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64話 クラウス様の訪問
しおりを挟むクリストファーが出て行った扉を見ながら、僕は溢れる涙をそのままに、声を殺して立ちすくんでいた。
クリストファーが怒るのも当たり前だ。
僕は自分勝手に、ギルとクリストファーがくっついてくれたらっていう願望を押し付けようとしてた。
男の僕を好きになったギルだから、クリストファーが男だって分かったらクリストファーを好きになるかもしれないと思った。
僕が女だってわかったら、今まで通り接してくれなくなるかもしれないと思ったら、打ち明ける勇気がなくなった。
あれだけ、今度もし出会えたら、ちゃんと告白しようって決めてたのに、優しい腕に抱きしめられたら、あの優しさを失う事がとても怖くなった。
このまま男として生きてたら、ギルは友達で居てくれる。
だけど、そんなこと出来ないよね・・・クリスは怒って出て行ったから、ギルに本当のことを話すだろう。
そうなると、僕は女だって、ギルに知られてしまう。
嫌われる・・・
・・・・・・クリストファーとギルが仲良くしてたのに嫉妬したんだ。
だからあんなことを言ってしまった。
クリストファーもギルの事を好きになったみたいだった、ギルの事であんなに怒ったんだ、僕よりクリストファーの方がギルを分かってやれるのかもしれない。
「ふ・・・っ・・・・・・うっ・・・」
僕はバカだ。
自分がこんなに意気地無しだったなんて・・・
・・・嫌われてもいい、せめて自分の口から自分が女だって言いたい。
僕は涙を手の甲で拭いながらギルの元へ向かう覚悟を決めた。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう?
そっとドアを開けてみると、そこにはクラウス様が立っていた。
「クラウス様? どうしたんですか? 」
「レティシア・・・泣いていたのか? どうした? 」
クラウス様は僕の顔を見るなり心配そうに問いかけてきた。
目が赤くなってたのか・・・
「なんでもないです。」
僕はクラウス様に心配させないようににっこり笑ってみせた。
「・・・ク・・・レティシア、少しお邪魔してもいいかな? 」
「? どうぞ? 」
なんだろう? クラウス様の表情が真剣だ。
何かあったのかな?
僕はとりあえずクラウス様を部屋に招き入れた。
「レティシア、男性を自分の部屋に招き入れるなんてしちゃいけないよ。」
来たのはクラウス様なのに、僕がクラウス様を部屋に入れてドアを閉めると、クラウス様が僕に注意してきた。
「え? 」
クラウス様は何で急にそんなことを言うんだろう?
僕は今まで男として過ごしてきたから、こんな場面は沢山あったし、クラウス様と同じ部屋で寝た事もある。
そんな事言ったらギルとはずっと同部屋だった。
「クラウス様、今更ですよ、僕クラウス様が危険だなんて思ってないし、何言ってるんですか? 」
笑いながらクラウス様を見上げると、クラウス様が突然僕を抱きしめた。
「? クラウス様? 」
「レティシアは私の事を信用し過ぎだよ、私も男だと認識してる? 」
「え? 」
クラウス様はぎゅっと抱きしめた腕を少し弛めて、僕の顔を見つめる。
僕が顔を上げると、クラウス様の綺麗な顔がすぐそこにあった。
「レティシアが私を部屋に入れたんだから、何をされても文句は言えないよ? 」
「なっ、何言ってるんですか! 」
クラウス様急にどうしちゃったんだろう?
間近で見つめられると恥ずかしい。
「・・・さっき、ギルの事で泣いてたんだろ? 言わなくてもわかる。」
クラウス様は僕の目じりの涙を優しく指で拭う。
まだ涙が残ってたんだ・・・
「・・・何でギルの事だって分かっちゃうの? 」
「分かるよ、ずっとレティシアを見てきたんだから、何があった? 」
さすがクラウス様、何でもお見通しみたいだ。
「・・・・・・ギルの事で、クリスと喧嘩しちゃった。」
「クリストファーと? 」
「うん、僕が女だって打ち明けるのを戸惑ってたら、クリスに怒られちゃった、クリスもギルの事が気になってるみたい。だから、クリスならギルも好きになるって言っちゃったんだ、そしたら急に怒り出して、出て行っちゃった。」
「それ、本気で言ったのか? 」
僕の言葉に、クラウス様は呆れた顔で僕を見る。
「うん・・・さっき、ギルとクリスが仲良さそうにしてるのを見てヤキモチ妬いちゃった・・・だから、あんなこと言ってしまったんだ・・・」
ギルの事を思うとまた涙が溢れそうになって、僕は俯いた。
すると、クラウス様がまた僕を抱きしめる。
「レティシア・・・ギルなんか辞めて私にしないか? 」
「え? 」
クラウス様の言ってる意味がわからなくて、クラウス様を見ると、クラウス様は僕の頬を片手で包むように持って僕の目を見つめる。
「レティシア、ここまでして私の気持ちに気付いてないとか言わせないよ。」
そう言われて、僕は顔が火照るのを隠すように目を逸らした。
「な、なんの事? 」
「レティシア、私は君の事を愛してる。ギルが居なくなって落ち込む君に打ち明けるのはずるい気がしてずっと言えなかったけど、ギルが生きてた。なら私もレティシアに本当の気持ちを伝えたいと思ったんだ。」
クラウス様はそこまで言って、少し躊躇するように僕を見る。
「正直、私の気持ちなんて話したら、レティシアを困らせるだけだって分かってる。だけど、言わずにはいられなかった・・・私ならレティシアを悩ませたり、不安にさせたりしないよ。 」
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