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42話 新しい試み

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戻ってきてから三日、まだレオンハルト様からの連絡はない。
その代わり、クリスティーナ様からまたうちに来ると連絡が入った。

「正直、クリスティーナ嬢がうちに来た時はただならない雰囲気で、エリシアと会わせて大丈夫かと心配したけど、大丈夫そう? 」

お兄様にクリスティーナ様が来ることを伝えると、心配されてしまった。
確かに、私が帰ってくるのを待ち構えるくらい怒ってたんだから、お兄様にもその雰囲気は伝わってたのだろう。

「大丈夫よ、クリスティーナ様とは少し意見の食い違いがあったけど、仲直りしたのよ 」

大丈夫だと微笑んでみせると、お兄様は嘆息して私を見つめる。

「そっか、なら良かった、嫌でも侯爵家からの訪問を拒否するなんて出来ないからね、もちろん、エリシアが嫌だと言うなら、私は打つ手を持ってはいるけどね 」

お兄様は口角を上げて微笑む。
その笑顔の裏にあるものを見るのは怖い気がするけれど、確かにお兄様なら何か手は持っていそうね。

「お兄様、ありがとう、もしも困った事があったら助けてね 」

「もちろんだよ 」

 お兄様の笑顔を見ると安心する。
これからの事も良く分からないのだけど、お兄様が着いていてくれるなら安心よね?



「エリシア様、度々お邪魔して申し訳ないわ 」

「とんでもない、ようこそおいで下さいました 」

クリスティーナ様が到着すると、すぐに私の部屋に案内する。
今日のクリスティーナ様は馬車から降りた時から私の書いた小説を胸に抱えてにこにこと可愛らしい笑顔を浮かべている。ご機嫌良さそうね。

「早速なのだけど 」

席に着くと身を乗り出して話し出すクリスティーナ様、とても生き生きとした表情だ。

「このお話、とても面白かったわ 」

そう言って紙の束をテーブルに置く。
それは3日前にクリスティーナ様が持って帰った私が書いた小説。

「お気に召していただいて良かったわ、人に見せるのは初めてなのでとてもドキドキしてたのよ 」

素直な感想に、私も嬉しくなる。

「これ、誰にも見せたことがないの? 」

「ええ、私が書いたものなんて恥ずかしくて 」

「もったいない! 」

突然クリスティーナ様が立ち上がって私に詰寄る。何がもったいないというの?

「え? 何が 」

「こんなに面白い、素敵なお話を埋もれさせておくなんて勿体ないわ 」

「そんなに褒めてもらえるなんて、とても嬉しいわ 」

お世辞でも、褒めてもらえると嬉しいものね、こんなに絶賛してくれるとは思わなかったけど。

「ねぇ、このお話書籍化しましょう! 」

「・・・・・・は? 書籍化? 無理よ!」

クリスティーナ様は何を言っているのだろう。

「何が無理なの? こんなお話、この世界には無いもの、絶対女性の間で話題になるわ、もっとお話あるんでしょ? 」

「あるけど・・・どうやって? 」

「それは任せて! うちの会社で書籍を発行してるところがあるから、そこで作らせるわ 」

クリスティーナ様は自信満々に胸を張る。

「この世界の人にこんなお話、受け入れてもらえるかしら 」

「大丈夫よ、どこの世界も女性が好きなのは甘い恋物語よ、だけどこの世界には女性が書いたものが少なすぎて男性目線ばかりなのよね、絶対ウケるわよ! 」

そう言って、ニヤリと笑って何かを荷物から取り出す。

「挿絵は私が担当するわ 」

そう言って差し出したのは素敵なイラストだった。

「え?! めちゃくちゃ綺麗!可愛い! 」

「こんなのも書いてみたんだけど 」

そう言って見せてくれたもう1枚。

「きゃーっ! カッコイイ! これ、私の書いた小説の登場人物? 」

「そうよ、私のイメージで描いたから違ってたらごめんなさい 」

「イメージそのままよ! これ、クリスティーナ様が描いたの? 」

「ええ、私前世は漫画家志望のイラストレーターだったの 」

そう言われて納得がいった。
クリスティーナ様が描いてくれた絵は漫画なのよ、この世界にあるはずもないものなので、私も見るのは久しぶりだけど、やっぱり漫画の絵が好きだわ。

「挿絵って・・・小説に挿絵を入れるのも珍しいけど、この漫画チックな絵を入れて受け入れてもらえるかしら 」

「私も不安だったんだけど、侍女達に見せたら反響良かったのよ、絶対女性ウケするわ 」

どこの世界も感性は同じなのかしら、確かに、クリスティーナ様の絵はとても上手で魅力的なので想像が膨らむわね。

「どう? やってみない? 」

そう言われて、少し考える。
どうせレオンハルト様の思惑で表に出ないと行けなくなる。そうすると必然的に目立つのだから他に手を出しても変わらないか・・・私の書いたものが本当に読んでもらえるなら、やってみてもいいかもしれない。

「分かったわ、お願いいたします 」

にっこり笑ってクリスティーナ様と目を見合せた。
そことき、ドアが鳴ってエミリーが姿を現した。

「失礼致します。レオンハルト様がお越しです 」

「え? レオンハルト様が? 」


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