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54話 昔話(レオンハルト)
しおりを挟む俺はレオンハルト・アイスバーグ、この国の第2王子として生まれた。
俺は母の出自が低いので、第2王子という立場でありながら生まれて直ぐに王位継承権から外された。
別に俺は王位なんて望んでいないからそれは大した問題ではない。
幼い頃は母の体調が思わしくなかったこともあって、俺は母の実家で育てられた。それは俺が王子として論じられていた結果なのだが、今となっては下町で育った事を誇りに思う。
上流階級の世界だけでなく、民が暮らす世界も知る事ができたんだ。それが俺の中では大きな根幹となっている。
論じられているとはいえ、一応第2王子だ。命を狙われる事も少なくない。俺を不憫に思った祖父は、俺を剣士として育ててくれた。強い先生も雇ってくれて、俺を強くしてくれた。
その先生の息子が今俺に付いてくれているライルなのだが、俺より5歳年上のライルは剣士の父から剣の腕を受継いだだけでなく、何故か隠密にするべく育てられたようで、時に隠密として活躍してくれる優秀な部下だ。
そんな俺も9歳の時に王宮に呼び戻され、王族としての教育を受けることになった。
今俺がやっている外交に適任だと思われたらしい。
何も役に立たないと思われるよりましなので喜んでこの役を引き受けたんだが、城に帰って一番に思ったのは、俺は王妃から嫌われている。
まぁ、王位継承権から外すよう言ったのは王妃らしいし、自分の息子の王位継承権を脅かす存在を嫌悪するのもわかる。
俺は何を言われても王位に興味は無いので気にはならない。けど、我慢ならないのが、俺が砕けた言葉遣いをする度に、何か失態をする度に、母の身分が低いから仕方ない等と母を侮辱することだった。
俺は自分の事で何か言われるのは全然構わないが、俺を産んでくれ、肩身の狭い中でも俺を守ってくれていた母の事を悪く言われるのは我慢ならない。
だから社交界では良い王子でいるよう心掛けた。俺が隙を見せれば母が悪く言われる。それだけは避けたかったんだ。
城に戻ってからも、俺はたまに祖父の元に行っていた。それは剣の先生の元へ行くという口実もつけてなんだが、城から抜け出せる時間は俺が自分に戻れる唯一の時間だった。
そして俺が12歳の時、街の図書館で変わった少女に出会った。
少女は10歳にもならない年恰好なのに、大人が読むような難しい書籍を読んでいた。
本当に読んでいるのか気になってしばらく観察していたけど、しっかりと目を通して、時には考え、時には微笑みながら読み進めていく姿に、俺は見とれてしまっていた。
しばらくして俺の落とす影に気が付いて顔を上げた少女は、とても可愛い容姿をしていた。金色の柔らかそうな髪に大きなアメジスト色の瞳は、不思議そうに俺の姿を映していた。
「何か? 」
「君、その本が読めるの? 」
突然聞かれて、焦ってしょうもない質問をしてしまったけど、少女はしばらく俺を眺めた後、ふわりと微笑んだ。
「ええ、読めるわ 」
「本、好きなのか? 」
「大好きよ、あなた名前は? 私はエリシア」
突然名前を聞かれて焦った俺は、剣の先生が呼んでた愛称を答えた。
「俺? ・・・ハルト 」
「ハルト? いい名前ね 」
俺の名前を聞いて、エリシアは懐かしそうな表情を一瞬見せたように見えたけど、一瞬だったので気の所為かもしれない。
俺とエリシアはそれから何度か図書館で会って(と言うか俺が会いに行った)仲良くなった。
「エリシアはどんな本が好きなんだ? いつも色んなものを見てる気がするけど 」
「私はとりあえず何でも読んでみたいの、知識として読むのは好きよ、でも本当に私が読みたいものってこの世界にはないのよね・・・ 」
「この世界? 」
「あ、いえ、世界を探しても見つけられない気がして・・・ 」
たまにエリシアは不思議なことを言う。
自分が読みたいものがこの世にないのに、どんなものを読みたいか知っている。
「ふーん・・・なら自分で書いてみればいいんじゃないか? 」
そんな事を言った。
それからしばらく、俺の警護が固くなってしまったため、あの図書館には行けなくなってしまったんだけど、あの娘と話してる時に衝撃を受けた言葉がいくつかあった。
『 何故女性に活躍の場がないのかしら 』
『 男のハルトに言っても仕方ないけど、女性が男性の下に見られるのはおかしいわ、女性も男性も、身分の上下も関係なく、人はみんな平等に権利を与えられるべきよ 』
『 身分をかさに着てる人は嫌い、自分は誰のおかげで裕福な暮らしができていると思っているの? 領地の人々のおかげなのよ、それを忘れたら貴族はただの間抜けなピエロね 』
等、本当に少女の口から出ているのか不思議に思うくらい衝撃的な意見が沢山出てきた。
俺は母の事があるから素直にエリシアの言葉が受け入れられた。
確かに、何故女性が前に出る事を許されないんだ?
何故身分で苦しめられる人が居るんだ?
俺の中でエリシアの言葉が大きくなって、俺が女性の立場改善のために何か出来ることは無いか? そんな事を思うようになっていた。
そして、俺も年頃になって縁談の話が持ち上がった時、エリシアが頭に浮かんだ。
賢くてものをはっきり言うけど、間違ったことは言わない。変に大人びているのに、正直で素直で、時折見せる屈託のない笑顔は今でも覚えている。結婚するならエリシアが良い。だけど彼女は子爵令嬢だ。
俺は王位を継がないけど、やはり身分で嫌な思いをさせることになるだろう。
母のような思いをさせるのは嫌だ。そう思った俺は策を練ることにした。
彼女を誰からも認めさせればいい。
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