二人静

幻夜

文字の大きさ
上 下
31 / 60

二十八、

しおりを挟む



「っ・・なぜ療養しないなどと・・」


口走った斎藤の瞳を見返し、
沖田が答える様子もみせず黙ったまま、まるで。

何かを諦めたように笑んだ。その眼が。

斎藤の、

「・・・とにかく医者へ」

胸裏に。警告のように響いた。


「・・医者へ。行こう、今すぐ」

この男に療養を諦めさせる理由、が何なのか

いや、


誰なのか、を。


気づくことに、斎藤は

瞬時に恐れた。


「沖田、」


促すように立ち上がった斎藤の背に、

障子越し西日が深く、差し込み。


眩しげに見上げ沖田が、唯、


困ったように。首を振った。


「医者は必要ない。それにおまえにうつしかねないほど悪くなったら、出て行く」

だから心配するなと。斎藤が求めてもいないそんな台詞を今一度繰り返して言う沖田に、斎藤は立ちあがったまま、立ちつくした。


そこにある何か、沖田の向こうを、透かすように・・睨みつけていた。


(もはや沖田は決めてしまっている)

この乱世の前線から離れ療養におちることを、選ばぬと。


「・・・それほど悪くなるまでは”普段どおり”生活する・・つもりか」


「そうだ」


―――何故。

声にならなかった。
ただ斎藤の唇が、音無く紡いだのを沖田の目は捉え。


「護る者がいる。一生援け護ると誓った」


まっすぐ斎藤を見返した沖田の眼に、斎藤は再び、あの光を見ていた。


その沖田の闇の眼に。

一瞬の強い光を放つものが常に、その命を燃やす覚悟であったのだと、
斎藤は、気がついて。


斎藤の胸奥に淀む哀しみが光へ向かい手を伸ばしたように。

「沖・・」

目を。逸らせくなった。


「俺が、」

光が揺れる。

「布団の中で療養している間に、・・例えば俺やおまえのような使い手が現れ近藤先生を、・・土方さんを、俺が傍にいなかったが為に失うかもしれぬと思うと、療養に踏み切る気には到底なれない」

―――世の混乱が治まるまでは、

「療養はできない。少なくてもあと数年は。病が俺を喰い尽くすのが先か、乱世の治まるが先か」


もし先に

零された言葉へ重なり闇に、遷り変わった眼が痛ましく穏やかに。
斎藤を呑みこんだ。



「もし先に、俺が剣を握れなくなった時は。
おまえに全てを託させてくれ」



(・・ッ)


「あんたはっ、やはり」

斎藤の手が無意識にこぶしを握りこんだ、

食い込んだ爪が悲鳴をあげ。


(やはりそうだった、)

あの夜の言葉はやはり空耳ではなく、真の言葉、


「だがそれではっ・・」

(沖田、)


いったい

あと何年生きられるんだ




―――握りこまれた斎藤の手を沖田が見やった。


「・・・おまえが嫌だと言うならばそれを尊重する。今まで伝えた事、見聞きした事は無かったことにしてくれればいい。・・まだ白紙に戻せる」

おきた、


斎藤の唇が僅かに揺れたのを、沖田は視線をずらし見た。

「俺はそんな事は、もう」

斎藤の続いた言葉に、

沖田は、斎藤の瞳を見返し。


斎藤の瞳は緩く。震えた。


もし斎藤の背に落ちた夕色が、影をつくってさえいなければ
沖田は、しずくに薄く覆われたその瞳の色に気づいただろう。

「俺はそんなことを、気にしてるんじゃない」
―――巻き込まれる覚悟など。とうに出来ている。

斎藤の、影になった表情が一瞬の曇りを消した。


「あんたが望むなら。喜んで、託されてやる」


斎藤は己の背をすり抜けて降り注ぐ夕光が、息を呑むようにして見返してきた沖田の眼を赤く照らすのを見つめていた。


「沖田・・・」

病が、あんたを喰い尽すのが先ならば。


「あと何年、・・生きられるんだ」


「・・・」


沖田が不意に立ち上がり斎藤は、はっと目線を上げた。
近寄ってきた沖田の、手が伸ばされ、


「三年、かな・・」

斎藤の肩に重く、その手が置かれた。

去り。

「・・っ」
すれ違いさま振り返った斎藤の先で、


沖田が開け放った障子の向こうに。

土方の姿が、在った。

    



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

まだ、言えない

怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL XXXXXXXXX あらすじ 高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。 “TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。 吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。 「まだ、言えない」気持ちが交差する。 “全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか” 注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m 注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)

【ドS勇者vsオレ】オレ様勇者に執着&溺愛されてるけど、ドSだから大変。

悠里
BL
第12回BL大賞にエントリーしています✨ 異世界に飛ばされた先は、勇者と魔王の決戦のど真ん中。ソラに気を取られている間に、勇者は、魔王に逃げられてしまう。 「魔王を倒すまで、オレの好きにさせろ」 ドS勇者のルカに執着されて、散々好き勝手にされるけど、「こっちだってお前を利用してるんだからなっ」と思う、強気なソラ。 執着されて、溺愛されて。最初は嫌々だったけど、常に一緒に居させられると、どうしても、ルカに惹かれていって…?? 表紙絵:西雲ササメさま(@nishigumo_ss) ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ※過激なシーンもあるので、R18です。 ※初の異世界設定をいいことに、自由に色々しています(^^)

処理中です...