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side結衣
ハガキ
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また今年もこの季節がやって来た。
ポストから取り出してテーブルの上に置いているハガキの差出人の名前を見て、私は溜息をつく。
このハガキを見るたびに、私の心は重くなる。
もう、いい加減毎年集まらなくてもいいのに。
ハガキの差出人は中学時代の同級生で、クラス委員をしていた永木由美。
毎年、年明けてすぐに中学校の同窓会があるらしく、今回のハガキの内容もその案内だ。
由美は、現在の私の連絡先を知る、唯一の人間である。
そして、当時の事を知る、唯一の友人だ。
由美以外の同級生達は、携帯の番号やメールアドレス、SNS等、連絡先を知らない。
何故なら私は、当時の誰とも繋がりたくなくてSNSをやっておらず、外で連絡先を聞かれても、携帯を持っていないで通している。
これは現在の仕事関係でも非常に重宝しており、変な奴に絡まれる事もなく、穏やかな毎日を過ごしている。
仕事関係では、会社から支給されている携帯で用事は済むし、ビジネス以外で外部の人と繋がる必要を感じないし、それで何か支障が出ているかと言われたら、答えはノーだ。
便利だからと依存したくないのだ。
今時の人達とは話題も合わないけれど、だからと言ってそれが苦痛とも思わない。
人と極力関わりたくない。
裏を返せば、裏切られて辛い思いをしたくない。
私のこの殻に閉じこもった性格を理解してくれている由美は、何かと機会を作って私を外の世界に連れ出そうとしてくれるけど、あの時のトラウマが未だ忘れられなくて、私はいつも拒否をする。
ハガキが届いた日の夜、案の定由美から連絡が来た。
『ハガキ、届いた?
今回の同窓会は港北中学校でやるからね?
今年は卒業して十年の節目の年だから、全員集合。
欠席は許されないよ』
SNSのメッセージツールを使って、由美は私にプレッシャーを与えてくる。
全員集合って言われても、その日体調を崩したりしたらどうなんだと言いたい。
それに二十四歳、二十五歳とお年頃の女子に対して全員集合は酷な事。
仮に妊婦さんがいたらどうなんだとツッコミを入れたいけれど、私は誰とも連絡を取っていないし、今更誰かと繋がろうとも思えない。
特にアイツとは。
メッセージを見て、返事に困っていると、タイミングよく由美から無料通話アプリからの電話がかかってきた。
「……もしもし」
『もしもし、結衣? メッセージ読んだ?
てか、ハガキ届いた?』
私の返事に被せる様に畳み掛ける由美に辟易しながらも、スマホとハガキを持ってベッドに移動する。
「ハガキ、今日届いてた。メッセージも読んだ。
……ねえ、本当に全員参加じゃないとダメなの?」
テーブルの上に置いていたハガキを反対の手に持って、書いてある内容を見ながら話をする。
『うん、ハガキにもメッセージにも書いてある通り、今回は記念すべき卒業十周年だからね。
前回……、今年のお正月に全員周知してるの、結衣以外はね』
私以外って、毎年の同窓会にみんな毎回参加しているのだろうか。
私の疑問に、由美は気付いたのだろう。
言葉が続く。
『結衣以外はみんな誰かしら繋がりがあるから、不参加だったメンバーにも連絡が行ってるの。
そう言えば、坂本がずっと結衣の連絡先知りたがってたけど、今回も教えない方がいいんでしょう?』
不意に聞いた坂本の名前に、私の思考は固まった。
坂本が私の連絡先を知りたがっているなんて、そんなの嘘に決まってる。
今更坂本と繋がりなんて、私は欲しくない。
私が返事をしない事が、肯定である返事だと捉えた由美は、言葉を続ける。
『本人に直接聞け! って言っておいたけど、仮に聞かれたとしても教えそうにないよね、その調子だと……』
小声で坂本可哀想と呟く由美の声はスルーした。
坂本は私にトラウマを植え付けた張本人なのだから、連絡先を教えるなんて考えは毛頭ない。
その経緯を知っている由美が、何故今更坂本を庇う様な発言をするのだろう。
坂本もだけど、坂本と繋がりのある中学校の同級生にだって、仮に連絡先を聞かれたとしても教える事はないだろう。
返事をしない私に向かって由美は溜め息を吐く。
『まあ、とりあえず一月三日が同窓会だからね。
十三時に正門集合だよ。
必ず来てね』
そう言って通話は終わった。
由美に言われて私は渋々カレンダーに予定を書き込んだ。
今日は十二月二十日。
二週間後か……。
私はその日が来るのが嫌で堪らない。
あの時みたいに今回もインフルエンザに感染しないかな。
インフルエンザじゃなくても風邪で高熱でも、お腹をくだして動けなくなってもいい。
とにかくその日を回避する事が出来るなら、この際どんな病気でもいい。
何かしら感染しないかな。
案外そんな時に限って体調はすこぶるいいのだ。
無理矢理予定を組み込まれてからの毎日が憂鬱で、本日、とうとう同窓会当日を迎えた。
ポストから取り出してテーブルの上に置いているハガキの差出人の名前を見て、私は溜息をつく。
このハガキを見るたびに、私の心は重くなる。
もう、いい加減毎年集まらなくてもいいのに。
ハガキの差出人は中学時代の同級生で、クラス委員をしていた永木由美。
毎年、年明けてすぐに中学校の同窓会があるらしく、今回のハガキの内容もその案内だ。
由美は、現在の私の連絡先を知る、唯一の人間である。
そして、当時の事を知る、唯一の友人だ。
由美以外の同級生達は、携帯の番号やメールアドレス、SNS等、連絡先を知らない。
何故なら私は、当時の誰とも繋がりたくなくてSNSをやっておらず、外で連絡先を聞かれても、携帯を持っていないで通している。
これは現在の仕事関係でも非常に重宝しており、変な奴に絡まれる事もなく、穏やかな毎日を過ごしている。
仕事関係では、会社から支給されている携帯で用事は済むし、ビジネス以外で外部の人と繋がる必要を感じないし、それで何か支障が出ているかと言われたら、答えはノーだ。
便利だからと依存したくないのだ。
今時の人達とは話題も合わないけれど、だからと言ってそれが苦痛とも思わない。
人と極力関わりたくない。
裏を返せば、裏切られて辛い思いをしたくない。
私のこの殻に閉じこもった性格を理解してくれている由美は、何かと機会を作って私を外の世界に連れ出そうとしてくれるけど、あの時のトラウマが未だ忘れられなくて、私はいつも拒否をする。
ハガキが届いた日の夜、案の定由美から連絡が来た。
『ハガキ、届いた?
今回の同窓会は港北中学校でやるからね?
今年は卒業して十年の節目の年だから、全員集合。
欠席は許されないよ』
SNSのメッセージツールを使って、由美は私にプレッシャーを与えてくる。
全員集合って言われても、その日体調を崩したりしたらどうなんだと言いたい。
それに二十四歳、二十五歳とお年頃の女子に対して全員集合は酷な事。
仮に妊婦さんがいたらどうなんだとツッコミを入れたいけれど、私は誰とも連絡を取っていないし、今更誰かと繋がろうとも思えない。
特にアイツとは。
メッセージを見て、返事に困っていると、タイミングよく由美から無料通話アプリからの電話がかかってきた。
「……もしもし」
『もしもし、結衣? メッセージ読んだ?
てか、ハガキ届いた?』
私の返事に被せる様に畳み掛ける由美に辟易しながらも、スマホとハガキを持ってベッドに移動する。
「ハガキ、今日届いてた。メッセージも読んだ。
……ねえ、本当に全員参加じゃないとダメなの?」
テーブルの上に置いていたハガキを反対の手に持って、書いてある内容を見ながら話をする。
『うん、ハガキにもメッセージにも書いてある通り、今回は記念すべき卒業十周年だからね。
前回……、今年のお正月に全員周知してるの、結衣以外はね』
私以外って、毎年の同窓会にみんな毎回参加しているのだろうか。
私の疑問に、由美は気付いたのだろう。
言葉が続く。
『結衣以外はみんな誰かしら繋がりがあるから、不参加だったメンバーにも連絡が行ってるの。
そう言えば、坂本がずっと結衣の連絡先知りたがってたけど、今回も教えない方がいいんでしょう?』
不意に聞いた坂本の名前に、私の思考は固まった。
坂本が私の連絡先を知りたがっているなんて、そんなの嘘に決まってる。
今更坂本と繋がりなんて、私は欲しくない。
私が返事をしない事が、肯定である返事だと捉えた由美は、言葉を続ける。
『本人に直接聞け! って言っておいたけど、仮に聞かれたとしても教えそうにないよね、その調子だと……』
小声で坂本可哀想と呟く由美の声はスルーした。
坂本は私にトラウマを植え付けた張本人なのだから、連絡先を教えるなんて考えは毛頭ない。
その経緯を知っている由美が、何故今更坂本を庇う様な発言をするのだろう。
坂本もだけど、坂本と繋がりのある中学校の同級生にだって、仮に連絡先を聞かれたとしても教える事はないだろう。
返事をしない私に向かって由美は溜め息を吐く。
『まあ、とりあえず一月三日が同窓会だからね。
十三時に正門集合だよ。
必ず来てね』
そう言って通話は終わった。
由美に言われて私は渋々カレンダーに予定を書き込んだ。
今日は十二月二十日。
二週間後か……。
私はその日が来るのが嫌で堪らない。
あの時みたいに今回もインフルエンザに感染しないかな。
インフルエンザじゃなくても風邪で高熱でも、お腹をくだして動けなくなってもいい。
とにかくその日を回避する事が出来るなら、この際どんな病気でもいい。
何かしら感染しないかな。
案外そんな時に限って体調はすこぶるいいのだ。
無理矢理予定を組み込まれてからの毎日が憂鬱で、本日、とうとう同窓会当日を迎えた。
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