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お兄ちゃん 第1話

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お風呂を上がり、花ちゃんのお下がりの浴衣を着て、椿油で身だしなみを整える。脱衣所を出ると案の定河合さんが壁に寄りかかり、見張りをしてくださっていた。

「河合さん、ありがとうございました。もう女の人は全員出ましたよ。」

「いえいえ、よからぬ輩は追い払っておきましたよ。お姫様方。」

きゃー!河合さんてば、本当にキラキラ王子様だわ!物腰も柔らかいし、きっと相当なプレイボーイなんだろうな。花ちゃんもまた赤くなってるし。

「さてと、じゃあ僕も野郎たちと入るとしますか。」

「ふふ、河合さん、お休みなさい。」

「お休み~。」

河合さんは後ろを向き、手を振って戻っていった。

母屋を出ると、外は既に暗くなっていた。電灯も電気も無いから、星や月の明かりが良く見える。空は明るく見えるが、辺りはかなり暗い。

私は少しドキドキしながら花ちゃんと部屋に戻った。

まだ寝るには早い時間だろうが、部屋には何もなく特にすることもないので、とりあえず布団を引いて横になってみる。

疲れているし、すぐに寝られるかも……。早めに行灯も消してしまおうか。行灯を消してみると、思ったより部屋の中も暗く、驚いてしまった。



ゆっくりと布団に寝転んでみる。やはり、自宅のベッドとは寝心地が違い、少し硬く違和感を感じる。天井の木目を見ていると、だんだん模様が動いているように見え、人の顔に見えてくる。

少し怖くなって布団を思い切り被る。うぅ、なんだか、慣れない部屋に布団、しんと音も静かだし、恐怖心が湧き上がってきた。



疲れているのに、寝れそうにない……どうしよう。この歳になって怖くて一人で寝られないなんて、情けなすぎる……。

花ちゃんの部屋がどこか聞いておけばよかった。知らない人の部屋に行くわけにもいかないし……。イチかバチか、誰かの元を尋ねてみるか……。



私は枕を抱きしめ、部屋を出た。



私は、恐怖心からか小走りで母屋まで駆け、ある部屋の前で立ち止まる。

幸い、誰にも会わずにこの部屋まで来ることが出来た。室内には、人がいるようで、まだ明かりが灯っており、小さく話し声がする。そのとき、やっと少し、安心感が湧いてくる。

「すみません、桃子です。お取込み中でしょうか。」



「ん、桃子ちゃんか。どないした?入ってええで。」

桜谷さんのお部屋の障子を開けると、お風呂上りで浴衣を着た桜谷さんと藤堂さんがお酒を飲みながら将棋を打っていた。

「さ、桜谷さん……藤堂さん……」

「どないしたんや?桃子ちゃん、べそかいて。」

「どうした?何かされたか?」

私は二人を見て安心したのか、自分が情けなくなったのか、涙をぽろぽろ溢してしまう。

「真っ暗で……怖くて、寝れなくなっちゃて……」

「……」

二人は驚いたように顔を見合わせている。

「なんやぁ、ホンマかわええのぉ、桃子ちゃんは。」

「ふっ、慣れないところだ。不安もあったんだろう。俺たちがいる。安心していい。」

私は、泣きべそをかいて立ちすくんでいたが、藤堂さんは、私の手を引いてすぐ傍に座らせてくれる。桜谷さんは、大きな手で私の頭を撫でてくれた。

「ぐすっ、すみません、突然おしかけちゃって。」

「ええて、でも今日は疲れたやろ、俺らが傍におったるから、桃子ちゃんは横んなっててええで。」

桜谷さんは、近くに控えていた部下に指示をし、布団を川の字に並べてくれた。私は、素直に布団に横になる。

桜谷さんと藤堂さんが駒を指している音を聞いていると、だんだん瞼が重くなってきた。ふふ、カッコいいお兄ちゃんが突然二人できたみたい。

そう考えながら、横になっていると安心したのか、私はいつの間にか眠りについていた。
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