上 下
41 / 59
第3章 国際首脳会議

港視察交渉

しおりを挟む
 アゼミア大帝国との交渉の翌日早朝。クリスタルとルーグは、今度はハルシャル王国の国王と第一王子の四人で自国の港を視察をしている。ハルシャル国王と王子は白く生地の薄い軽装をしているものの、気品を感じさせる衣装である。その少しだけ日焼けをしたような肌に、金の装飾が映える。今回は『国王とその側近としての視察』のため、クリスタルとルーグは普段の視察では着ない、正装で来ている。公式の視察と言う事もあり、周りは護衛に囲まれ遠目から国民が見に来ている。レイレード王国で一番大きな港を見て、ハルシャル国王が頷き感嘆する。

「これはまた大規模な港と倉庫ですな。我が国と肩を並べるくらいではないでしょうか?」

「いや、流石に海域の広さもあるから、そちらの国の港の方が大きいぞ。」

「それは嬉しい評価ですな。ですが、貴国の港は最新技術を使われておりますのは、我が国と大きく違う所ですな。さすがは技術大国です。」

 ハルシャル国王は素直に人を評価する。クリスタルがこの国王を気に入っている理由である。それは相手も同じらしく、互いに話が弾む。一方の王子はクリスタルの傍に控えているルーグに話しかける。

「側近殿。ここではどのような海産物が捕れるのですか? 我が国との違いに興味がありまして。」

「魚や貝、海藻がメインです。魚に関しては、貴国の方が種類は豊富でしょう。貝と海藻につきましては、我が国では養殖をメインにしております。」

「養殖、ですか。我が国とはその点が大きく違うのですね。我が国は海に囲まれた土地ですので、海産物は育てる必要が無い程に豊富ですから。きっと味や価格の違いもあるのでしょうね。」

「仰る通りです。やはり養殖より天然で取れる物の方が味が良いです。ですが、天然物は安定して大きな物が取れません。そのため、価格も高めになってしまう傾向がございます。」

「そうなのですか。我が国での野菜と同じ問題が起きているのですね。」

 こちらは互いの国の違いについて話が始まる。どちらの会話も弾み、視察も進む。馬車に乗り港を離れ、今度は造船所の視察をする。職人がせっせと作業を行っている。その中にいる職人を見て、ハルシャル国王がクリスタルに問う。

「この職人の方は、もしかして『セイレーン』の種族ではないですか?」

「そうだな。潜水できる種族であるセイレーンは、漁師や造船所といった水にまつわる仕事で重宝されている。そこまで多くのセイレーンの国民が居る訳ではないが、頼もしい種族だな。」

「それでも人数はいらっしゃるのですね。我が国ではセイレーンは『海に安寧をもたらすとされ、崇めるべき種族』です。ですが同時に『高位種族』であるために数が少ない。私も直接セイレーンを拝見するのは数回程度でございます。」

「『高位種族』は、繫殖期が特殊だ。故に個体数が少ない。致し方ないのはあるだろうな。」

「そうですな。こうしてレイレード王国という『死者の国』で、彼ららしく過ごせるのを見られただけで、海の民である我々は嬉しい限りです。」

 ハルシャル国王は、何処か寂し気な眼でそう言う。クリスタルはそれに対して言葉を紡ぐ。

「ここは『死者の国』。この国である程度暮らし亡くなれば、何処かの世界で転生する事が出来る。そして生前の行いとこの国での行い次第で、転生する種族を選ぶ事も出来る。ここのセイレーン達は、皆『またセイレーンとして生まれたい』そうだ。何時か、そちらの国に行く者もいるだろうな。」

「そうですな。それまで我々は気長に待ちましょう。我々と、セイレーン達の海を守りながら。」

 その言葉を聞き、クリスタルは以前上がって来た報告書を思い出す。

「そうか。そちらではセイレーンは海賊のせいで数が激減しているんだったな。」

「はい。禁地としているセイレーンの住処を、海賊や金儲けの漁師が荒すのです。兵士の見回りをセイレーン達に提案したのですが、セイレーン達はそれを断ってしまいました。」

 クリスタルは顎に手を当て考える。今は自国の国民であるセイレーン達が、何時か生まれ変わる場所を確保するのも自身の仕事であるからである。それに、恩を売っておいて損はない。

 『何か手立ては無いか』

 そう考え、ふと思いつく。

「なぁ、ハルシャル国王。ちょっと考えがある。」

「なんでしょうか?」

 セイレーン達を見ていたハルシャル国王は、隣にいるクリスタルへ向き直る。クリスタルは、長年の経験から提案する。

「セイレーン達には悪いかもしれないが、良い案がある。」

「と、言いますと?」

「セイレーンの住処の間近に、観光地を作ればいい。」

 ニヤリと笑うクリスタル。固まるハルシャル国王。後ろで同じく固まる王子。そして頭を抱えそうになっているルーグ。
 場の雰囲気が、一瞬にして固まる。クリスタル一人を残して。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...