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㉕イルザンド王国へ
しおりを挟むミカとわたくしの結婚式が決まって数日、今日はイルザンド王国に旅立つ日です。
わたくしとミカの結婚式はイルザンド王国から帰ってから三ヶ月後に決まりました。
本当はもっと早くしたかったみたいなんだけど、隣国のエレオルト王国から王太子の結婚式があるので来て欲しいと招待があった為、エレオルトから帰国後になってしまった。
ミカが「俺の方が先に結婚したいのに・・・」と子犬のように拗ねていた姿は可愛かったです。
「俺は後で馬で追いかけて合流するから暫く会えないけど、気をつけて。」
ミカがわたくしの髪を撫でながら名残惜しそうに見送りをしてくれる。
「ええ、行ってきます。」
「お兄様、行ってきます!またイルザンド王国で会いましょうね!」
元気に話すアイリス様にミカが唇に人差し指をあててシッっと言う。
ミカはお忍びでイルザンド王国に行くことになっているので、周りは知らない。
「あ、ごめんなさい。行ってきますわ!」
アイリス様は口を噤んでから笑顔でミカに挨拶をした。
「行ってらっしゃい。気をつけて。」
わたくし達はミカに見送られて宮廷を後にした。
「旅は初めてだから楽しいわ!」
アイリス様はとても嬉しそうに窓の外を眺めている。
わたくし達一行は非公式な旅の為、馬車は王族専用ではなく、普通の馬車を使用している。
王族専用馬車は目立つので盗賊にも狙われやすいそうなので、敢えて普通の貴族のようにしている。
同行者はわたくしの侍女のミーナとアイリス様の侍女のカイラさんが馬車に乗り込み、護衛として6人の方が付いている。シド様も馬に乗って後ろから付いて来てくれている。
十日間の旅になるので、途中野営をすることもある。わたくしは以前帝国に入る時に同じ旅をしたのだけど、不便はあるけど、楽しかった記憶がある。
今回はアイリス様もシド様も一緒なのでもっと楽しい旅路になりそう。
「アイリス殿下、レイラ嬢、今日はこの辺りで野営をします。」
辺りが薄暗くなり始めた頃、シド様が、声をかけてくる。
帝都を出てから七日、今日は三度目の野営です。
「国境は超えたので明日にはちゃんとした宿に泊まれますよ。」
「やっとイルザンド王国に入ったのね!馬車にずっと揺られてるのはお尻が痛くて大変だわ。」
シド様の言葉にアイリス様が答える。
シド様に手伝ってもらって馬車を降りると、伸びをして深呼吸をしている。
「レイラ嬢、どうぞ。」
シド様が差し出してくれた手を取ってわたくしも馬車から降りる。
「ありがとう。」
この辺りの景色は見覚えがある。
確か、わたくしがルシリア帝国に入った時に通った場所だわ。
「ねぇ、シド様、この辺りに泉があると思うのだけど・・・」
「よくお分かりですね、ありますよ。」
シド様が即答する。
「少し汗を流してきてもいいかしら。」
さすがに野営も三日目になると、身体を拭くだけでは気持ちが悪い。前回もここで汗を流したのでここは安全なところだと思う。
「良いですよ。でも、ご婦人方は固まっていてくださいね。俺は近くで待機しているので、何かあったら呼んでください。」
「わかったわ。シド様ありがとう。」
わたくしは嬉しくてにっこり微笑むと、シド様が顔を赤らめて目をそらされた。
わたくし何かおかしい事を言ったかしら?
「アイリス様、あちらに泉があるので汗を流しに行きません?」
わたくしがアイリス様に声をかけると、アイリス様がぱっと顔色を明るくして喜んでくれる。
「ほんと?嬉しい!」
「ミーナとカイラさんも行きましょう。」
そうしてわたくし達は泉へ向かった。
木々の生い茂った先にある泉の水はとても澄んでいて、手をつけるととても冷たくて気持ちがいい。
久しぶりに真水にたくさん触れて気持ちもリフレッシュ出来た。
長旅に疲れていたアイリス様も元気が戻ったみたい。
衣服を整えてからみんなの顔色を見ると、疲れが飛んだような清々しい顔をしている。きっと、わたくしもみんなから見たらそう見えているのでしょうね。
そう思うとなんだか笑みが零れてくる。
そう思いながらシド様達が待つ街道沿いの野営地に戻ろうとした時、カイラさんの叫ぶ声が聞こえた。
「殿下!!」
その緊迫した声に、わたくしより先に戻り始めていたアイリス様を見ると、アイリス様とカイラさんを四匹の犬が囲っていた。
犬?・・・にしてはちょっと違う。鋭い目付きとキバ・・・あれは狼?!
「アイリス様!!」
アイリス様が危ない!
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