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Side Story3.敦也side ~ 終わりの日~

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 結局、視聴覚室の中だけの名前のない関係は、緒方が卒業するまで続いた。
 でも、それで終わりだろう。そう思っていたのに、なぜか俺が大学生になった今も続いている。変わったのは、場所が視聴覚室から緒方の一人暮らしの部屋になったことくらい。

 この春、俺は瀬良と緒方が通う大学に進学し、また同じeスポーツのサークルに入った。
 今日はそのサークルの新歓コンパがあり、その帰りにまた緒方の部屋に来ていた。

「あれ、毎年やってるってホント?」
 今日、新歓コンパに行く前、兄貴から『火月かつきさんがあんまりお酒飲まないように見ておいて』って連絡があった。
 一緒に暮らしてるんだから、『飲みすぎないように』って本人にいえばよくない? と思ったけど、新歓コンパに行ってからなんとなくその理由を察した。
 瀬良は、全然言うことを聞かない。
 俺が制止しても、緒方が制止しても、『大丈夫だって』なんて言いながらお酒を飲み続け、そのまま酔いつぶれて眠ってしまったのだ。
 結局、緒方が兄貴を呼び出して連れ帰られていったけど、なんでか緒方と俺が怒られる羽目になった。理不尽でしかない。

「そうそう、毎年恒例。瀬良先輩の“恋人自慢”だよ」

 緒方がいうには、瀬良は毎年新歓コンパでわざと酔いつぶれ、兄貴に迎えに来てもらうのが恒例行事らしい。圧倒的に目を引く容姿な上に、瀬良を溺愛する恋人の存在は確かに自慢したくなるのかもしれない。
 まぁ瀬良と兄貴が仲良くしているのはいいことだけど、巻き込まないでほしい。緒方もそう思ったのか、二人で同時にため息をつき、クスッと笑い合った。

 そのまま俺は緒方の眼鏡をはずし、唇へとキスをする。
 重ねるだけのキスから、舌を入れて歯をなぞると、少しだけ開いたその奥へとさらに入り込み、絡ませる。
 ところが、緒方はそれを拒むかのように俺の体を押し返して、唇を離した。
「あのさ、敦也も大学入ったし、そろそろこういうのやめようと思って」
「は?」
「いや、だってさ、高校と違って大学には女の子もいるし、僕とこんなことしてたら彼女作りにくいだろ?」
 俺は緒方の言葉が全く呑み込めず、返す言葉が出てこない。俺が驚いたような顔をして黙っていると、緒方はさらに言葉を重ねた。
「敦也は僕と違ってゲイじゃないし、わざわざ男の僕とこんなよくわからない関係を続ける必要ないだろ」

 緒方の言葉に、俺の中に今まで感じたような感情が沸き上がる。
 心臓は燃えるように熱いのに、頭の中はスッと冷えている。そんな、よくわからない状態。

「……どうして急にそんなこと言うの? もしかして、恋人でもできた?」

 きっと俺は怒っているんだろう。
 それを感じ取ったのか、緒方は少し怯えたような顔をした。

「ち、違う。そうじゃなくて……えっと」

 俺は口ごもる緒方をひょいっと持ち上げて、ベッド上に少しだけ乱暴に落とした。
 驚いて目を丸める緒方の両腕を掴んでベッドに押さえつけ、その唇を塞ぐ。
 もうこれ以上、俺を突き放すような言葉をこの口から聞きたくなかった。

「敦也! ちょっと待てって!」
 緒方の言葉を無視したままズボンを下着ごと取っ払い、枕元にあったローションをそのまま股間にたらすと、緒方はビクッと体を震わせた。
「な、なにして、やめ……っ!」
 俺は緒方の太ももを掴んで持ち上げ、取り出した俺の“もの”を強引に中へと挿れた。
 そのままゆっくりと奥まで入り込むと、緒方は少し苦しそうな声を上げ、息を荒げた。
「結構すんなり入ったけど、さっきお風呂入ったとき準備した? なのに、なんで急にやめるとか言い出したの?」
 俺の問いかけには答えずに、緒方はうっすらと涙の溜まる瞳で俺を睨みつける。その顔を見下ろしながら、緒方の足をさらに高く持ち上げ、より奥を無理やり暴く。
「やっ! あっあぁ…やめ、っ!」
 緒方は苦しそうな声を出すが、俺は少し腰を引いて、また強く奥へと打ち付けた。
 その衝撃で緒方は体を跳ねさせ、声を上げる。俺は沸き上がる怒りをぶつけるように、それを何度も繰り返した。

「あぅ、はっあっ…イっ‥‥あっーー!」
 達して肩で息をする緒方を裏返し、今度は後ろから中へ入り込む。
 達したばかりですぼまる緒方のそこは、うねるようにして俺をぎゅうっと締め付けた。
「あっ! イッたばっか、だからっ、だめっあぅう」
 シーツに縋りつく緒方の手首をつかみ、また律動を繰り返す。
「きっつ、締めすぎだよ」
 気を抜けば俺もイッてしまいそうで、何とか耐えながらグリグリと奥をかき回すと、緒方はガクガクと体中を震わせて、また精を吐き出した。
 でも、俺は動きを止めずに、緒方がイッてる最中もそのまま奥に腰を打ち付ける。
「もう、やめっ、あっ、なんでぇ、んあぁっ」
 緒方の涙声に、俺はふと初めて視聴覚室で緒方を抱いたときのことを思い出した。
「初めての時もこうやってひいひい言ってたよね。余裕ぶってたのに何回もイッて、立てなくなっちゃって。ちょっとやりすぎたかなと思って、あれ以降は結構大切に抱いてたつもりだったんだけど、もしかしてもの足りなかった?」
 俺は動きを緩め、苦しそうに喘ぐ緒方の背を撫でた。
「俺じゃ満足できなかった? 他に満足させてくれるやつを見つけた? だから、もう俺はいらないの?」
「ちがっ、う、そうじゃないっ」
 緒方の言葉に俺は奥歯をギリっと噛みしめ、止めることのできない感情が爆発したかのように声を荒げた。
「じゃあなんなんだよ! この関係はそっちが始めたことだろ?! 強引に巻き込んで、こんなにもはまらせておいて、いきなり手を離すのかよ! ふざけんな!!」
 俺の目からいつの間にかあふれ出していた涙が、緒方の背中にぽとりと落ちると、緒方は驚いたような顔を俺の方に向け、俺の頬に手をあてた。
「敦也……」

 さっきまで怒っていたはずなのに、今は心臓がちぎれてしまいそうなほど悲しくて仕方がない。

「イヤだよ……やめるなんて言わないで……」

 こんな風に縋りついて、緒方は呆れたかもしれない、余計に幻滅したかもしれない、やっぱりこんなめんどくさい奴いらないって言うかもしれない。
 そう思っても、あふれ出す涙を止めることができず、俺の頬に添えられた緒方の手をぎゅっと握った。緒方の手はじんわりと温かくて、その熱を感じてようやくわかった。

「好きだよ、緒方さん」

 そうだ、俺はもうずっとずっと、緒方のことが好きだったんだ。
 こんな風に突き放されそうになってから気が付くなんて、本当にかっこ悪い。
 でも、俺の隣にいてほしいのは、この人だ。この人だけなんだ。

「俺の隣にいてよ」

 勢いだけで始めたこの関係は、いつの間に当たり前のようになって、なんとなくこのままずっと続いていくんじゃないか、そう思っていた。
 だけど、緒方にとってはそうではなかったのかもしれない。
 そもそも、緒方には「俺でなくてはいけない理由」がもうない。
 だから、『もうやめる』なんて言い出したのかもしれない。
 でも、そんなの絶対にイヤだ。
 俺は、涙の溜まる目で縋るように緒方を見つめ、言葉を待っていると、緒方は俺から離れて、起き上がり、下を向いたままポツリと呟いた。

「ごめん、敦也」

 あぁやっぱり、緒方はこの関係に名前を付けることは望んではいなかった。
 俺は下を向いたままグッと拳に力を籠める。

 ところが、緒方の手が再び俺の頬に触れ、顔を上げると、目の前にあった緒方の色素の薄い瞳は、その中に映る俺の顔と一緒に涙で揺れていた。
 そのまま緒方は手を後ろへと伸ばし、俺を包み込んだ
「怖かったんだ……。いつか敦也は僕じゃない誰かを選ぶんじゃないかって……。それなら、先に僕から手を離せばいいって思って、それで……」

 少しの沈黙が流れる。
 でも、すぐに何かを決意したように俺の首に回された緒方の手にグッと力が入るのがわかった。

「僕も敦也が好きだよ。もうずっと前から、好きだったんだ」

 涙が混ざるその声に、俺は今まで感じたことのないような情動が沸き上がる。
 その勢いのまま、俺は緒方を強く抱きしめた。

 もう離れないように、もう逃げださないように。
 自分にはこんなにも重く、黒い感情があったのかと驚いてしまうほど、必死に緒方を腕の中に閉じ込めた。

 しばらくの間そのままでいると、緒方の体温を感じられるくらい少しだけ俺も落ち着きを取り戻してきて、緒方の背に回していた手で髪を撫でる。すると、それにこたえるように緒方は俺の肩に手を置き、少し体を離して唇を重ねた。
 重ねられた唇に少し欲を持たせ、緒方の下唇を食む。
 恥じらいを乗せて少し赤く染まっている頬に手を伸ばすと、緒方は甘えるようにその手に頬を摺り寄せた。

「さっきはひどくしてごめん。今度はとびっきり優しくするから、もう一回抱かせて」

 俺の言葉に緒方は少し驚いたような、戸惑ったような顔をした。
 これまでなんとなく流れで体を重ねていて、俺から緒方を欲しがるような言葉を口にしたことは一度もなかったかもしれない。
 でも、今は心からこの人が欲しいと思う。

 緒方はまだ戸惑ったままでいた瞳で、伺うように俺を見上げた
「……一回だけでいいの?」
 緒方の言葉に心臓を撃ち抜かれたかのような衝撃が走った。
 こんなかわいい人の手を離して、どうして他の人を好きになれるって言うんだろう。

 俺は緒方をベッドに倒し、その頬をそっと撫でる。
「じゃあいっぱい。緒方さんが立てなくなるまで」
 そう言って、俺は何か言いたげだった緒方の唇を塞いだ。


「……本当に立てない」
 翌朝、文字通り俺に抱きつぶされた緒方はぐったりとベッドに横たわっていた。
 今日は土曜日。
 大学も休みだし、バイトもないって言ってたから、一日ゆっくりできるはず。
「俺はまだできるよ? 」
 にっこりと笑って見せた俺に、緒方は眉毛をピクリと動かし、少し距離を取るようなそぶりを見せる。
「逃げられると余計に捕まえたくなるんだけど」
 俺はベッドに腰を掛け、逃げ道を塞ぐように緒方の顔の横に両腕を置く。そのまま、また髪を撫で、額にキスをした。
 少し怯える緒方の瞳に、俺の欲がゾクリと刺激される。でも、さすがにここで無理に抱くほど俺も節操無しではない。
 俺は緒方の耳元に顔を寄せ、わざと唇をかすらせながら囁いた。

「これからもいっぱいしようね、雄介さん」

 俺が体を起こすと、緒方は真っ赤な顔をしてわなわな唇を震わせていた。

 こうして俺たちの名前のない関係は終わった。

 新しい春の日。
 これから俺たちの名前を持った関係が始まる。
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