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プロローグ
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高槻を初めて見たのは、俺がこの学校で迎える二度目の桜の季節が終わりを告げ、日差しの暖かさが増する頃。部室へ向かう道中にある体育館の前で、数人の上級生に囲まれている姿だった。
聞こえたのは、態度がでかいとか、生意気だとか、下級生のいびりによくありがちなセリフ。でも、囲まれているその下級生をちらりと見た時、これは目を付けられるな、と思ってしまった。
だって、囲んでいるやつらよりもひときわ高い背に、男でも目を惹かれてしまうようなきれいな顔立ち。それでいて、上級生からの強い言葉にも眉一つ動かさない不遜さ。黙って聞いているけど、『めんどくさい』という雰囲気がありありと伝わってくる。
もし、困っているようなら助けようかとも思ったけど、必要なさそう。そう思ってその時はただ横を通り過ぎた。
でも、一度では飽き足らず、その光景を週に二度も三度見るようになれば、嫌でも気になってくる。どうやらそれは、俺が所属するeスポーツ部の後輩、緒方 雄介も同じように思っていたらしい。
「瀬良先輩、体育館の前でよく一年生が上級生に囲まれて文句言われてるの、見たことありますか?」
「あぁ、バレー部だよな。背の高いイケメン」
「はい。あいつ、高槻って言うんですけど、同じクラスなんです。しょっちゅう囲まれてるから、気になっちゃって……」
「俺も気になってた。ここ来るのにどうしてもあそこ通るしなぁ」
eスポーツ部の部室は、バレー部が使っている体育館の奥にある旧校舎の視聴覚室だ。だから、どうしても体育館の前を通らないといけない。
「クラスで仲いいの?」
「いえ、話したことないです。イケメン外部生なんて、話しかけるのハードル高い」
俺たちの通う鳳沢学園は中高一貫の男子校で、高等部のほとんどの生徒が付属の中等部から上がってくる。そういうやつらは内部生、それとは別に高校からこの学校に入ったやつは外部生と呼ばれる。俺も緒方も内部生だ。
少数派の外部生は、あからさまにいじめられることはなくても、やはり少し距離を置かれたり、上級生から目をつけられたりしやすい。
「やっぱり外部生なのか。見覚えないなと思ってたんだよね」
「スポーツ推薦で入ってきたみたいですよ。だから余計に目つけられちゃってるんでしょうね」
「そうだな……」
結局、特に解決策も見つからず、緒方との話はそれだけで終わった。
でも翌日もその一年生、もとい高槻は、例にもれず上級生に囲まれていた。
ここ一カ月横を通り過ぎるときに聞こえた内容は、ほとんどが言いがかりで、もし高槻に非があるとしたら、態度くらいじゃないかと思っていた。
しかも、今日は完全に道を塞いでいて通れない。だから、つい声をかけてしまった。
「おい、邪魔なんだけど」
俺の声に振り向いた高槻は、俺を見て少し驚いた顔をした。上級生に囲まれている時はいつも無表情だったから、少し新鮮だ。
それにしても、黒く艶のある髪に、切れ長の目と高く通った鼻筋。本当に美形だ。笑ったら、どんな女の子でも虜にしてしまいそうなくらい。
その美形っぷりをこのままじっと観察したいところだけど、とりあえず、本来の目的を果たすのが先だ。俺は高槻を観察していた目線を上級生に移す。
「ダサいことしてる上に、道を塞ぐとかほんと迷惑でしかないんだけど」
「はぁ? なんだと……!」
あんまり深く考えずに声をかけてしまったけど、高槻よりは小さいとはいえ、この上級生たちも俺よりは確実にでかい。もし掴みかかってこられたら絶対に勝てない。ここにきてちょっとドキドキしてきた。
でも、それはいらない心配だったみたいだ。
「おい、やめとけ。そいつ瀬良だぞ……」
その一言で、それまでギラギラとしていたそいつらの戦意がすぐに消失したのがわかった。そうだった、俺、それなりに有名人なんだった。
俺の所属するeスポーツ部は、俺が高校に入学してから立ち上げた部活だけど、立ち上げてすぐの年に全国大会優勝を果たしている。その他にも俺は個人で参加した大会でも優勝経験があって、学校の広報とかによく名前と写真を載せてもらっていた。
だからこの上級生たちも俺の顔と名前を知っていたんだろう。でも、恐れられるようなことはしていないはずなんだけどな。
結局、そいつらはすぐに体育館の中へと入って行った。
「すいませんでした」
上級生がいなくなった後、高槻はそう言って軽く頭を下げ、すぐに体育館の中に入ろうとした。
だけど、なんとなく少し話してみたくなって、引き留めるように前に立つと、高槻は戸惑った顔をした。
「高槻だよね」
「えっ、なんで俺の名前……」
「うちの一年に聞いた。よくここで絡まれてるからな。気にしてたぞ」
緒方の名前は出さずそういったけど、高槻は少し驚いたような顔をした。誰かに気にされているとは思っていなかったんだろう。
「そうですか。俺は平気なので、気にするなと伝えてください。でも道は塞がないようにします」
「そうしてくれ。ただでさえお前らでっかいんだから、威圧感すごいんだよ。ってか身長何センチあんの」
「189センチくらいですね」
「俺より20センチ以上でかいのかよ……。まぁその顔とその背じゃ嫌でも目立つわな。でも、出る杭って言うのはどうしたって飛び出るんだからさ、どうせならもっと出てやりゃいいんだよ」
だって俺も“出る杭”だった。高校入学と同時にいきなり一人で部活の立ち上げなんて、先生はもちろん、上級生にもいい顔はされなかった。校内を歩くたびに、どこかしらから『あの人が…』って指をさされた。
だから、次はわざわざ派手に髪を染め、ピアスもたくさん開けてやった。
自由な校風がモットーの学校だから、そこそこ派手な見た目やつもいるけど、俺はその中でも群を抜いていると自分でも思う。どうせ指をさされるならことんやってやろうと思ったんだ。
俺の言葉に驚いたような顔をしている高槻がちょっと面白い。もっといろんな表情が見てみたい、そう思った。
「そうだ、今度こっちに遊びに来いよ。気晴らしくらいにはなるだろ」
そこでちょうど高槻は体育館の中から呼ばれ、俺はじゃあ、と手を上げて部室のある旧校舎へと向かった。
本当に遊びに来てくれたら、いいな。
聞こえたのは、態度がでかいとか、生意気だとか、下級生のいびりによくありがちなセリフ。でも、囲まれているその下級生をちらりと見た時、これは目を付けられるな、と思ってしまった。
だって、囲んでいるやつらよりもひときわ高い背に、男でも目を惹かれてしまうようなきれいな顔立ち。それでいて、上級生からの強い言葉にも眉一つ動かさない不遜さ。黙って聞いているけど、『めんどくさい』という雰囲気がありありと伝わってくる。
もし、困っているようなら助けようかとも思ったけど、必要なさそう。そう思ってその時はただ横を通り過ぎた。
でも、一度では飽き足らず、その光景を週に二度も三度見るようになれば、嫌でも気になってくる。どうやらそれは、俺が所属するeスポーツ部の後輩、緒方 雄介も同じように思っていたらしい。
「瀬良先輩、体育館の前でよく一年生が上級生に囲まれて文句言われてるの、見たことありますか?」
「あぁ、バレー部だよな。背の高いイケメン」
「はい。あいつ、高槻って言うんですけど、同じクラスなんです。しょっちゅう囲まれてるから、気になっちゃって……」
「俺も気になってた。ここ来るのにどうしてもあそこ通るしなぁ」
eスポーツ部の部室は、バレー部が使っている体育館の奥にある旧校舎の視聴覚室だ。だから、どうしても体育館の前を通らないといけない。
「クラスで仲いいの?」
「いえ、話したことないです。イケメン外部生なんて、話しかけるのハードル高い」
俺たちの通う鳳沢学園は中高一貫の男子校で、高等部のほとんどの生徒が付属の中等部から上がってくる。そういうやつらは内部生、それとは別に高校からこの学校に入ったやつは外部生と呼ばれる。俺も緒方も内部生だ。
少数派の外部生は、あからさまにいじめられることはなくても、やはり少し距離を置かれたり、上級生から目をつけられたりしやすい。
「やっぱり外部生なのか。見覚えないなと思ってたんだよね」
「スポーツ推薦で入ってきたみたいですよ。だから余計に目つけられちゃってるんでしょうね」
「そうだな……」
結局、特に解決策も見つからず、緒方との話はそれだけで終わった。
でも翌日もその一年生、もとい高槻は、例にもれず上級生に囲まれていた。
ここ一カ月横を通り過ぎるときに聞こえた内容は、ほとんどが言いがかりで、もし高槻に非があるとしたら、態度くらいじゃないかと思っていた。
しかも、今日は完全に道を塞いでいて通れない。だから、つい声をかけてしまった。
「おい、邪魔なんだけど」
俺の声に振り向いた高槻は、俺を見て少し驚いた顔をした。上級生に囲まれている時はいつも無表情だったから、少し新鮮だ。
それにしても、黒く艶のある髪に、切れ長の目と高く通った鼻筋。本当に美形だ。笑ったら、どんな女の子でも虜にしてしまいそうなくらい。
その美形っぷりをこのままじっと観察したいところだけど、とりあえず、本来の目的を果たすのが先だ。俺は高槻を観察していた目線を上級生に移す。
「ダサいことしてる上に、道を塞ぐとかほんと迷惑でしかないんだけど」
「はぁ? なんだと……!」
あんまり深く考えずに声をかけてしまったけど、高槻よりは小さいとはいえ、この上級生たちも俺よりは確実にでかい。もし掴みかかってこられたら絶対に勝てない。ここにきてちょっとドキドキしてきた。
でも、それはいらない心配だったみたいだ。
「おい、やめとけ。そいつ瀬良だぞ……」
その一言で、それまでギラギラとしていたそいつらの戦意がすぐに消失したのがわかった。そうだった、俺、それなりに有名人なんだった。
俺の所属するeスポーツ部は、俺が高校に入学してから立ち上げた部活だけど、立ち上げてすぐの年に全国大会優勝を果たしている。その他にも俺は個人で参加した大会でも優勝経験があって、学校の広報とかによく名前と写真を載せてもらっていた。
だからこの上級生たちも俺の顔と名前を知っていたんだろう。でも、恐れられるようなことはしていないはずなんだけどな。
結局、そいつらはすぐに体育館の中へと入って行った。
「すいませんでした」
上級生がいなくなった後、高槻はそう言って軽く頭を下げ、すぐに体育館の中に入ろうとした。
だけど、なんとなく少し話してみたくなって、引き留めるように前に立つと、高槻は戸惑った顔をした。
「高槻だよね」
「えっ、なんで俺の名前……」
「うちの一年に聞いた。よくここで絡まれてるからな。気にしてたぞ」
緒方の名前は出さずそういったけど、高槻は少し驚いたような顔をした。誰かに気にされているとは思っていなかったんだろう。
「そうですか。俺は平気なので、気にするなと伝えてください。でも道は塞がないようにします」
「そうしてくれ。ただでさえお前らでっかいんだから、威圧感すごいんだよ。ってか身長何センチあんの」
「189センチくらいですね」
「俺より20センチ以上でかいのかよ……。まぁその顔とその背じゃ嫌でも目立つわな。でも、出る杭って言うのはどうしたって飛び出るんだからさ、どうせならもっと出てやりゃいいんだよ」
だって俺も“出る杭”だった。高校入学と同時にいきなり一人で部活の立ち上げなんて、先生はもちろん、上級生にもいい顔はされなかった。校内を歩くたびに、どこかしらから『あの人が…』って指をさされた。
だから、次はわざわざ派手に髪を染め、ピアスもたくさん開けてやった。
自由な校風がモットーの学校だから、そこそこ派手な見た目やつもいるけど、俺はその中でも群を抜いていると自分でも思う。どうせ指をさされるならことんやってやろうと思ったんだ。
俺の言葉に驚いたような顔をしている高槻がちょっと面白い。もっといろんな表情が見てみたい、そう思った。
「そうだ、今度こっちに遊びに来いよ。気晴らしくらいにはなるだろ」
そこでちょうど高槻は体育館の中から呼ばれ、俺はじゃあ、と手を上げて部室のある旧校舎へと向かった。
本当に遊びに来てくれたら、いいな。
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