38 / 38
【最終話】明希の場合 24.
しおりを挟む
「だからなに、このジンベイザメ!!」
今、ここは俺の部屋。翔はベッドに寝転びながら本を読んでいて、俺はその足元でジンベイザメを抱えながら座っている。
このジンベイザメが届いたのは、修学旅行から帰ってきた翌日のこと。まだ停止中だった俺の頭がようやく戻り始めたころだった。
”あの行為”についても聞かなければならないが、まずはジンベイザメだと、俺は初めて自分から翔にメッセージを送った。
「俺のだってば」
昨夜、送ってきたメッセージでもそう言っていた。意味が分からないと返したら、こうしてわざわざ家まで説明をしに来てくれたってわけなんだが。同じセリフを返すだけなら、何ら意味はない。
「なんでおまえのジンベイザメが俺の家に届くんだよ」
「明希の家に届くように水族館から送ったからだね」
「だからなぜ?!」
「しばらく預かってほしいなと思って。また今度取りに来るからさ」
「……いつまで?」
「んー、高校卒業するまで」
「結構長いな?!」
意味ががわからなすぎる。いや、俺が欲しがってたから買ったんだろうなって本当はわかってるけど。そう言っても俺は受け取らないと思って、こういう手段に出たんだろうなって。でも、それならなぜ期限があるのか。まぁその理由がわかったのは卒業式のあとなんだけど。その話はいずれ、また。
なんとも察しの悪い俺がため息をついていると、おもむろに起き上がった翔が俺にスマホを向けてくる。何かと思ったら、カシャリと軽い音が鳴った。
「今、写真撮った?!」
「うん、ジンベイザメ抱えてる明希がかわいくて」
「そんなわけあるか! 消せ!!」
スマホを奪おうと翔に飛びかかったのだが、これが悪手だった。
伸ばした手は軽々とつかまれ、気が付けば抱え込まれたままベッドに寝転がされていた。なにこの早業。しかもなぜそのまま抱きしめる?!
「はーなーせ!」
「ちょっとだけ」
頭を撫でられ、回された腕には少しだけ力がこもる。口ではやめろと言いつつも、結局俺は体の力を抜いた。本当に嫌なら引きはがしてベッドから落とせばいいし、やろうと思えばできる。でも、それをしないのは、こうされているのが嫌じゃないからだ。それどころか、近くで感じる翔の香りとぬくもりに心臓は跳ねて、喜んでいる。
――これはもう、”友情”とは言えないよな……。
さすがに鈍い俺でも自分の気持ちに気づくしかない。
それから、翔の想いにも。
だって、いつもの優しさも、あの時助けてくれたことも、キスも、”ただの友人”にするにはどう考えても度を越しているから。
でも、やっぱり孝太郎のことが頭によぎる。それもあって俺はその可能性になかなかたどり着けなかったし、今も素直になれずにいるんだけど。
これについては正直、話してくれない翔が悪いんじゃないのか? と思う。いや、俺も聞くタイミングを逃し続けているから同罪か。
だから今日こそはちゃんとしようと、俺はポンポンと翔の背を叩いた。
「翔、放せ」
俺の声が真剣だったからだろう。翔はすぐに俺から手を放し、体を起こした。
その横に俺も並んで座る。正面に向き合うのはちょっと照れくさくて、斜めを向いたまま。横目で見えた翔の耳には俺の渡したイヤーカフが付いてる。俺の腕にはもらったブレスレット。この部屋に日の光は入らないけど、同じ色の青がきらりと光って、背を押してくれる。
「修学旅行で聞けなかった話、今聞かせてくれ」
「うん……、そうだね。このままなあなあにしたままは、やっぱりだめだよね」
「ダメだな」
二人でちょっと苦笑いをする。多分、あいまいにしたままでも俺たちは一緒にいられると思う。でも、ちゃんと区切りをつけて次に進みたいから。
「明希」
翔に初めて名前で呼ばれたときはびっくりしたな。いきなり距離を詰めてくるイケメン怖って思ったっけ。でも、今ではそれも耳になじんだ。ちょっとくすぐったく感じるのは、気持ちの変化のせいだろうか。いや、ずっとそうだったかも。俺の名前を呼んでくれる翔の声が、本当はずっと嬉しかったんだ。
「俺は、明希が好きだよ」
ストレートな言葉に涙がこみ上げてくる。でも不思議と気持ちは穏やかだ。今なら、何でも聞けるし、何でも言える気がする。
「孝太郎のことは?」
「三星くんのことは俺の中で『恋』になりきらなかった。俺には、明希がいたから」
俺がいなければ、もしかしたら結果は違ったかもしれない。でもそれは、想像しても仕方がないことだ。だって俺はここにいて、翔と一緒にいると決めたのだから。
「明希は? 俺のこと、どう思ってる?」
なんでちょっと不安げなんだよ。思わずくすっと笑ってしまった。
そこは自信を持ってほしい。
だって、いつもめちゃくちゃ優しくて、つらい時に助けてくれて、ずっと側にいてくれる。そんなやつ、好きにならない方がおかしいだろ?
「俺も、翔が好きだよ」
俺はあふれてくる涙をぬぐって、思いっきり翔の胸に飛び込んだ。
こうして、イケメンで、頭もよくて、運動もできて、すっごく優しい。
そんな俺の友人は。
晴れて俺の恋人になった。
~END~
*****あとがき******
これで本編は完結です!最後までお読みいただき、本当にありがとうございましたm(__)m
いかがだったでしょうか? ご満足いただけていたら嬉しいです(^^)
思ってたのと違った―とか、物足りない! とかでもいいので一言感想をいただけると、すごく喜びます。また次の励みになります!よろしくお願いいたしますm(__)m
今、ここは俺の部屋。翔はベッドに寝転びながら本を読んでいて、俺はその足元でジンベイザメを抱えながら座っている。
このジンベイザメが届いたのは、修学旅行から帰ってきた翌日のこと。まだ停止中だった俺の頭がようやく戻り始めたころだった。
”あの行為”についても聞かなければならないが、まずはジンベイザメだと、俺は初めて自分から翔にメッセージを送った。
「俺のだってば」
昨夜、送ってきたメッセージでもそう言っていた。意味が分からないと返したら、こうしてわざわざ家まで説明をしに来てくれたってわけなんだが。同じセリフを返すだけなら、何ら意味はない。
「なんでおまえのジンベイザメが俺の家に届くんだよ」
「明希の家に届くように水族館から送ったからだね」
「だからなぜ?!」
「しばらく預かってほしいなと思って。また今度取りに来るからさ」
「……いつまで?」
「んー、高校卒業するまで」
「結構長いな?!」
意味ががわからなすぎる。いや、俺が欲しがってたから買ったんだろうなって本当はわかってるけど。そう言っても俺は受け取らないと思って、こういう手段に出たんだろうなって。でも、それならなぜ期限があるのか。まぁその理由がわかったのは卒業式のあとなんだけど。その話はいずれ、また。
なんとも察しの悪い俺がため息をついていると、おもむろに起き上がった翔が俺にスマホを向けてくる。何かと思ったら、カシャリと軽い音が鳴った。
「今、写真撮った?!」
「うん、ジンベイザメ抱えてる明希がかわいくて」
「そんなわけあるか! 消せ!!」
スマホを奪おうと翔に飛びかかったのだが、これが悪手だった。
伸ばした手は軽々とつかまれ、気が付けば抱え込まれたままベッドに寝転がされていた。なにこの早業。しかもなぜそのまま抱きしめる?!
「はーなーせ!」
「ちょっとだけ」
頭を撫でられ、回された腕には少しだけ力がこもる。口ではやめろと言いつつも、結局俺は体の力を抜いた。本当に嫌なら引きはがしてベッドから落とせばいいし、やろうと思えばできる。でも、それをしないのは、こうされているのが嫌じゃないからだ。それどころか、近くで感じる翔の香りとぬくもりに心臓は跳ねて、喜んでいる。
――これはもう、”友情”とは言えないよな……。
さすがに鈍い俺でも自分の気持ちに気づくしかない。
それから、翔の想いにも。
だって、いつもの優しさも、あの時助けてくれたことも、キスも、”ただの友人”にするにはどう考えても度を越しているから。
でも、やっぱり孝太郎のことが頭によぎる。それもあって俺はその可能性になかなかたどり着けなかったし、今も素直になれずにいるんだけど。
これについては正直、話してくれない翔が悪いんじゃないのか? と思う。いや、俺も聞くタイミングを逃し続けているから同罪か。
だから今日こそはちゃんとしようと、俺はポンポンと翔の背を叩いた。
「翔、放せ」
俺の声が真剣だったからだろう。翔はすぐに俺から手を放し、体を起こした。
その横に俺も並んで座る。正面に向き合うのはちょっと照れくさくて、斜めを向いたまま。横目で見えた翔の耳には俺の渡したイヤーカフが付いてる。俺の腕にはもらったブレスレット。この部屋に日の光は入らないけど、同じ色の青がきらりと光って、背を押してくれる。
「修学旅行で聞けなかった話、今聞かせてくれ」
「うん……、そうだね。このままなあなあにしたままは、やっぱりだめだよね」
「ダメだな」
二人でちょっと苦笑いをする。多分、あいまいにしたままでも俺たちは一緒にいられると思う。でも、ちゃんと区切りをつけて次に進みたいから。
「明希」
翔に初めて名前で呼ばれたときはびっくりしたな。いきなり距離を詰めてくるイケメン怖って思ったっけ。でも、今ではそれも耳になじんだ。ちょっとくすぐったく感じるのは、気持ちの変化のせいだろうか。いや、ずっとそうだったかも。俺の名前を呼んでくれる翔の声が、本当はずっと嬉しかったんだ。
「俺は、明希が好きだよ」
ストレートな言葉に涙がこみ上げてくる。でも不思議と気持ちは穏やかだ。今なら、何でも聞けるし、何でも言える気がする。
「孝太郎のことは?」
「三星くんのことは俺の中で『恋』になりきらなかった。俺には、明希がいたから」
俺がいなければ、もしかしたら結果は違ったかもしれない。でもそれは、想像しても仕方がないことだ。だって俺はここにいて、翔と一緒にいると決めたのだから。
「明希は? 俺のこと、どう思ってる?」
なんでちょっと不安げなんだよ。思わずくすっと笑ってしまった。
そこは自信を持ってほしい。
だって、いつもめちゃくちゃ優しくて、つらい時に助けてくれて、ずっと側にいてくれる。そんなやつ、好きにならない方がおかしいだろ?
「俺も、翔が好きだよ」
俺はあふれてくる涙をぬぐって、思いっきり翔の胸に飛び込んだ。
こうして、イケメンで、頭もよくて、運動もできて、すっごく優しい。
そんな俺の友人は。
晴れて俺の恋人になった。
~END~
*****あとがき******
これで本編は完結です!最後までお読みいただき、本当にありがとうございましたm(__)m
いかがだったでしょうか? ご満足いただけていたら嬉しいです(^^)
思ってたのと違った―とか、物足りない! とかでもいいので一言感想をいただけると、すごく喜びます。また次の励みになります!よろしくお願いいたしますm(__)m
42
お気に入りに追加
49
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
【幼馴染DK】至って、普通。
りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
まぁやさん、こんばんは!
感想ありがとうございます💖お気遣いまでいただいて、思わず泣いてしまいそうになりました😭😭
ゆっくりと、でも着実に変化していく3人の関係を今後も見守っていただけると嬉しいです☺️☺️
ちなみに次は翔目線の予定です!
申し訳ないことに書くのがめちゃくちゃ遅いため、更新頻度は非常にゆっくりペースにはなってしまうのですが、必ず完結させますので、ぜひ、最後までお付き合いよろしくお願いします✨