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1.プロローグ

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「ふぁ……」

 校門をくぐった俺は大きくあくびをした。というのも、今朝は寝坊してしまい弁当を作るのに時間がかかったためだ。

――それでも遅刻をしない俺、エライ。

 そんな風に自分を内心で慰めていると、背後で女子の黄色い歓声が沸き上がった。振り返らなくても分かる。高城秀一が登校してきたのだ。

「おはようございます、高城センパイ!」
「この間のストリートスナップ、かっこよかったです~!」
「読モの依頼が来てるってホントですかぁ?」

 甲高い声を無視して、俺は下駄箱に向かった。

 あれだけ騒がれていても、高城秀一の答えはどうせ一つしかない。

『応援してくれてありがとう。でも今は学業優先だから』

 そんな言葉しか返ってこないとクラスの女子が嘆いていたが、その好青年な態度がまた女子の心に火を点けるらしい。

 高城秀一といえば本校で知らない人間はいないほどのイケメンとして有名だ。インスタでは素人ながら万単位のフォロワーがいるらしく、芸能事務所からも声がかかっているとかなんとか。

――まあ、そんなこと俺には関係ないけど。

 小さい頃から地味・平凡・無害を地でいく俺、板谷誠二はつつがない学園生活を過ごすことをモットーに暮らしている。

 元々が父子家庭だった俺にとって、大切なのは仕事第一の父親のフォローに徹することで、自分自身がモテたいとか、そういうことは後回しだ。

 何より、思春期を迎えて理解したが、俺はどうも同性愛者、いわゆるゲイらしい。デカイおっぱいより、程よく鍛えられた男の身体に欲情すると気付いてからは、殊更、地味に生きるよう配慮してきた。

 父に迷惑をかけず、真っ当な職に就く。学園生活はそのための通過地点にす過ぎない。

 高城のような目立つ男とは無縁に、穏やかに日々を暮らせれば充分。

 板谷誠二の人生は、こうして平凡に築かれる……はずだった。

 しかし運命の歯車は、既に廻り始めていた。
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