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13話 デート?
しおりを挟む「どうする? エリシア嬢が必要ないならこれは破棄するけど 」
レオンハルト様は手に持った許可証を両手の指先に持ち替えて破る仕草をする。
「ちょっと待って下さい! 」
レオンハルト様は思わず叫んでしまった私をニヤッと笑って見る。
ちょっと私! 止めてどうするのよ!
今ハッキリお断りしたじゃない!
「欲しい? 」
ニヤニヤと笑いながら許可証をヒラヒラと振るレオンハルト様。
くっ・・・たかが紙切れ一枚、だけど私のような者には本来一生手に入れることの出来ない紙。
「もう閉館だけど、どうする? 今日の続き読みたくない? 」
「レオンハルト様! ずるいです! 」
「なんと言われても、条件無しにはあげられないな 」
くーっ! くやしい! 完全に掌の上で転がされてる。
ここの本は旧聖書の事とか、世界の成り立ちとか、私の読んできた本には無い知識が沢山埋まってる。読みたい、読みたいけど、ここで従ったら運命はどうなんのかしら・・・
でも、私にその気が無ければレオンハルト様と恋愛に発展なんてことにはならないと思う。少しくらい大丈夫かしら・・・
「お話中失礼致します。そろそろ閉館の時間でございます。」
迷っていると、館長様が入って来て閉館を告げた。
「どうする? 」
レオンハルト様は許可書に手を掛ける。
「・・・・・・っ・・・分かりました。お受けします 」
「良かった、引き受けてくれてありがとう 」
私の言葉に、レオンハルト様はぱっと明るい笑顔で笑う。
負けてしまった。
私の意思ってこんなものだったのね、好きな物を前にするとこんなにも脆いなんて、私の意思は豆腐か何かで出来ていたのね・・・
「では私はこれで・・・ 」
とっても敗北感に苛まれながらも、今日はこれ以上この人と居ては不味い気がして立ち上がると、本を直しに向かう。
「その本持って帰ってもいいよ 」
「え? 」
「今日から持ち出しオッケーにしてあげるから、持って帰ってゆっくり読めばいい 」
「本当ですか? 」
それ、めちゃくちゃ嬉しい。
「うん、但し、夜更かしは厳禁、ちゃんと睡眠は取るように 」
「はい! ありがとうございます! 」
先生口調のレオンハルト様に、思わず大きな声で答えてしまった私を、レオンハルト様はくすくすと笑う。
「くくっ、うん、素直でいいね、はい、大事にしてね 」
そう言って許可証を私に差し出す。
「え? 今貰っていいのですか? 」
「うん、いいよ 」
私は少し驚く。
また前のパーティーの時のように、約束の仕事が終わってから渡されるものだと思っていたから。
「ありがとうございます 」
差し出された許可証を両手でそっと受け取ると、大事にそっと胸にあてる。これは一生の宝物だわ・・・
「エリシア嬢、喜びにひたっている所悪いけど、そろそろ出ようか、館長が待ってる 」
そう言われて扉の方を見ると、館長様が私たちを見て待っていた。時計を見ると、とうに閉館時間は過ぎている。
「館長様、失礼致しました 」
慌てて帰り支度をする私の隣で、レオンハルト様は私が持って帰る本の題名をさっと控えて館長様に渡していた。
その行動はレオンハルト様、さすが! と感心してしまった。
「すっかり暗くなってしまったね、送っていくから乗って 」
レオンハルト様は自分の馬車を指さして私に促す。けれど、私はそこまで懐柔されません!
「お気持ちありがとうございます。ですが、我が家の馬車も迎えに来ておりますので大丈夫です 」
そう言って当たりを見回したけれど、・・・あれ? まだ来てない?
「さっきこちらの馬車で帰るからって言って帰ってもらったよ 」
は?
うちの馬車を返した?
レオンハルト様はにっこり微笑んで私に手を差し出す。
「どうぞ 」
やられた・・・
そこまでするとは思わなかったわ。てか、そこまで私に執着する理由が分からない。
まぁ、深く聞いてどツボにハマる気は無いのであえて聞かないけどね。
「歩いて帰ります 」
「この暗闇を? レディ一人で歩かせる訳にはいかないよ、いくら市中とは言え夜は危ないよ? 」
つい歩いて帰ると言ってしまったけれど、歩いて帰るには結構離れている。
確かに、夜の町を貴族の娘が一人で歩くなんて、格好の餌になるでしょうね、さすがにそれは嫌だわ。
「・・・・・・分かりました、お願い致します 」
「喜んで 」
レオンハルト様は卒のない笑顔で私の手を取る。
それから家までの道中、いろいろと話しかけられるかと思ったけど、意外と何も話しかけられることも無く、レオンハルト様は窓の外を優雅に眺めるだけだった。
「今日はありがとうございました 」
「とんでもない、エリシア嬢とデート出来て楽しかったよ、ディアルド行きの件はまた連絡するよ、必要な物はこちらで用意しておくから安心して、じゃあ、おやすみ 」
レオンハルト様は私を送り届けた後、そう言うと元来た道を戻って行った。
デート? 何も話もしなかったのによく言うわ、ただの相乗りじゃない。
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