼馴染の愛由美ちゃんのお家もそうだと知った時は、ホッとした。
愛由美ちゃんは、私の母と愛由美ちゃんのお母さんが仲良しで、お互いが赤ちゃんの頃から一緒に育ってきたと言っても過言ではない。
愛由美ちゃんとは学年こそ違うけど、同い年だ。
私が一月生まれで、愛由美ちゃんは四月生まれ。時期がずれていたら、私達は同級生になる。
愛由美ちゃんのご両親も、私の両親に負けず劣らずラブラブだ。
だからこそ、学年が違ってもこんなに仲良しで居られるのだろう。
私達は、ずっと親友だ。
「史那ー、そろそろ起きなさい。遅刻しても知らないよ」
廊下から母が私を呼ぶ声が聞こえる。
時刻は七時十分を回ったところだ。あと十分遅かったら完全に遅刻してしまう。
「今行くーっ」
私は急いで制服に着替えると、昨夜のうちに準備を済ませていた鞄や他の荷物を持って部屋を出た。
私の部屋の前にパウダールームがある。
速攻で顔を洗い、色々と身支度を整えてリビングへと駆け込むと、ダイニングテーブルには既に朝食が用意されていた。
「早く食べなさい、そろそろ下にお迎え来るんでしょう?」
「うん、理玖はいつも時間ピッタリに来るから急がなきゃ」
同じ中学校に通っている従兄の理玖が、いつも送り迎えをしてくれているのだ。
でも、これも今週……今日が最後だ。
なぜなら明日は、中学校の卒業式。
学年が一つ上の理玖は、私より一足先に中学校を卒業する。
私達は大学までエスカレーター方式の私立の学校に通っているので、同じ学校になるけれど、高等部は中等部から校舎がかなり離れている。
大学は学部によってキャンパスの場所が違うので、きっと大学になると進む学部によって、離れ離れになってしまう。
理玖はめちゃくちゃカッコよくて、勉強も出来て、スポーツも万能だから、同級生だけでなく下級生にもモテるのだ。
これは高宮家の血筋だろう。
理玖のお父さんも、父に負けず劣らずかなりのイケメンさんだ。
対する理玖のお母さんは、おっとりとした良家の温室育ちのお嬢様がそのまま大人になった感じで、理玖の弟である蒼良がその血を色濃く受け継いでいる。
私には隠しているけれど、理玖はよく女の子から告白されている。
現場だって度々目撃するし、理玖に振られた女の子たちからは、いつも睨まれる有りさまだ。
でも、私たちは『従兄妹』の関係から抜け出せていない。
いつまで経っても私の一方的な片想いだ。
小さい頃は理玖だって、『史那ちゃん大好き』と言ってくれていたけれど、それが今では何も言ってくれない。
それどころか、私を他の女の子避けとしか扱っていないように見える。
下手すれば私は邪険に扱われることだってある。
従妹だから、私が一人だと危ないという理由で、お互いの両親から言われて朝は仕方なく一緒に学校へ行ってくれるけど、最近は会話すらない。
私が理玖のことを好きだと告白したら、理玖は一体どう思うだろう。
明日は卒業式だから、理玖は遥佳伯母さんと一緒に学校へ行く。
きちんと告白するチャンスは今日しかない。
もし理玖に振られたらと思うと、怖くて勇気が出ない。けれど、四月からのことを考えると、これが最後だ。
私は母が用意してくれていた朝食を食べ、ダッシュで家を飛び出した。
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
あなたの子ではありません。
沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。
セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。
「子は要らない」
そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。
それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。
そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。
離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。
しかし翌日、離縁は成立された。
アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。
セドリックと過ごした、あの夜の子だった。
ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。
ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。
しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。
その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!
ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む
紫楼
ファンタジー
酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。
私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!
辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!
食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。
もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?
もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。
両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?
いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。
主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。
倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。
小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。
描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。
タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。
多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。
カクヨム様にも載せてます。
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
異世界でカフェを開くことになりました
ならん
ファンタジー
菜々美は平凡な高校生だったが、ある日突然異世界に転移してしまう。未知の世界で途方に暮れていた彼女を救ったのは、リュウという青年だった。リュウとその仲間たちの助けを借りながら、菜々美は異世界で新たな生活を始めることに決める。趣味のハーブティーを活かし、町に癒しを届けるカフェを開業することを目指す。
カフェの修繕作業は困難を極めたが、リュウやガイデンたちと協力し、少しずつ形になっていく。しかし、順調に思えた生活の中で、一人の常連客エドワードが姿を消すという事件が起きる。エドワードの家を訪れた菜々美とリュウは、彼の日記から古代の遺跡を発見したことを知る。エドワードの行方を追って森へ向かった二人は、怪物に襲われ負傷した彼を救出するが、その後町全体が地震のような揺れに見舞われる。
果たしてこの異世界で、菜々美は平穏なカフェ経営を続けられるのか。そして、エドワードの発見した古代の遺跡とは何なのか。新たな冒険と癒しの時間が交錯する物語が、今始まる。
更新は週1回の予定です。
本作品はAIで生成した文章に加筆修正を加えたものです。
【完結】浮気者と婚約破棄をして幼馴染と白い結婚をしたはずなのに溺愛してくる
ユユ
恋愛
私の婚約者と幼馴染の婚約者が浮気をしていた。
私も幼馴染も婚約破棄をして、醜聞付きの売れ残り状態に。
浮気された者同士の婚姻が決まり直ぐに夫婦に。
白い結婚という条件だったのに幼馴染が変わっていく。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】裸足のシンデレラは、御曹司を待っている
海月三五
恋愛
沖縄県北部、ヤンバルと呼ばれる地域にある高級貸し別荘『城間別邸』にやってきた柏木直哉。その人を見て別荘管理人の安里遥香の心はざわついた。
5年前に、蜜月の日々を過ごした事があるからだ。それなのに「はじめまして」と爽やかに微笑む直哉。そのことにショックを受ける遥香。私の事を弄んだ挙句、すっかり記憶から削除していたなんて、一発ぶん殴ってやりたいと思っていた。なぜなら、直哉の子供を出産し育てていたからだ。しかし、東京に戻った直哉が事故で記憶喪失になっていた事を知る。
直哉に子供の存在を告げたいと思う一方で知られたら親権争いで取られてしまうのではないかと言い出せずにいた所、幼馴染で年下だが頼りになる陽太に告白をされる。幸せな家族の形とは?悩む遥香。直哉への想いに気付き記憶を取り戻してもらいたいと思い出の場所をめぐる。そんなある日、道に飛び出した遥香を直哉が車で轢きそうになる。幸い事故にならなったが、ショックで直哉の記憶が戻る。想いを伝え合い、直哉と子供の対面を果たし、ぎこちないながらも家族の形を模索する。大好きな沖縄を離れて東京に行く事をためらうが前を向いて歩むと決心する。
テーマは家族の形
安里遥香 29歳 シングルマザー
柏木直哉 32歳 Kロジスティクス副社長
城間陽太 27歳 遥香の幼馴染 信用金庫勤務
表紙イラストは、自作です。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。