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三十八、
しおりを挟むその夜は、疲れ果てているのだから寝付くなど容易なはずだった。
長旅からの帰営。直後に知らされた沖田の病と、
沖田への 『託される』 誓いと。
土方への、『土方と沖田の間に入らない』 誓いとを、
胸奥に。
(・・長い一日だった)
心身ともに、だから、泥のように疲れ果てていた。
それなのに。
斎藤は、横の沖田を首を回して見やった。
寝息が聞こえてはこないが、起きているようにも思えず。いつかの如くまた熟睡しているのだろうか。互いにおやすみを言ってからすでに半刻は過ぎたはずだった。
沖田への想いを、はっきりと自覚してから彼の隣で寝るのは、おもえば今夜が初めてだった。
そのせいだと。斎藤は思う。
目が冴えて、身の奥から息苦しい。
明後日には大阪へ向かうよう要請が組に来ており、斎藤も下阪に同行する予定だ。沖田とはまた、しばらく離れて眠る日が来る。
それへ安堵している自分がいた。
「眠れないのか?」
(──え?)
突然聞こえてきた声に、斎藤は目を瞠った。
薄闇の中、沖田がややあってこちらへ横向いたのを見とめ。
「あんた・・寝てたんじゃ」
「ああ。寝てたよ」
何故か目が覚めたら、おまえが起きてた
沖田が言い足した。
「で、今、いつ時だ?」
「まだ子の刻だろう、床に入って半刻程だ」
「そっか」
外の月光が朧ろに差し込む薄暗がりに、斎藤は目を凝らす。
不意の襲撃に備え、互いに障子へ足を向ける並びで床を敷いているために、互いの顔は最も深い闇の中に在り。
このような中で何故、みじろぎひとつしなかった斎藤が起きていることを沖田が察知し得たのか、斎藤には謎だった。
「眠れないなら、ひとつ、寝物語でもしようか」
沖田があいかわらずそんな戯れた台詞を寄こした。
斎藤は呆れることすら放棄して、夜闇の向こうの輪郭を見返し。
「そう云うのは相手が違うだろう」
それでも真面目に返してしまう己に、少々嫌気をおぼえつつも、そんな沖田のたわいのない戯れ言を受け入れ始めていることに気づいた。
・・嫌いじゃない。
『おまえも可愛いには違いないよ』
最初の夜に言われた、あんな戯れ言さえも、今振り返れば胸内を柔く締めつける感触を与えてくる。
(どうかしてるな)
斎藤は、小さく溜息をついた。
「くだらんことを言ってないで、もう一度寝ろ」
斎藤は。そして寝返り、沖田に背を向けた。
「ひでえ言い草」
ふてくされた声が斎藤の背を追った。
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