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九、
しおりを挟む物事の関わり合いというのは、えてして狂っている。
何かのきっかけがもとに、それはまるで出口を見つけたかのように流れ込んでくるようになる。 こちらから働きかけるわけでもないというのに。
そう、ある日その出来事に関わったおかげで、望みもしないのに続きの事象がやってくるようになる。
まるでこちらに吸い寄せられてくるかのように、初めの出来事に関わる次の出来事が己の身に起こるようになる。
人はそれを運命と片付け、諦める。
いや、違う。
(運命なんか、あるものか)
斎藤は胸内、舌打ちした。
これは。人為的だ。
初めにきっかけを運んできたのは、あの男じゃないか。
彼のことだ。仕向けるなど容易。
少しずつ。
少しずつ。あの男は俺を引きずり込んでいる。
関わらせ。深みに誘い込み。
・・・もう遅いのだ。
関わりたくないと。金輪際、俺を巻き込むなと、
あの日きっかけを与えられてしまってから言ったところで、もうすでに手遅れだったのだ。
俺はもう。逃れられない。
「・・では出発は明後日ということですか」
今からでもいい。白紙に戻せたら、どんなにか。
「ああ。頼むぞ」
斎藤の東下が決まった日、沖田は斎藤を姉に会わせる理由の他にも、今伊東を斬るわけにはいかないからおまえに頼むんだ。と言い、斎藤に 一切を打ち明けてきた。
その時に、山南の死が伊東と関わっていた事を知らされた。
そして沖田は山南を実の兄のように慕っていたわけだから斎藤は沖田の、今伊東と一緒に居ては 伊東を襲いかねないから自分は行かない、という言い分も理解できた。
だが。と、斎藤は思うのだ。
本当に、そうだろうか。と。
沖田は元来、自身の感情を扱うことに非常に長けている。
土方が、まだ伊東を斬るなと言う以上、沖田が伊東に手をかけるに及ぶことは無いはずだ。
現に伊東に、なんら内に秘めた憎悪を気取られることもなく今に至っているではないか。
なにか別の理由があるように斎藤には思えてならない。
今も、
あのとき聞こえた言葉が、耳について離れない。
頼む、と。
託せるのはおまえしか、いないんだと。確かに彼はそう言った。
今も斎藤は、その意味が解せない。
当の沖田に聞いても、まるでそんな言葉など吐いたおぼえがないといった様子で微笑う。
(嘘だ。あんたは確かに言った)
幻のなかを彷徨いながら、聞いたその言葉は。異様にはっきりと、斎藤の記憶に刻印を残している。
コホッ、という音に。
斎藤はその音へと振り返った。
「・・・やはり替えてもらおう」
今までの思考が一瞬にして消え去り。
斎藤は前々から考えていた部屋替えの事を口にしていた。
「何を」
沖田は斎藤を見て返した。
「部屋だ。こんな埃っぽい部屋にいるから咳にくるんじゃないのか」
沖田は目を見開いていた。
土方の部屋から東下の日取りを聞いて帰ってきた斎藤は、畳へ座り込み何やら考え始めたかと思うと突如、 沖田の咳にそんな反応をしたのだ。
沖田には、そんな斎藤の気遣いが妙にくすぐったく感じる。
「おまえがそんなに気になるなら、まあ考えてみるが?」
そのどうでもよさそうな言い方に斎藤のほうは苛立ちながら、
「考える必要はない、部屋ならいくつも余っている。べつに幹部棟に俺たちの部屋がある必要はない、 今すぐ余っている部屋のどこかに移らせてもらおう」
と、言うなり立ち上がった。
「・・・」
ふっ、と沖田が微笑した。
斎藤は立ち上がったまま、沖田を見つめる。
「わかったよ」
沖田の、やはり気の無さそうな返事に、斎藤はそれでもほっと胸を撫で下ろした。
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